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『 大丈夫だよ。 私が絶対に取り戻してみせるから。 』
彼女はそう言った。
まだ会って数日しか経ってないのに。
貴方は何年も一緒にいるとか言ってくるの。
私は知らない。 覚えてない。
でも見て分かる。 貴方は凄い人だって事ぐらい。
だから私は待ってる。
貴方といた日々を、取り戻す為に。
「 えー… 大変申し上げにくいのですが、 」
「 頭を強く打った衝撃でしょうか。 」
「 今までの記憶が丸々失われている状態です。 」
『 ……記憶喪失、ですか。 』
「 いつ治るか分かりませんし、100%完璧に治す方法も分かりません… 」
「 今はとにかく不安でしょうし、傍にいてあげてください。 」
「 もしかしたら、それで記憶が戻るかもしれません。 」
『 …分かりました、 』
「 後、治らない内は定期的に病院に来るようにしてください。 」
「 脳の状態を確かめる為に。 」
『 ありがとうございます。 』
「 気をつけてー。 」
目覚めたら白い天井が広がっていた。
大きなベッドに1人ぽつんと。……って訳では無く。
知らない女性がこちらを覗き込んでいる。
誰だろう。 知り合いかな。
私は考えた。
だけどまるで頭が空っぽな感じがして。
貴方のことは分からなかった。
『 先生が、体には問題は無いから、退院していいって。 』
『 荷物はまとめておいたよ。 』
『 大丈夫 ? 』
そう言ってきた。
誰かも分からない人と帰らなきゃいけないの ??
そんな疑問が頭をよぎっていった。
『 …そうだった、まだ言ってなかったね。 』
『 私は楽。君の姉だよ。 』
『 君の名前は舞彩。私の妹。 』
『 君はね、記憶喪失なんだって。 』
『 びっくりしたよね、いきなり話しかけられて。 』
『 君だけで帰るのは不安だから、私も帰りだったし、一緒に帰ろうかなって。 』
「 …帰り ? 」
『 そう。 』
『 私ね、実は音楽活動をしてて。 』
『 練習の帰りだったんだ。 』
『 母さんに言ったらすぐ帰るって言ってたから、家に着いたら母さんにも会えると思うよ。 』
「 …そうなん、ですか。 」
『 心配…だよね。 』
『 でも、私も母さんも、嫌なことをする人間じゃないから。 』
『 安心して。 』
「 ……はい、 」
どう返事するのが良くて、どう思えばいいのかが分からない。
私はただ、『 はい 』と返事をするしかなかった。
楽さんと出会って数週間が経った。
少しずつ、少しずつ。 記憶が蘇る感じがしてきていた。
記憶がない内も、優しいおかげで慣れることが出来た。
楽さんの練習を見たり、母親と料理を作ったり。
前の自分は、こんなに幸せだったんだな、と思った。
そうしたらいきなり、楽さんからの告白。
楽『 これ、今週末のライブチケット。 』
楽『 良かったら、母さんと来てくれないかな、 ? 』
楽『 …聞いて欲しい曲があるんだ。 』
舞彩「 行く !! 行きます !! 」
舞彩「 楽さんが歌う曲なら、なんでも聞きます !! 」
舞彩「 私、楽さんの声も、楽さんのギターも大好きです !!! 」
楽『 ……嬉しいな。 』
好きだったから。
優しい楽さんの事を心から信頼してたから。
貴方のお陰でここまで来れたから。
その誘いが今までで1番嬉しかった。
ライブ当日。
昨夜は楽しみすぎて眠れなかったから少しウトウトしている。
私は母と1番前の列に招待されていた。
眠い目を擦ってパチリと開く。
そこに立っていたのは楽さんの姿だった。
楽さんは私にニコリと笑顔を送ってくれる。
ライブが始まる。 観客の盛り上がりが感じられる。
私は見とれていた。 だけどそれだけじゃない。
何処か、懐かしい感じがして。 目が離せない。
その時。
頭の中で様々なものがぐるぐると回っていった。
幼少期だと思われるもの、楽さんのライブに行ったと思われるもの。
あの日の、事故の記憶。
全てが戻ってきた。
忘れてしまった、記憶達が。
「 ………もう、懐かしいなぁ… 」
「 その曲は前に、2人で作った曲だよね。 お姉ちゃん。 」
いつの間にか、私の頬には涙がスゥっと通っていた。
舞彩「 お姉ちゃん、凄くかっこよかった!!! 」
楽「 ありがとう。 」
楽「 ……記憶、戻ってよかったね。 」
舞彩「 うん! 」
舞彩「 あの曲は忘れちゃいけない、2人の思い出の曲だもん。 」
楽「 そんな……大袈裟だなぁ、笑 」
そう。忘れちゃいけない。
忘れたくなかった。
私と大好きなお姉ちゃんの曲。
大好きなお姉ちゃんとの_______
思い出の曲。
な、はずなのに。
あのライブの後、姉が……
楽が、死んだ。
突然の出来事だった。
居眠り運転をしていたトラックに轢かれて。
私とお姉ちゃんとの記憶は、思い出は。
あのトラック一台に、
あの瞬間に、
途切れてしまった。
あまりに突然なことで受け入れられない。
姉が居ない日々がとてつもなく苦しかった。
死にたくなった。 消えたくなった。
どうしても、帰ってきて欲しかった。
でももう居ない。
私は決めた。
姉を超える、皆を救えるバンドを作り上げて、
世界で、この曲を届けることを。
姉が出来なかったことを、私と、姉のバンドの皆で叶えることを。
病んでたって姉は帰ってこないのだから。
齢16で死んだ彼女の夢を、叶える為に。
私は前を向いて、姉のように、頑張る。
とは言っても、現実は甘くないようで。
14の時に誓った夢を、25になった今でも叶えられていない。
今は会社員件ギターボーカル。
だけど想像を超す音痴で、まともに歌えるようになるまで5年も経ってしまった。
諦めてはいない……半分くらい。
でも、挫けずに着いてきてくれているバンドメンバー達。
絶対に叶えてみせる。
舞彩「 その前に残業を終わらせるのとライブをやらなきゃな…… 」
帰り道、
いつもと変わらない景色を眺めていると、突然と歌声が。
私は即座に走った。
間違えるはずのない、あの曲。
忘れるはずもない。
姉と作った、あの曲。
でも疲れ切っていたせいで直ぐに走れなくなり地面に座る。
聞き間違いだったのかなぁ……と、
アパートに帰ろうとした時。
また聞こえた、あの曲。
それと同時に出てきた、人の影。
舞彩「 ……お姉、ちゃん…?? 」
その影の持ち主は小さな女の子。
人違いだったかな。
でも、よくよく見ると姉にものすごく似ていて、
ボロボロな格好。
ましてや、こんなに若い子は今の時間なんざ出ていいはずが無い。
咄嗟に声をかけた。
舞彩「 ……あ、ねぇねぇ、 」
舞彩「 今、夜の10時だよ? 」
舞彩「 家に帰らないの? 」
「 ……家にいたら怒られる。 」
「 怒られるの面倒だから。 」
「 ……もしかして、さっき歌ってたの、聞こえた? 」
舞彩「 え、えぇーっと…… 」
「 …隠さなくていいよ。 聞かれても恥ずかしくないし。 」
舞彩「 ……ねぇ、あの曲、好きなの? 」
「 ……まぁ、なんとなく? 」
舞彩「 …き、君……名前は? 」
「 ……楽、 」
聞き間違いかなって。
でも、喋り方も、見た目も、名前も。
全部一緒。
唯……子供だけど。
これってよく漫画で見る……生まれ変わりってこと!?
ますます信じられない……
楽「 …親、厳しいから。 」
楽「 多分そろそろ家に入るの禁止される。 」
楽「 私の事嫌いなんだって。 」
舞彩「 ……そんなことない、 」
楽「 ………え、? 」
舞彩「 あっ、ごめんね、。 」
舞彩「 だけど、君と似た人を知っててね。 」
舞彩「 その人も、自分のことそう言ってて。 」
舞彩「 ……君はいい子だよ。 」
楽「 ……そう、なの? 」
舞彩「 ……ねぇ、お姉…………楽ちゃん。 」
舞彩「 一緒に、住まない? 」
そうして私は、もう一度、会うことが出来た。
舞彩「 もう失いたくないから、 」
舞彩「 お姉ちゃんみたいになって欲しくないからさ。 」
舞彩「 外には出ないで。 」
舞彩「 会っていいのはバンドメンバーだけ。 」
舞彩「 ごめんね、大の大人が泣いちゃって。 」
舞彩「 でもね、凄く嬉しいの。 」
舞彩「 また会えて、本当に。 」
舞彩「 ……私の事、応援してくれる? 」
楽「 ……うん。 」
楽「 絶対応援する。 絶対に。 」
舞彩「 …ありがとう。 」
舞彩「 ……………愛してるよ、お姉ちゃん。 」
その日に気づいた。
これは、……
私にとっての、『 姉 』は、
どんな姿になっても愛したい、
堕としたい。
私の愛って、間違ってるの?
# コンテスト一次創作部門