「…最悪だぁ」
「おやおや、まちこさん?アレだけ言っといてこのザマですかぁ?」
「うざ過ぎるッ…!」
遡ること三十分前。
私達は罰ゲームを賭けた真剣衰弱をしていた。
結果は惨敗、笑えない。
恋人であるせんせーは全く持って容赦せず、私は無様に負けたわけだ。
「あ~もう何?早く決めて」
「いや辛辣すぎやろ」
俺だって頑張ったんだから、とぶつぶつ文句を垂れるせんせーを横目で睨む。
そんなところで頑張らないで欲しい。
「何でも、って言ってたよな」
「…気のせいじゃない?」
せんせーはにやりと笑ってこちらを見た。
絶対碌でもないことに決まってる。
「俺、やってみたいことあるんやけど」
ペットプレイって知ってる?
知ってるも何も、BLや二次創作で大変人気のあるコンテンツ。
そんなの私が出来るわけがない。
「っ、考え直して」
「ダ〜メ」
とろりと瞳を溶かしたせんせーが、優しく梳くように髪を撫でる。
「自分から言い出したんやから、責任持ってやらんと」
先に寝室行ってて、と部屋を出た彼に不安しかない。
それも久しぶりのせんせーとの…
私は内心嫌だと思いながらも、のろのろと寝室へ向かった。
「やだやだやだ…っ!」
「暴れんなって、ほら」
犬耳のカチューシャは分かる。
でも首輪はダメだ。
「せんせー昔犬飼ってたって言ってたよね!?犬用のなんて着けないからね!?!」
良かった、良い口実が出来たとほくそ笑む私に、せんせーはいい笑顔で言い放った。
「ああ、これまちこちゃん用に新しく買ったやつやから大丈夫」
「私用ってなに!?!」
恐る恐る触れればなんと、リードを引っ張ると締め付けられるタイプのものだった。
これ絶対SMプレイのやつだよね???
「ほらほら、渋ってると長くなるから」
すぽりとカチューシャを嵌められ、私は不服ながらも首輪をつけた。
「めちゃめちゃ似合っとるで」
せんせーが愛おしそうに甘く言った。
「もう、さっさと終わらせよ…ん゛っ」
急に首を締められ、四つん這いのような格好になってしまう。
「すっごいいい眺めだわ」
くそ、調子乗りやがって。
そう思いながらも身体は素直に羞恥を感じ、目に涙が滲む。
そんな私を見て、さすがに可哀想に思ったのかせんせーはある提案をした。
「まぁシラフじゃ恥ずいやろ。一旦酒入れる?」
「っ、お願い…」
頷いたせんせーがリビングから持ってきたのは、私の買った缶ビールだった。
カシュッとプルタブを引く音が響く。
「え、っなにしてんの、!?」
せんせーは自身の片手を皿の形にすると、そこへアルコールを流し勝ち誇ったように笑った。
「犬はコップ使わんやろ?」
最悪だ。
これは騙されたと言っても過言ではない。
言わなければよかったと後悔しても時すでに遅し。
意を決して低い位置にある手に近づいた。
舌を出して、ちろちろと舐めるように飲み込む。
舌先が彼の手に触れた。
それを上からせんせーが見つめているのが分かった。
これっぽっちで羞恥がなくなるはずないが、これ以上は耐えられない。
「も、いらない…」
「そぉ?」
まだ飲んでいいのに、とぼやくせんせーへいつか絶対に復讐することを誓った。
コトリとベッドのサイドテーブルに缶を置き、せんせーが私に向き直る。
「じゃあまちこちゃん、服脱いで」
「えっ…」
普段はお互いが盛り上がり、暗い部屋なおかつ羞恥が少なくなってきた頃にせんせーが脱がすのだ。
「下着はそのままでえーから。それとも脱がして欲しい?」
「っ、だって電気、」
「犬なんでしょ?」
完全に折れる気がないせんせーを前に、私は震える手でボタンを外す。
その間も静かに見つめているせんせーに、視姦されているようで身体が疼いた。
最近、どうにも自分がMになっている気がする。
これも全部しろせんせーのせいだ。
「恥ずかしい?」
脱ぎ終わった私に、彼が優しく言った。
「わ、かってるくせに…」
ぎろりと睨むがそんな視線をものともせず、彼は私に手を差し出す。
「まちこちゃん、お手」
「…っ」
声にならない声で非難するが、彼は笑っているだけだった。
「…わん」
黙って手を乗せればもう片方で頭を撫でられ る。
せんせーが服を着ているせいで、ひとりだけ下着の状態が恥ずかしくて仕方がない。
「キスして」
私からキスしたことがないのを根に持っているのか、射抜くようにこちらを見ながらせんせーが言った。
ゆっくりと彼に近づき、唇を軽く重ねる。
「…違うだろ」
「っ、」
不満そうにリードを引っ張られ、私は羞恥で滲む視界でもう一度せんせーに口づけた。
薄く開いた唇に舌を捩じ込む。
それでも、経験がなさすぎて小さく舌を動かすことしか出来なかった。
「んっ、」
突然ぬるりと舌が入り込んだ。
器用に上顎を撫で、柔いところをじわじわと攻めたてられる。
いつもより激しいキスに、思わずせんせーの胸板を押す。
「っは、長いから…ぐ、っ!?」
ジャラと鎖の音が鳴ると同時に首が締まる。
「犬は喋らんやろ。まぁどうしてもって言うなら、なんて言うか分かるよな?」
がしりと片手で顎を掴まれ、無理矢理目線を合わせられる。
羞恥で顔が熱い。
「ぁ、やめてくだ、さい…ご、ご主人様ぁ」
きゅう、とせんせーの瞳が細められた。
これはマズイと思う間もなく、押し倒される。
「ごめん、俺これ我慢できんわ…!」
くっっそ興奮する。
いつもより乱暴な手つきのせんせーが、私にそう言った。
コメント
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リクエストに応えていただけるなんてとても嬉しいです!! ほんとにありがとうございます!
逆バージョンも書いてくれるの天才です。