「黄ー…って、どうした?」
机の上に大量に積み重ねられた本にクラスメイトは目を瞠る。
「都市伝説…特集?お前こんなの興味あったっけ?」
「まぁね」
再び目線を本に移しページを繰る。
「…あの狐について探してんの?」
「ばれた?」
どの本も全て狐についてのページで開かれているからそりゃ気づかれるか。
「あの噂が1番有名だもんなぁ。俺が小さい頃、ばあちゃんがよく話してくれたな…」
「…っ!そのおばあちゃんなんて言っ…」
「狐の話はもういいよ…っ」
俺を無理やり神社に連れていった友達が話に割り込む。俯きぽつりぽつりと話始めた。
「あの噂は本当だった…俺見たんだよ…。最近まで夢かと思ってたけど…」
「じゃあやっぱりばあちゃんの言ってたことも本当なのかもな」
「男の子の長寿を祈ってお参りする狐」
「長寿…?」
そんなのどの本にも書いていなかった。もしかしたら見落としているのかと思い片っ端から同じ項目で開かれた本に目を通す。それに気づいたクラスメイトが俺に声をかける。
「本には書いてないと思う。俺のばあちゃんの話だから。」
「…そっか。他になにか言ってた?」
「悪い…だいぶ昔の話だから覚えてないわ」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「またなにか思い出したら伝えるよ、じゃあそろそろ予鈴なるから」
「うん、じゃあね」
長寿を祈ってお参りする狐。頭の中で点と点が線になる。あの時、初めて狐と会った時のことを思い出す。
「…赤い鶴の折り紙」
たしか鶴は長寿を象徴する鳥というのをどこかで目にしたことがある。やっぱり辻褄があう。
「他になにか情報があれば…」
図書室から借りてきたありったけの都市伝説についての本を机に広げる。今日の夜狐に話してみよう。お参りする理由を。
「おーい、狐ー?」
「はーあーい」
壁からひょこっと頭だけを覗かせる狐。ゆっくり此方に歩み寄り遅いよと不満気な様子をみせる。
「ごめんごめん、色々調べてて」
「黄さん来てくれないかと思ったよ」
ああ、まただ。狐に名前を呼ばれる度にまたあの感情が蘇ってくる。不思議な感覚…。
「どうしたの、なんでそんなに俺の顔みるの」
「えっ、見えてるの?」
「うっすらとね、じゃないと歩けないから」
それも確かにそうか…
「お面の中の顔、みたい?」
「…へ」
「いいよ、黄さんなら」
そう言い狐は俺の手をそっと握る。お面の横でゆらゆらと揺れる複雑に結ばれた赤い糸を俺の手に掴ませる。
「ここ引っ張ったらお面が外れる。」
自分の心臓の音がうるさくて狐の声が聞こえずらい。少しでも手を動かせば狐の顔が見える。その事実に手が震え呼吸も不規則になる。
「……っ」
ぺちっ…と狐の頬を軽く叩いた。
顔こそ見えないがきょとんとした雰囲気が感じれた。
「…見ないんだ」
「なんとなくね」
「まぁ引っ張っても糸は解けなけどねっ」
ほら、と狐は自身の糸を引っ張って見せた。なんだ…と酷い安堵感が全身を駆け巡る。
「…」
どうしてこんなにも安心しているのだろう。もしほんとうに見えていたらどうなっていたのだろう。
「はぁ…無駄に緊張したわ……」
その場に座り込み呼吸を整える。
「無駄ってなんだよ無駄って」
「なんであんなことしたん?」
「反応がみてみたくて」
「そんな事ならもっといいやり方があるやろ…」
「黄さんこそなんで糸を解こうとしなかったの」
「…わからん。なんとなく嫌な予感がした」
「見たらもう会えなくなる気がして」
隣で星空を見ている狐に目線を送る。それに気づいたのか狐も此方に目線を送った。
「嫌な予感か、まぁ見せるつもりないけど」
「それはそれで悲しいな…」
ふふっと狐が肩を揺らして笑うと鈴の音が優しく響いた。
「…あっ、そうだ狐に言うことがあるんだった」
「なーに?」
「この前、お参りする理由が分からないって言ってたでしょ?」
「もしかして、男の子の長寿のためじゃ…」
「…男の子の長寿……っ?」
鈴の音にかき消される程小さい声。震えているような怯えているような声色に俺は何か変な感覚がした。
「その赤い鶴と関係が……」
「はっ…はぁ……ぅ…」
「ぇ…だ、大丈夫?!」
息がとにかく荒い。肩で息をしながら俺の膝の上に頭を置き弱々しく丸まった。
「…はぁ…はぁ…っ…耳鳴りが…」
「ゆっくり呼吸して…大丈夫」
優しく頭を撫で背中をさする。こんなに弱った狐を見たのは初めてで驚きが隠せなかった。落ち着くまで狐の手を握ってあげた。
「…はぁ…ごめん、落ち着いた」
「俺もごめん、いきなり話したから…」
「ううん大丈夫」
「…思い出したよ」
ぐったりした身体を起こして俺の方に向き直り狐は言った。
「この赤い鶴の折り紙。貰ったんだ…」
「入院中の…男の子に…」
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病院の男の子死んで転生した説