●knmctuyの場合
僕たちの出会いは、奇跡的な偶然だった。彼は、2000年以上生きる龍で、僕は、たった1週間しか生きることができない蝉だった。生きてきた時間が違いすぎる、それでも僕達は互いに惹かれあっていた。
出会った時の事は今でも鮮明に覚えている。たった数日前のことだから。僕は空を飛んでいる時に大きな竹林を見つけた。人も動物も居ない静かな場所だった。少し休憩したかった僕は竹林の中へと入っていった。そして、彼の住む家を見つけた。彼は僕を見つけると、驚いた表情を浮かべ、それでも「お客が来るなんて久々っスねぇ」そう言って僕を歓迎してくれた。
僕と彼は相性が良かったのかもしれない。僕達はすぐに打ち解けて、まるで昔馴染みの様に話を弾ませた。
そんな会話の1つで、何故こんな所に住むのかと聞いた。龍の主食が何かは知らないが、こんな場所では何をするにも不便であろう。
彼は「……あー、俺生き物とは、あんまり関わらないように生きてるんっスよ」と言った。理由は分からないけれど、僕は特別なのかもしれない。そう思うと、今までに感じたことの無い感情が心の奥底で生まれた気がした。
それから毎日僕は彼の家へ出向いた。有る日は手土産を持って、有る日は泊まったり。
彼は家の裏にあった向日葵畑を見せてくれた。大きく笑うように咲いている向日葵は、周りを明るく照らしてくれる彼のようだった。「向日葵は太陽を象徴する花なんだぜ!」なるほど、だから君と似てるのかな。そう彼に伝えると顔を真っ赤にして照れていた。
林を抜けると、月が綺麗に見える崖があった。僕は月と言うものを初めて見た。太陽の光を受けて輝く月は、太陽とは違った美しさがあった。「綺麗だね」彼は何故か顔を赤くしてそう言った。「そうだね」と言うと求めていた答えではなかったのか、彼は一瞬拗ねたような顔をした。
他にも沢山のことを体験した。お菓子、料理、花札……数えだしたらキリがない程だ。生きることはこんなにも楽しいんだと彼は僕に教えてくれた。
僕の体に不調が出始めたのは、彼と出会って5日後の事。朝、目が覚めて最初に思った事は「身体が重い…?」その時はそんなに気にならなかった為、いつもより少し時間をかけて彼の家へと向かった。
その日は帰るのに必要なの体力が戻らなかったから彼の家に泊まらせてもらった。
出会って6日目。僕は明日で死ぬんだな、と分かってしまった。明らかに昨日よりも身体が動かないのだ。昨日まで出来ていた事が出来なくなっていた。立ち上がるのすら覚束無いから彼に手伝ってもらって、月がよく見えるあの場所に座った。もう1人では座れないでしょ、と彼が背もたれになってくれた。
「……明日死ぬんですねぇ…」死ぬのが怖い訳では無い。そういう運命だと言うのを幼い時から言われ続けた。でも、彼を残して死んでしまうのは何とも言えない気持ちである。
「────tyさん知ってるか?遠い遠い国の蝉は不死の存在なんだぜ。だから、大丈夫っスよ。大丈夫」彼は僕を慰めるようにそう言い、頭を撫でてくれた。
「じゃあ、生まれ変わったら僕は不老不死になるよ。寿命を気にしないで、来世もgっくんと一緒に過ごしたいな」そう言うと、僕の頭を撫でていた彼の手が止まった。不思議に思って彼を見た。
彼は、泣いていた。大粒の涙をボロボロと零し、目元を赤く腫らしていた。その姿は、僕の何万倍も生きる龍だとは思えなかった。
「え、gっく、」「っ、だから、出会いたくなかったのにっ…!…仲間も、友達も、家族もみんな、みんな死んでっ、もう残されるのは嫌だから、っ」
ああ、そういう事か。彼が生き物を拒む理由はここにあった。彼と彼を取り巻く生き物には明らかな寿命の差があった。彼は優しいから、きっとその仲間達のことを片時も忘れる時は無かっただろう。
1人残される悲しみをもう二度と味わわない為に、彼はこの林にひっそりと暮らしていたんだ。
必死で泣きじゃくる彼の顔を見ながら優しく頭を撫でる。「大丈夫だよ、gっくん。僕は必ず君を見つけるから、ね?」
君の為ならば、罪を背負っても敵わない。そう伝えると、彼は「じゃあ来世は俺と一緒に罪を償おう」と言って僕を抱きしめた。
7日目の朝。目も見えないから耳に入ってくる音しか分からなかったけれど、君が隣に居たのは分かる。そして優しく口付けをして「────いしてる」そう呟いた事も分かる。なんて言ったの?なんてもう聞けない。よく回っていた口も、もう動かなくなってしまった。でも大丈夫。きっと君が伝えたいことは僕が君に伝えたいことと同じはず。だって、僕は君のことが────
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