江戸さんと日本くんと日帝さんのはなし
昔からこの子は少し変わっていた。
……すまない、本当はかなり変わっていた。
そもそもの話、価値観が違うのだろう。海も、空も、こんなことはしなかったのに。
この子……陸だけ、異常な行動をするのだ。
「ちちうえ、見てください! 野蛮人をやっつけましたよ!」
野蛮人。私たちは、白人をそう呼んでいた。
「……陸、人を殺してはいけないと言っただろう?」
「え……でも、花も踏んでませんし、もう虫も殺していません。言いつけは守っています。それに、こいつは我が国民を侮辱したのですよ? 殺されて当然ですし、ちゃんと苦しめて殺しました。」
「はぁ…………、、そういう時はまず話し合うんだ。分かるかい?」
「………………理解できませんよ。バカはどこまで行ってもバカで、私の話は聞きませんし、理解できるほどの脳みそが詰まってるとは思えません。」
「ん”〜………とにかく、そうやってすぐ殺す癖は直ぐに直しなさい。」
「はい………」
開国したてで、怖い思いをさせたのかもしれない。
陸のおかしな行動がこれだけだったら、そう思えたのだろう。
また亜米利加殿に頭を下げなければいけない。きっと、そこに転がっている白人も亜米利加人なんだから。
めんどくさいと思いながら、愛息子の将来への心配が積もっていった。
心配が確信に変わったのは、あの時。
戊辰戦争であの子と顔を合わせた時。
心底おかしそうに私へ刀を振るう彼は、私の知っている息子ではなかった。
「陸にぃ、僕納得してないよ……わざわざ父さんを殺す必要はあったの?」
「お前おかしいぞ……いや、昔から思ってはいたが。倫理が欠如している。」
何がおかしいのか。私からすればお前達の方がよっぽど変わっている。
そもそも、古い国の化身など死んで当然では?
口走ってそんなことを言ってしまったら、兄弟から軽蔑の目を向けられた。
「……ッッ、きっっっっしょくわるい!!!! 金輪際関わらないで!!!」
「流石に頭を冷やせ、陸。もし心からそこまで思っていたのなら、どの国からも相手にされなくなるぞ、頑固者。」
うるさい。そもそも頑固者とはそっちだろう。
私の作戦にもあまり乗り気ではなかった兄弟。
こんなにも完璧で、列強に上り詰めるための作戦。
非合理的すぎて反吐が出る、、、。
「………というのが、私と兄弟の仲に亀裂が入った時だったな。」
「Oh……………I see. お前最低だな。」
「この話をしたら、皆がそんな反応をする。」
「当たり前だろ。そんな日帝chanでも愛してるけど。」
「……貴様の方がトチ狂ってるな。」
第一次世界大戦の連合会議が終わり、会議室から皆が出て行った。が、米帝だけは出ていかなかったのだ。一体どう言う風の吹き回しなのだろうか、私と話がしたかったらしい。
正直に言ってしまえば家に帰りたい。愛しの息子、日本が1人で家に待っているのだ。
きっと寂しがっている。
「……もうそろそろ帰ってもいいか?」
「えー、つまんねーの。オレもっと日帝と喋りたい!」
「くだらん。家に待ってる奴がいるんだ。寂しがってたらどうする。」
「…………は? 嫁?」
「息子だ馬鹿野郎。」
私に嫁、ましてや恋人なんているわけ無いだろう。
今までも、これからも息子一筋だ。
「別にいいけどさぁ…………あ、それならオレも一緒に行きたい!」
「………は?」
「オレも日帝の家に行きたい!」
「……それならまた今度考えておくから…。」
「ソレ、日本人の”no”って意味だろ? 今日行きたいんだ。」
「……………嫌に決まってるだろう。」
「それでもオレは着いていくぞ。」
「…………」
「……………✨✨✨✨」
「………分かったから、その子犬のような目をやめろ。気持ち悪い。」
「ヒドイッッ!」
面倒臭いことになった。
日本にはなるべく合わせたくなかったんだが、、、。
「ただいま。日本。」
「……! お、おかえりなさい! お父様!」
「あぁ。いい子にしてたか?」
「……はい。あの、差し支えなければ伺いたいことがあるのですが……そちらの方はご友人でしょうか?」
「いや、ただの他人だ。」
「おいおい………そこは”戦友かつ恋人”だろ?」
「黙れ。前者はともかく、後者はなった覚えもない。なんなら一緒の戦地に行った記憶すらないがな。」
「えぇと………とにかく、ご飯を作ったのでよければ召し上がってください。」
「おぉー! すげぇ! ありがとな! お前まだガキなのに偉いな。」
「…………ありがとうございます。」
「さっさと入るぞ、米帝。」
アメリカさん。彼はそう名乗った。
お父様は言ってくださらない、”ありがとう”。
そんな言葉、いつぶりに向けられただろうか。幸せでいっぱいになってしまったが、お父様から睨まれてしまった。
まぁ、今日は殴られなかった分だけマジだろう。
アメリカさんがいたからか、怒鳴りつけられることもなかった。
僕からしたら少々味気ない気もするが、遠慮しているお父様も美しい。
どの国よりも顔が良く、瞳は真っ赤な照りつける太陽のように輝いている。と同時に、近づきすぎたら殺されてしまうような危うさも兼ね備えている。
僕はかなり面食いな方だろうと自負している。
なんてったって、あの異常者の息子であり、それにどんなことをされようが愛を向けるんだから!
「……で、相談って?」
「いや、相談と言うほどのものではないのだが……その、な…」
「相談じゃねぇか。現在進行形で悩んでるし。」
「……………ダメだったか?」
「マジでその顔やめてくれ。心臓とかいろんなところに刺さる。」
日本が寝た後日帝に呼ばれたと思えば、何やら深刻そうな顔をしている。
こいつは自分の顔がいいことを自覚しているから、時折子犬のような表情を作る。くそぅ、かわいい。
「何、大した問題では無いのだが。」
「お前が悩む時点でまぁまぁでかいぞ。で、内容は?」
「うむ………ただ、息子との接し方が分からんのだ。」
「……………What? いや、楽しそうに話してたじゃねぇか。」
「今日だけだ。普段は、あいつは怯えたような表情をしている。」
「ん”〜? そんな風には見えなかったぞ?」
「それは……今日はお前が居たから、日本も安心したのだろう。」
「安心? どういうことだ?」
「あ…………の、その、わたし、日本に、」
「……ゆっくりでいいから、日本語初心者にも分かるように説明してくれよ? 英語ならwelcomeだけど。」
「……すまない。私は…日本に、暴力を振るってしまうことが多々あるのだ。」
「Wow.」
「手加減が出来なくて……別居することも考えたのだが、日本が断固拒否してな。」
「まさかの。」
「いくら私だって、成長はする。子供に対して暴力を振るうことはよくないことだと分かっているんだ。次こそはやめようと思っても、繰り返してしまう。日本にその度に謝罪してはいるのだが……いつか、あいつが壊れそうで怖くてたまらない。」
「激重話題だな」
「兄弟に頼み込んで日本を預けてもらい、無理矢理別居もしてみたんだが……日本が暴れて兄さんを刺してしまったんだ。箸で、プスっと。」
「プスっと………」
「流石にこれ以上他人へ迷惑をかけるわけにはいかないだろう? だから現状進展なしなんだ。なんとか日本と別居したいんだが、いい案は無いか?」
「重すぎだろ。てか、そんな話俺にされても。」
「……おとうさま? 僕と離れたいのですか?」
「……ッッッに、日本!? 寝てたんじゃ……」
「すみません、喉が渇いてお水を飲みに起きてしまいました。」
「………そ、そうか、もう遅いから寝た方がi」
「どうしてですか? 僕はこんなにも貴方を愛していますよ?」
「にほん、いや、そんなつもりで言ったわけでは」
「ですが、離れたいと思ったのもまた事実でしょう? アメリカさんに誑かされたのでしょうか。あぁ、可哀想な僕だけのおとうさま。」
「………おい、お前の息子大丈夫なのか?」
「大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ。」
「おとうさま、お話しましょう。僕はどんな暴力でもおとうさまからの愛でしたら喜んで受け取りますよ?」
「だから、その暴力を無くそうとs」
「何故なくす必要があるのですか? 僕は現状に満足していますし、むしろ物足りないくらいです。」
「日本、一回冷静に…」
「なっていますよ。僕は至極冷静です。混乱しているのはおとうさまの方では? あぁ、怯えないでください。あなたは笑っている方が美しいですよ。」
「べ、米帝……たすけ」
「アメリカさん、今日はもう遅いので寝ましょう? おとうさまも僕と少しお話をした後に就寝するので。」
「………………Ok.」
「な、んで」
「(話が終わった後に助けてやるからそれまで辛抱してくれよ、日帝)」
「…………では、おとうさまはあちらの部屋で少し話しましょうか。」
「………………あぁ。」
1人の子供の手によって、大きな殴る音が響いた。
終わり。
日帝さんの異常性をまた違った形で受け継いでる日本くんが書きたかったんです。
日帝さんは、歳を重なるごとに少しずつマシになっていきました。それでも随分ヤバいですが。
因みに江戸さんもちょっと頭のネジが3本ほど外れていたり……それは頭の良さでカバーしていたそうですが。ハハ。
日帝さんは私の中では案外脳筋タイプなので、隠す理由もないし曝け出しちゃおう!って感じだと思います。
日本くんは脳筋というよりは知的なので、他人がいると基本的に隠します。今回はタカが外れちゃったみたい。
にゃぽんが生まれても、お兄ちゃんがヤベーのでまぁまぁ変人になるかと。
閲覧ありがとうございました。
コメント
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異常な日本家凄く好きです✨ 途中(おそらく空?)が気色悪い金輪際近づくなって言ったところホントに好きです ありがとうございました!