微睡
何だか……酷く頭が痛む。此れは……確か、お父さんとお母さんが暮らしてた家、?
酷く混濁する微睡みの中、手探りで明晰夢を探索する。まるで嘗ての私を俯瞰している様な其れは酷く気味が悪い
「お母さん、とっても良い天気だね……。ほら、雪が太陽光に当たってダイヤモンドみたいでしょ?此れはね、ダイヤモンドダストって言うのよ」
リビングに大きく張り付く強化硝子の前の揺り椅子の質感を記憶の底から引き出す。其処に寝かされたお母さんは永遠に目覚めることは無い。だって、お母さんは未だ生きてるもの、此の神様の捨てた塵屑みたいな世界には存在出来ない。目覚めてしまったら最期、刻を戻すくらいしか後戻り出来ない。だって其れは死を意味するんだもの
此処には私とお母さん以外誰もいない。此の、私はお父さんとまだ逢っては居ないしお母さん以外何も居ない
二人きりの世界、捨てられた世界。いいの、望まれた子じゃ無くても。唯、邪魔をされない様に彼の胡蝶の夢を死守するだけ
産み落とされた瞬間からずっと独りぼっちだった、禍々しい睡魔が彼を蝕む至福の時だけが、私の心の拠り所。
そんな二人きりの恍惚に、お父さんが入って来た。紛れも無い終焉
「ちょっと!!!また私から全てを奪うつもり!?」
果てしない憎悪を手を伸ばすを彼に向け、声を荒げる。が…………動じない。
彼は此処に存在してはいけない禁忌、其れが蠢き私の頬に手を置く。暴力を奮う様子はない、、まるで愛おしい人を愛でる様な其れに虫酸が奔る、あゝ、吐き出して仕舞いそう。
“此処には居てはいけない、早く”彼”と逃げなさい”
一体、どうなってるの?逃げるって、此処は死後の世界……それこそ世界を作り直したり何かしないと到底魂毎消えるだけ、
ゲーム感覚で他人だけじゃ無くて私達も殺すつもり?巫山戯ないで、貴方は、またそうやって…………
「はぁ?急にしゃしゃり出て何のつもり?見るも無惨に死んでも尚凍死しろって?」
ほんと、訳わかんない、解ってる。理解してる、此処から出ても彼は生きてる、だから彼は何ともないの。でも、私は、?独りぼっちで愛情すら知らない儘死ねって言うの???そんなの、あんまりだよ……
“…………速くしないと戻れなくなるよ、時期に刺客が来る”
「其れが何って言うのよッッ!!!」
全細胞を震撼させる憤怒の儘、彼の頸椎を探す、その最中。見てしまった…………そう、彼には口吻が無い。唯、ギロリとした爬虫類の様な眼差しが此方を睨み付けている。でも、後戻りは出来ないと彼の頸椎を圧迫するが、彼は動じない。其れ処ろか触れられない
何よ、これ…………莫迦みたい、まるで私が生きているみたいじゃない、
「真逆、貴方………世界を作り直したとでも言うの?」
彼はその問いに応えることは無かった、だが私は屍同然の彼を連れて家を駆け出して全身に槍の雨を受けた
「はぁっ……はぁっ……如何して、今更こんな夢を…………」
____________『先天性パラノイドは繰り返す』邂逅。
僕がシグマさんを砂漠で拾ってから、早三年が経とうとしていた。
ゴーゴリさんは西真さんの記憶を無くした後に姿を消してしまい、未だに見つかっては居ない
まるで魔法の様に姿を消した彼は何処にも居らず、日本国土にも露西亜にも彼は見つかることは無かった。
なら、最期に遺されたのは彼に馴染み深い場所。”南極”しか無い
数年前、シグマさんを引き連れて此の土地に降り立った刻が懐かしい。
凍る様な息を吐き、次々と凍る台地を後にして行くが一向に目ぼしいものは無い。もしかして、あの棲家が彼の異能力に依る空間だとしたら彼が抹消された今、無くなってしまっている可能性もある
「お、おい、あれ、人か?」
考え込んでいる間にシグマさんが何かを見つけた様だ。近寄ってみるとこんな極寒の地に投げ出されていると言うのに体温を保ち健康な状態を保っている。
異能力者か、。だが、僕が気になったのは其処では無い、彼の外見だ
髪型こそは違うものの、彼に酷く似ているのだ。一体、此れはどう言う……
「あぁ、キミ達は父さんの………姉さん達なら彼処だよ」
……父さん、?まさかとは思うが彼と西真さんの?
むくりと何も無かった様に起き上がり目を擦り乍ら言った少年は西を指差した。
僕からしてみると彼はただの少年にした見えない、だがシグマさんは何かが違う様で顔を顰めている
彼は以前の記憶が無く、本能的に本によって産み出されたという事実だけを覚えていた。だから彼にしか分からない物があるのだろうか、取り敢えず少年を連れ……僕達は西へと向かう
道中、少年はこう語った。彼等兄弟は両親と引き剥がされ気付いたら此処に居たのだと
二人とも強力な異能力のお陰で生き延びれたそうだが、其れでは彼はどうしているのだろうか、彼が無事であることを祈っていると少年は立ち止まった……。彼の目線の先には彼と同じ程の年齢の少女に大切に抱き締められた”彼”が居た
抱き抱えられている上半身は無事な様だが下半身には凍傷の跡がある。幾ら二人が眠っているからと言って此の儘では彼が凍死してしまうと、彼に触れようと手を伸ばした瞬間。少女が目を醒めた
「なぁに……?貴方達。」
暗黒の長い長い髪を掻き上げ、少女は問う。少女の左の眼には星型の様な恒星が降臨しており煌々と煌めいている
妙に大人びた風状は普通の少女とは思えない程で純白のブラウスを纏っている。
相当に憤りを感じている様で少女は大切に彼を抱き締め、此方を睨み付ける。が、弟である少年を見つけ話を聞く気になった様だ
「…………貴方達は……お母さんの、、、そう。」
正気に戻り僕達の姿を見るや彼女は察した様で立ち上がり、姿を変えた。
父親に似た漆黒の毛髪を揺ら揺らと靡かせ、彼女の異能力なのか。徐々に背丈が伸びて行き、圧巻の形相を見せる
人間の少女の姿だった彼女は徐々に異形の形相を見せ、勢力を拡大する時期にファンタジーの物語で見るグリフィンの様な姿になった彼女は凍土に平伏し翼を下ろした。
「姉さんが乗ってだって。お兄さん達、何処に行くの?」
慣れた手つきで彼女に乗り込んだ少年は僕達を見下ろし、行き先を問う。
取り敢えず拠点である日本へと彼を戻したい、其れに、また………
「…………日本へ。後、彼を病院へ連れて行きたいのですが」
目覚めた時の彼女の動揺から少年もそれを拒むと思ったが、案外承諾してくれた
其れにしても、何故移動手段が有るのに此処に居続けたのだろう
彼等は未だ幼い子供だ。幾ら異能力があるからと言って……そんなの、
「いいよ。ボク達も此処から出られなかったんだ。母さんも父さんが消滅して疲れてるだろうし、何より心が耐えられない状態だったから……姉さんが彼を異能力で何とか暖めている間も抜け殻みたいでずっと何にも話す事が出来なくなってたし、」
成程……彼はまだ心の傷を負った儘か、この世で最も愛おしい人を永久に亡くした上身体に爪を突きつけられ再び生涯に永遠の傷を遺されてしまった。
そう、彼の心に深く宿った闇と太腿の手の跡は一生魂に刻み込まれるのだ。
僕達が話し合っている間にも彼女は颯爽と飛び立ち大空を掛ける。
フョルドを超え、アイスプラネットを超え、ミルキーホワイトを駆け巡って行く。凍て付く空気を吸い込んでも尚生き延びられるのはきっと彼等の異能の環境適応能力が高かったから、だ。
自身の執筆した小説の内容を実現させる異能力を持った彼等の父親である彼はこう語っていた、「”何が為の、誰が為に授けられた天啓なのか”其れを熟知しているか、居ないかで異能力の真価と言うのは天地の差が生じる。」ふと、彼の言の葉が脳裏に過ぎる
あれ程の身を焦がす強力な力を持っていたならば其れについて考える機会も多かったのだろう。
結果として、子孫である彼にだってその運命は託されてしまったのだから。
其れにしても、彼の中では自分の天啓は誰が為に創造されたのだと結論着けたのだろうか。”神に成り替わる事の出来る理知”が何故授けられたのか。寝る間を惜しまない努力で博識と聡明を積み上げた彼の事だ、きっと奇想天外な事を言い出すのだろう
例えば、そう「神が俺に成り替わる為、だ」と。
長い間思考を巡らせるのにも疲れた頃。彼女が錆びれた人気の無い田舎へと降り立った。此処ならば人の目は気にならない、と
まぁ、俊足である彼女を裸眼で認められる人間は其れこそ異能力が無ければ到底無理な事だろう地上に足を着ける。
全員が降りると間も無く彼女はいたいけな幼女の姿へと戻った
幸い到着寸前まで高空飛行しており山奥に降り立ったので目撃者は居ない。
でも、一体此処からどうしようと言うのだろうか。山奥からどうしようと思えば、幼気な少女に戻った彼女は再び変化した
変幻自在に姿を変える程度の異能力、流石最狂からは最恐が誕生すると言うのか…………。
可愛らしい風貌だった彼女が段々と姿を変えた後、背丈が伸び喉仏が見え、彼の父親と瓜二つの姿に具現した
「此処から都市部に送って行けばいいんだよね?」
と確認した後コクリと頷いた僕達を確認した彼は一瞬にして姿を消した、と思いきや気がつくと其処は嘗て西真さんと対談した裏路地。少し開けた其処から脚を数回運ぶと本当に其処には人の波とビルが立ち並ぶ都市部に繋がっていた。
人数分よりも多く反復する靴音の儘岐路へと着いた
人の異能力迄模倣出来るのだろうか…………、?
其れから、彼を自室へと連れて行き介抱した。左脚全体に広がる氷と右脚の指先に広がる凍傷を見る限り、もう激しい動きは出来なさそうだ。
彼を温める為、電気ストーブを用意したが電気が点かない。どうやらコードが切れてしまっている様だ
「ボクに見せて」
そういった彼が其れに何かをした後、何故か正常に動作する様になった
もしかして…………本人ですら気づいて居ないが、彼の異能力は、、、、。仮に、そうだとすると…………
「ゴーゴリさん、」
氷の様に冷たい彼の肌を摩るが意識が戻る気配はない、だが迂闊に医療機関を受診してしまうリスクは大きい。
左脚を簡易的な電気ストーブで温め、指先を少しつつカイロで暖めていく……その様子を見つめていた彼女は立ち上がり、彼と二人きりにして欲しいと提案した。僕達三人は其れを呑み、外へと出掛けた。向かった先はとある自然公園で、人気が少なく沈黙が迸っていた。
入り口に咲いていた櫻はとても綺麗で少し見入ってしまった
「少し、聞いていいか?私はとある本に生み出された。何故かは分からない、でも御前と御前の姉にも私と同じ感覚がしたんだ。そう、他の人間とは違う…………何かを。」
突然口を開いたシグマさんは少年に一つ問い掛けた
先程彼等を目にしたシグマさんの反応の違和感はこれの事か
少年はシグマさんを横目で見た後顔色一つ変えずに淡々と問いに応えた。彼は本当に少年なのか?
「キミは、人間だよ。本に生み出されたんじゃあない。”世界毎作り直された”だけ。ボクも姉さんもそのお陰で今息をしている
だけど、未だ狙われてるんだよね?」
「そう、この本を。」
少年が取り出したのは洒落た装飾の施された本で、僕はその本を見た事は無い。宝物を抱える様に両手で本を抱えた少年はゆっくりと目を瞑った
「ニコライ君、お早う……脚、大丈夫かな?」
目を擦りつつせっかちに上半身を起こそうとする彼を上半身で覆った彼女は優しく話し掛ける。
「んん、大丈夫…………、君といると酷く安心するよ。ありがとう」
そう、自身の父親の風貌で。こうやって自身の父になりすまして母と過ごすと言うのは彼女にとって手馴れた事だった。全ての心の拠り所を無くした彼の最期の希望、そして彼の精神を不安定させない為だ
彼女自身、こうして父に成り済ます事は手馴れた事だ。
だが、彼の友人がフラリと尋ねてきた時友人は彼女を見るや否や血相を変えて妄言を吐き出した以来自身の異能力の精度について疑心暗鬼だった。
「なら、少し公園にでも行くかい……?丁度今、ふ、フョードル君とシグマ君も散歩に行っててさ。」
其れを聞いた彼は少し悩みつつ太陽の様な笑みを見せて伸ばされた手を取った。
でもさ、彼だから笑ってるんだよ。私じゃ反応すら見せてくれないんだよ
もう離れない様にと手と手をしっかり繋ぎ、何回も軌跡の様に邂逅を繰り返す彼等の様に、郊外の大きな森林のある公園へ向かった。
幾ら都会だといっても郊外にでた其処は完全な山で集落がいくつかあるくらいだった。そこそこ離れているが良い運動になるだろう
少年の様に燥ぎながら、遊歩道を歩いて行く彼は新鮮で笑い掛ける相手が自分じゃ無くても、良かった、と。心なしか思ってしまった
色とりどりのタイルを舞い、二人きりで公園へと向かう。街路樹を潜り抜け、傍に咲き誇る桜を仰ぎ乍ら着いた其処はとても綺麗で広い森林公園だった。新緑に包まれて彼は満足度に息を吸っている……。
が、途端に銃声が鳴り響く其れが彼女の頬を僅かに擦り背後の樹木に鋭く突き刺さった
其れと共に彼女は異能力で瞬時に槍を作り上げ、対抗する。ただ、彼女は「メランコリックの慟哭」を使えない為、変装を敢えて解かず、本来の異能力で一斉に間合いを詰める
「ねぇ、何時から尾けてたの?ストーカーさん。」
妖艶に微笑んだ彼女は手にした槍で自身を尾けていた男を突くが避けられて仕舞う。戦闘向けの異能であるが、彼女は実戦へと挑んだ事はない。故に男に遅れをとってしまった。
突きの姿勢のまま体制を崩した彼女の頭を目掛け、また鉄の弾丸が躍動的に飛び込む、完全には其れを避けきれない彼女の耳を撃ち抜いた弾丸は血に濡れており、辺りに鮮血が舞い落ちる。
「あ、ぁ…………」
ぽたぽたと紅が滴り落ちては頬をゆっくりと伝って行く………呆然とすると言うのは戦場では命取り。あっという間に今度は自身が距離を詰められ額に銃を突きつけられる。
が、彼女は動じない。寧ろ冷静にバックステップを踏み距離を取る、そして自身の血液を変化させ杭に様変わりさせる
杭に変わった其れは男に目掛けて飛び上がり悲鳴を上げるが一本も牙を立てない儘虚しく林に吸い込まれて行く。
そう、彼女が勝つ事の出来る可能性は非常に低い、が此処で負けてしまう訳にはいかないと奮い立ち、槍を男に向かって横薙ぎする
執念の横薙ぎが男の左腕を僅かに切り裂きブラリと垂れ下がる。
此奴の狙いは一体何なんだ、数年前の残党?お母さんを狙っているの?其れとも………父さんに変異している私?
奴の目的を探りつつ思考を巡らせて居たのがまた隙に繋がってしまった様で雷撃の如く降り注ぐ鉄の弾が左の掌を貫通した。
彼を護るというハンデを負いつつ闘う彼女は相当苦戦していた。片耳からの出血は止まらない。弾丸が貫通した左手はじくりじくりと痛み今迄感じた事のないほどの激痛に侵される
だが、此処で引き下がる訳には行かない、必ずや彼を守りきらなればならないのだ。
昔、彼女はこう言われた。「キミの能力は自由そのものだね」とそう。彼女は何にも縛られない。ならば、その自由を誰の為に使う?私の自由は誰が為の自由だ?
他の誰でもない、其れはただ一人…………彼女の愛してやまない”彼”だ。
そう、一定の形を持たず変幻自在な彼女の可能性は無限大なのだ。其れは刻に父親である”主の断罪人”をも遥かに凌駕する。
完全に男が油断し、大きく銃を構えた刻。僅かな隙があった、そう、其の隙に彼女の姿は刹那に消え。瞬時に大きな影が男を包み込む
「は、?何で……こんな所に、」
シャチが居るんだよ。と言い切る前に黒き諸星は男の上半身を一瞬で噛みちぎり男の下半身からは血飛沫が上がる
地面に叩き付けられる前にまた西真明博の姿へと戻った彼女は立ち尽くした。可笑しい、だって街並みに紛れてた足音は一人のものじゃ無かったもの。
動きを辞めた彼女に咄嗟に飛びかかったのは数十人の有象無象。多勢に無勢という事か。
幾ら彼女の殺しの才能が開花しようとも、この量から完全に彼を守り切る事は難しい。だから諦める何て事する訳も無く彼女は果敢に運命に立ち向かう
四方六方を囲まれ正に四面楚歌の状態だが、彼女はめげずに真っ赤に染まった牙を剥けた。右足を前に出し、構え、天高く飛翔した彼女は七色に変化した。海のギャングと呼ばれる獰猛の長の次は彼女の様に其の美麗さによって騙された憐れな愚者達に死の鉄槌を下す。正に死の天使
“アオノウミウシ”別名、ブルードラゴン其の名に相応しく雪の様な純白と聖なるラピス・ラズリで構成された身体は僅か50ミリメートル。だが、大量の猛毒を持つ海月を食して来た海の猛者は格が違う。其れを見せ付ける様に軌道を変えながら空に舞い落ち致死毒をパラパラと振り撒いて行く。正に、小型大量殺人兵器だ。約10人程が地面に平伏し、敗北の意を決した頃地面に其の身体が触れそうになった彼女はヒラリと舞いつつ今度は大型のツキノワグマへと変貌した。矢鱈無闇に次々と爪を突き立て引っ掻いて行く、頭を齧り、上半身と下半身を食い千切り、バタバタと男達は倒れて行く……ギャーギャーと五月蠅く喚き散らしながら逃げ惑う奴等に怒りの儘に暴れ狂い無惨にも命を刈り取り疾走して行く…………が、その快進撃は長くは続かなかった。
「おらッ喰らえ!!!!化け物!!!!」
地割れしてしまう様な其の叫び声と共に彼女の腹に牙を立てたのは狩猟様の拳銃だ。攻撃力こそピカイチなものの、図体がデカいが為、熊は的になりやすいのだ。酷く悶絶しながら変身を解いた彼女は、再び変化しようと試みたが何故か異能力が使えない
その代わり、燦然と口吻から吐き出されたのは大量の血液。来てしまったのだ、好き勝手やって来た分の…………限界が。
酷く動揺している間にまた銃弾の雨が散々降り注ぎ完全に変異が解けて少女の姿になった彼女の身体を貫通する。髪の毛に始まり、手、腕、足……最早彼女に成す全てなど無かった。
「はは……、あはは…………、あっはっはっはっはっはっはっ!!!!!きゃはっ、きゃはは!!!!」
唐突に狂った様に笑い始めた彼女は全身を丸ごと変化し始めた。まだ生ぬるかった今までとは違う。より強力な兵器へと自身を作り変えて行く。数分経ち全貌を表した其れは…………どんなにのどかな土地でも一瞬で生命が生き絶え、焼き尽くされ、百年経とうとも、今だに悲惨な爪痕を深く深く遺す禁断の大量殺人兵器。無論、此れを使ってしまったら彼女は確実に死ぬ。しかし、そんな事彼女に は気にも止めて居ない。ただ、、目の前の敵を殺すだけ完全に其の兵器が顕現しようとしたその刻。
「辞めなさいッ!!!!アキ!!!」
この地に再び”彼”が絵空事から息を吹き返した。
人類の神をも超越する数多なる時間で積み上げて来た圧倒的な博識と叡智。人類、誰もが羨む圧倒的な支配を容易に具現する天啓。
そして、己が主…………愛する人の名の下に清き粛清を下す至高の断罪人。そう、存在毎抹消され”本”にされた筈の彼、西真明博が息を吹き返したのだ。
そう彼は彼女の弟、フユの「過去の状態に戻す」異能によって奇跡的な復活を遂げた。彼女は驚きの余り変身を解き……其の儘、へなりと地面へと倒れ込んだ。
「主人公が居ない7000文字は面白かったかぁ???御前らぁ!!!!永遠の二十九歳、西真明博の復活だ…………!!」
声高々に言い放った彼はステージに登壇する様に丁寧にお辞儀し、自身の運命の人との邂逅を心から祝った。
あっという間にひらりひらりと舞い落ち、ステージの主役となった彼はこっそり舞台脇で息を潜めていた彼に言った
「ねぇ、ゴーゴリ裙。其処の子を連れて逃げてくれる?」
「君は…………だれ、?」
「君の、、、味方さ」
何が何だかさっぱり、分からないが取り敢えず地面に倒れ込んだ少女を連れて彼はそそくさと逃げて行った。
我武者羅に林の間を抜けて駆け巡っているとドス君とシグマ君と知らない少年が居た。
「はぁっ……はぁっ…………」
彼等の元に向かって走って、走って、躓いて………転んでしまったのをドス君が受け止めた。
「もうそろそろ、着いたかな?アキも此処まで良く頑張ってくれたよ。んで、俺は残飯処理、と」
キザに傍の大斧に腰掛けた彼はたらたらと苦言を呈す。其の隙を狙い無数の刃が飛ぶ。が、彼はニヒルな笑みを浮かべた儘、分厚い本のページをひたすらに巡り続けている。そして、決めた。奴等への原罪、其れは轢死だ
「”え、?何、?”」
すっとぼけた主の断罪人の一言から繰り出されたのは大型のトラック。其れは男達を次々に轢き殺して行き、残るは木の陰に隠れた臆病者だけだ。
微細な装飾が施された大きな大きな斧を肩に掛けた彼は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う罪人達を揺ら揺らと追う
「”ごめんな…………、ごめんなぁ……………、”」
まるで煽りかの様にまたヘラヘラと言い放った彼によって、今度は彼等の全身が鎖によって拘束された。そう、退路が閉ざされたのだ。刻一刻と迫る死にじわりと汗が染み渡り、此方へと迫り来る死神の足音に酷く怯え、動くことが出来ない。
「ミィつけタァッ…………」
気付いたら頃には死神が真横から漆黒の眼差しで見つめており、合間なく男はその斧によって無惨にも頸椎を切り裂かれた。
肉が裂け、骨が砕ける生々しい音と悲痛な悲鳴に怯えながら、動く事も出来ず死刑宣告された罪人の様に死を待つことしか出来ず、その場の全員が一瞬にして生命を奪われて行く。誰も居なくなったかと思われた時、彼は虚空に向けて話しかけた
「おーい、此奴等操ってた親玉ー居るんでしょ?恥ずかしがらずに出て来てよー」
そう言われ、木陰から出て来たのはスラリとした黒髪の男。出てくるや否や、西真明博へと弾丸を向けた
酷くふざけた態度を見せる明博に怒り狂った彼は狂った様に怒鳴る
「…………巫山戯んなッ!!!!!俺のお母さんをヤリ捨てした挙げ句…………殺した癖に!!!あの後俺は施設で虐待されて育って来て………やっと、、、」
勿論、女性恐怖症である彼はそんな事をするわけ無く、寧ろ彼女の方から睡眠薬を盛って襲って来た位だ。其れなのに、レイプ犯に加え……人殺しにされるだなんて、西真明博は最早身を蝕む怒りを抑え切れなかった。しかし、其処を敢えて抑えて男へ問う
「最後に言い残したい事は何だ」
本当はこんな事を聞く義理などないが、両親が居ない環境で歪んでしまったのは同情出来る。と最期に情けを掛けたのが、莫迦だった
男は片腕の拳銃とは別に徐ろに胸ポケットに手を入れ、何かを取り出した。西真明博は警戒しつつ、距離を取るが時既に遅し。
「地獄に、堕ちろ」
最期の情けなど理解されない儘、男は西真明博の右半身に濃硫酸を掛けた。
完全に、予想外だった、アシッドアタックだなんて…………見た事も無いから完全に油断していた、勢い良く彼に飛び付いた其れは指先から爪先迄到達し、無惨にも彼の身体を焼き尽くして行く……燃える様に軋む片目を両腕で必死に覆い隠し、転がる彼の様子を男はただ口角を歪めつつうっとりと見つめて居た。
「は、?……あ”ぁ”ッ、!!!い”ッ…………!!うッ、ぁ……あ”あぁぁぁ…………!!うそだ、……いたいッ、クソッ……クソッッ……」
酷く悶えつつ、西真明博は必死に本を巡る、巡る。そう、其れは打開策を模索する為。其のためには男を殺す必要がある、
どうか。奴に奈落の苦しみを、
昔、其の時も情けを掛けて殺され掛けた時があったっけ。嗚呼、そいつの息子か………あるいは、、、、。あの時逆レして来た女の、
「”いたぃッ、……、………いたい、!!いたい!!いたい、……い”た”い!!いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいくるしい!!!!!…………いたい、…いたいよぉ、…………も、…やだぁ、”」
もう、最狂と呼ばれた彼も彼で重傷を負っている。だが、最後の最期に男に賭けた強大であり莫大な呪い。それは、、、
「独りは寂しいからよぉ、共に地獄に堕ちようぜ」
四肢切断。全身に渡る大火傷、重度の凍傷。其の壮絶な傷跡に塩を塗り込まれるという拷問も顔負けの私刑だ。
正に、この世の地獄を体現した様な爆絶な苦痛に男は酷く、悶絶した。彼は我が娘を殺され掛け、この世で最も愛おしい妻でさえも手をかけられ掛けた事に慟哭している。故に、彼等の痛みは止まない。永遠に止むことのないのだ
「う”、、、あ”、ぁ”…………」
アシッドアタックの劇痛に見事耐えて見せた彼とは裏腹に男はすぐに息絶えた。
「”きっと、いいところだ、”」
異能力を使い、即座に大量の水で洗い流すと共に、彼ははくはくと息を吐き乍ら地面に倒れ込んだ。きっと、もう長くは無いだろう
自身を取り巻く水の中、ぷかぷかと浮かんだ彼は空を仰いだ。干天の慈雨、と言うべきか綺麗に晴れ渡った空にはパラパラと透き通る宝石が溢れておりとても綺麗だ。
「おいおい、俺の最期がこんなので良いのかよ。」
独り、ぐったりと項垂れていると全力で走りながら彼が駆け寄って来た。嗚呼、フユの異能で記憶を取り戻したのか。
「西真君!!!!…………酷い怪我、早く治療しないと……」
赤黒く変色した右半身はもう、痛覚は無い……。僕の左側にちょこんと座り込み徐々に冷たくなる左手を包み込んだ。
この傷は恐らくメランコリックの慟哭でも治せない、子供体温で暖かった身体が冷たくなり悴むのを間近で感じ取った彼は大きく泣き出し左手に涙の雫を堕とす。
ガクガクと震える右手で泣きじゃくる彼の頬を優しく摩り、虫の息で彼に告白した。
「ねぇ…………もしも、裙に生涯残る傷を付けてしまった僕を赦してくれる……なら、、、。」
こくりこくりと一生懸命頷きつつ、彼は涙でぼやけて見えない視界で僕の瞳を見つめた。
「僕と、同じ…………苗字になってくれる、かな…………」
「勿論だよ、だから…………死なないで、」
更に不安そうに声が震え、更に手を握り力が強くなる。
だが、彼は確信して居た事が、一つだけあった
「大丈夫さ、だって、」
“君が望む限り”、何処だっていつだって愛おしい君を護り抜いて見せるから。
例え…………”俺”が死んでもね
「もしもし?誰だっけ御前。嗚呼、変態異能ニキ」
「え、付き合ったの?良かったじゃん。ん、俺?結婚したけど。前話したとおり」
「」
何故か、迚も懐かしい夢を見たもう、何年前の事だろうか。
そう物思いに耽っていると、部屋の扉が勢い良く開いた
「もぉ!!!明博くん!!今日は来客があるんでしょ?着替えないと!!」
再び立て直した家の中、ぐっすり寝ていると元気よく彼が僕を叩き起こす。
「はいはーい、今行きますよっと。」
刻は既に午後20時。そろそろ彼等も来ている事だろうと目を擦り乍らリビングに行くとドストエフスキー裙と支配人裙が居て子供達と遊んでくれて居た様だ。あの時俺が死に掛けてたのから真逆また二人の子供に恵まれるとは………僕でさえ予想できなかった。
「それじゃあ、生命に感謝、戴きます。」
楽しい愉しい最期の晩餐会の最中。隣の座席に身を置いて居たドストエフスキー裙は怪しげな笑みを趣に浮かび上げ僕に嘯いた
「其れで…………何故貴方は一分1秒違い無く未来を予想出来たのですか?」
「嗚呼…………其れはね、おっと、彼が俺を詠んでいる様だ」
此の 愛が果てる時。
終わらぬ 歴史は 止まらない。
先天性パラノイドは 繰り返す。
此の作品タイトルから発表順に単語を繰り抜くと完成する文章とは。何を意味しているのでしょうね
コメント
2件
うぐ、今回は重めだけどやはりそれも凄く良い物語!!明博君がッもうやだ!でも良い物語だから悲しいから読みたくないって思うけど読みたくなっちゃう!でも最後報われてよかった…!