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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「でも、心残りも有る。それはね、」


太宰は微笑み、茜差す空の方を見る。


其の目は虚ろで、後悔が滲んでいた。


「織田作、君が書く小説を読めないこと。」


_______今はそれだけが、少し悔しい。


敦の声が太宰の耳に聞こえる。


必死に止まれと呼びかける、悲痛な叫び。


芥川の視線が太宰の躰を刺す。


憎しみの無い、真意を読もうとする瞳。


そんな二人を後ろに、太宰は落ちていく。


揺蕩う様に。まるで世界を嘲笑うように。


ゆっくり、ゆっくりと。


友人を、仲間を。この景色を、この感情を。


この世界を、心の底から慈しむように。


ただ純粋に、この世界を_____愛する様に。


名残惜しく、鳶色の瞳を閉じて。


スローモーションの様に太宰は落ちる。


奈落の底。人間失格が人の理を外れ、落ちていく先は何処だろう。


地獄。奈落。蠱毒。孤独。


一人淋しく凍えるしか無い氷河の上かもしれない。


最も記憶に残っている思い出の場所かもしれない。


多くの時間浸っていた、「死」という概念なのかもしれない。


太宰は思う。


若し、こんな結末以外が、有り得たら。


自分も、また彼等と笑い合う事ができただろうか。


下らない時間を過ごして、朝まで呑んで、馬鹿みたいに巫山戯合って。


一度夢に見た光に、もう一度身を任せて。


在り来りな会話をして、温かい笑顔に触れて、楽しそうに笑って。


叶わない。絶対に叶わない。


そう判っていても、心の奥底にはそれを望む自分がいる。


遥か彼方、遠く未来を指差して。


その先に居る自分は、仲間が居て、友人が居て、相棒が居て。


そんな場所で、心の底から幸せそうに笑っている。


何度だって夢に見た。


朝も、夜も、春も、秋も。


たかが三千世界のうち一つ。


されど、数少ない望みが叶うたった一つ。


この世界は、太宰が死ぬことで最高のフィナーレを迎える。


ハッピーエンド。それが太宰の願いで、皆の願い。


色褪せた記憶。自らが殺した、温かい記憶。


ただ一つの願いを叶えるためだけに、なかったことにされた記憶。


この世界の破滅を願うように、其れ等は唄う。


囁くように、希望を唄う。


どの世界でも叶い得なかった、太宰の幸せを、願う。


たった一人。たった一人きりの願いだけが、必ず叶わない。


其の手で夢を掴む前に、届きかけた悲願が、自分から一歩後ろへと下がっていく。


何を選んでも。どの世界に行っても。何をしてでも。


ただ、太宰治の幸せだけが叶わなかった。


緩やかに朽ちてゆくこの世界で、最適解は最も辛い。


最も辛くて、苦しくて、息ができなくて、泣きそうになって、胸が締め付けられて。


それでいて、酷く、酷く。


如何しようもないくらいに、優しくて。


太宰は零れそうになった涙を抑え、ぎこちない笑顔で微笑む。


「………………………最期くらい、笑って、終わりたいじゃないか……」


嗚咽混じりの、掠れた声の願いは誰の耳にも届くこと無く。


静かに、静かに終わりを告げる。


…………………嗚呼、神様。


若し、ひとつだけ、願いを叶えてくれるのなら。


温もりを知ったこの手と、温もりを教えてくれたその手を。













______もう一度、優しい想い出の中で、繋がせて。











BEASTっていいよね

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