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「 起きて、起きてアリエル 」
「 …、( どうしたの、? ) 」
「 海、行こうよ 」
「 ( えぇ、 ) 」
アリエルの手を引いて、まだ日が登りきっていない海辺を歩く。
早く、早く海に入らないと。
トリトン様が、皆が、エリック王子に殺されてしまう。
「 …ねぇ、こっち、おいでよ 」
なるべく自然に、海へと誘う。
嗚呼、これで100回目。
今までなら、このまま変わってないのなら、アリエルは素直に海に入って人魚になる。
そして僕に、 “ どうかリメンバーに、幸福が訪れますように ” 、と残してこの地を後にする。
そしてエリック王子率いる数十人の人達が海に入って、アリエルと、トリトン様と、皆を連れて出てくる。
確か、トリトン様は既に亡くなってしまっていたのだろうか。
鰭の色が汚く濁って灰色になっていた気がする。
エリック王子は “ アリエル、君は人魚だったのかい、? ” と言葉を漏らして一粒涙を零す。
ごめんね、皆。
僕やっと思い付いたよ。
どうすれば皆は殺されずに済むのか。
「 ( ── ねぇリメンバー、聞いてる? ) 」
「 ッごめん、聞いてなかった 」
…あれ、どうしてこっちに来ないの、?
足元だけ少し水に浸かる僕と、砂の上に居る君。
今までは無かった透明の高い高い壁が見える。
「 …なんで、なんで、ッ? 」
「 2人共ー!ちょっと来てくれないかー! 」
困惑する僕の声を引き裂く様に、エリック王子の嬉しそうな声が聞こえる。
違う、こんなはずじゃ、ない、ッ!!
密かにポケットの中に忍ばせておいたナイフが音を立てる。
「 …ッ、何ですか、ッ 」
僕の中で苛立ちが大きくなるのを感じる。
「 遂に人魚の住処が見つかったんだ! 」
声色的に、多分満面の笑みでこちらを見ているのだろう。
アリエルの手が微かに震えた。
「 へ、 」
こんな展開、無かった。
今までの99回、こんな展開は見た事がない。
どうすればいい…、僕は何をすれば…?
ねぇルミエールさん、教えてよ。
貴方でしょう、?
この “ 魔法 ” をかけたのは。
「 この海の中、丁度真ん中辺りに神殿が有る事が判明したんだ! 」
エリック王子が示すのは丁度、トリトン様が居る神殿の場所だった。
ぇ、…トリトン様はまだ生きているのか、?
確か、人魚は死ねば鰭から色が消えて灰色になっていく。
前回のトリトン様は、既に亡くなっていた。
それじゃあ、今のトリトン様は ─── ?
「 ッ、!! 」
僕の手を離して海に飛び込むアリエル。
「 アリエル、ッ!? 」
「 ぁ”、ッ 」
苦しそうな声が聞こえる。
「 アリエルッ、大丈 ─ 」
「 !!何で…ッ何で…? 」
アリエルの足元をそっと触ると、鰭ではなくまだ足があった。
確かにアリエルは海に入っている…筈、
「 …ルーミァ、エーリァ、ッ 」
ぱぁぁッ、と視界が明るくなる。
この魔法には一つだけ、特別な物が隠されていた。
何時か、どうしようも無い程に困った時。
何時か、どうしようも無く助けが欲しい時。
この呪文を唱えると “ 一回だけ ” 発動する魔法。
「 …ッ、ルミエール、さん、? 」
< ─── あら、今使うのね、? >
「 !!助け、ッ僕どうしたら、ッ? 」
< ごめん、フランダー…私一つだけ貴方に話していなかった、 >
「 …フランダー、?貴方…リメンバーでしょう、? 」
「 !アリエル、ッ声、!? 」
「 ねぇ、リメンバー、見て 」
ふふ、と笑う様に表情を緩め、足の指先を見せてくる。
本の僅かに、エメラルドに染まって行っていた。
「 …ごめんね、私、人魚なの 」
少し泣きそうな顔で笑うアリエルは、今までで1番美しかった。
「 …2人共…?何をしているんだ、? 」
エリック王子だけに、空に浮かぶルミエールが見え無かった。
「 それに…目と声…人魚…? 」
目を見開いているエリック王子は、僕が思っていた顔とちょっとだけ違った。
ちょっと優しそうで、でもほんのちょっと怖そうで。
嗚呼、やっと。
やっとこの未来を変えられた。
< あのね…………否、やっぱり何でも無いわ、 >
「 …?なに、? 」
< ごめんなさいね、気にしないで >
< ところで、困っている事は ─ ? >
「 …僕、もう後悔しないよ、ありがとう 」
< …! >
「 只、1個だけ伝えさせて 」
< …それが貴方の願いでいいの、? >
「 うん、ルミエールさん、僕、君の事 ── 」
「 愛してた。 」
< …ふふ、フランダーらしいわね。 >
< 私も大好きだったわ、フランダー。 >
もう未来は変えなくていい。
だって、既に変わって居たんだから。
皆死なない、Happy end 。
なんだから ───────────── …
< それじゃあ、ね >
す、と空から消えたルミエール。
顔を見合せて笑い合う僕達。
「 !!居たぞ!!人魚だー!!!! 」
突然騒がしくなる。
「 捕まえろーッ!!!!! 」
アリエルの方をふと見ると、もう半分以上が鰭に変わっていた。
「 ちょッ、エリック王子ッ 」
慌ててエリック王子の方を見ると、にやりと不穏そうに笑っていた。
「 …いやぁ、人魚はやっぱり単純だな 」
くしゃ、と顔を歪めて前髪をかきあげる。
「 …なぁアリエル、リメンバー。 」
「 残念だったな。 」
と、僕達の手を掴む。
「 辞め、!?何で、ッ!? 」
「 何で、って…人魚が何者なのか調べる為だよ。解剖して…ね。 」
誰だ、この人は。
「 ッ、いやッ、辞めてッ、!! 」
必死に抵抗するがビクともしない太い腕。
「 ッ、 」
必死にポケットまで手を伸ばす。
そして ──
ナイフを取り出す。
「 ッ、離せッ 」
自分の手を掴んでいた兵隊の腕を切り付ける。
「 ぁ”ッ!?何すんだ、この”ッ!! 」
「 アリエルッ、逃げてッ!! 」
「 ッ!!でもッリメンバーは、ッ!!! 」
「 お願いッ、早くッ!! 」
「 …ッチ、余計な事を… 」
「 ぁ”がッ!? 」
足に激痛が走る。
足に目を落とすと、長い剣が刺さっていた。
「 ぃ”ッ、ぁ”ッ 」
涙で前が見えない。
「 は、所詮ここまでだな 」
ふらふらと近づくエリック王子に、少し余裕が見えた。
嗚呼、今なら、今なら刺さる。
「 ッ、うるさいッ!!! 」
ぐしゃり、と気味の悪い感触。
生暖かい腕。
痛み続ける足。
「 ぁ”ーッ!!!! 」
心臓を刺したのだろうか、地べたで苦しむエリック王子が見える
と同時に動かない足を必死に引き摺って海に浸かる僕。
海水が染みる。
ぁれ、?アリエル、?
寝っ転がって何をしてるの、?
「 !! ──────── ッ!!!! 」
海の中に寝っ転がって何かを叫ぶアリエルと、
その上に馬乗りになるとある兵隊。
必死に抵抗するアリエルの手から、ふっ、と力が抜けるのが分かる。
水に広がる赤い液体。
「 …ねぇ、アリエル、? 」
微かに自分の声が震えるのが分かる。
「 …昔語り、始めるね 」
何時か伝えようと思って伝えられなかった、99回分の想い。
「 僕ね、フランダーなんだ 」
─ 生まれた時、僕には “ 居場所 ” が無かった。
その時アリエル達が居る神殿をたまたま見つけて、一緒に暮らすようになったよね。
僕の事を何も聞かずに住まわせてくれた皆には、感謝しかない。
まだ小さい頃、お出かけした先で溺れた。
それをルミエールさんが助けてくれて、魔法をくれた。
何不自由無い生活をしていた僕達だけど、ある日アリエルは言った。
「 ねぇ、陸の世界って素敵だと思わない? 」
と。
それから日常は壊れ始めた。
1番最初の3日目。
アリエルはあっけなく、アースラに殺されてしまった。
その光景を目の前で目の当たりにした僕に、突然魔法がかかった。
次に目が覚めるとまた、アリエルは言った。
「 ねぇ、陸の世界って素敵だと思わない? 」
そこで僕は気が付いた。
嗚呼、魔法って時を戻す魔法なんだ、と。
きっとこの魔法は、アリエルを救えるまで、僕が後悔しなくなるまで続くだろう。
なら、大好きなアリエルを救う事が出来る。
そうして23回目の3日目。
アリエルは同じようにあっけなく死んでしまった。
24回目、アリエルが人間になる少し前、僕はアースラの洞窟に行った。
「 ねぇ、アースラ。僕も人間にして、? 」
「 …視力を頂く。それと…後はアリエルと同じさ。 」
「 うん、分かってる 」
「 この小瓶の液体を飲むとあら不思議、もう人間さ。 」
「 …ありがとう、アースラ 」
アリエルとはまた違う色の小瓶を渡され、帰る途中に呑んだ。
そうして、アリエルが眠った数秒後、僕も眠っていた。
─── そんな事が99回続いて、今に至る。
「 フランダーの意味は四苦八苦。 」
「 …僕の人生そのもの。 」
「 リメンバーの意味は思い出す、追悼する。 」
「 僕はずっとずっとずーっと、アリエルの事を思ってたんだよ。 」
自分の視界が歪むのが分かる。
気が付けば自分の周りも足から出た赤い液体でほんのり赤く染っていた。
「 …アリエル、大好きだよ、ッ 」
── そうして僕も眠りにつく。
< 言える訳無いじゃない…だって、っ >
< ” 未来は二度と変わらない “ 、 >
< ” 100になればまた1からやり直し “ 、 >
< だなんて ───────── … >
「 ねぇ、陸の世界って素敵だと思わない? 」
透き通る様な声でそう口にしては羨ましそうに上を眺める赤髪の人魚。
「 アリエルはさ、陸に行ったらなにするの? 」
少し身体を傾けてそう問う魚。
「 陸なんて怖い事がいっぱいさ~♪ 」
ミュージカルの様に声を張り上げる海老も居る。
「 この暮らしもいいだろう。 」
「 お父様…でもやっぱり陸には憧れるわ 」
そんな生活にも飽き飽きし始めた1人の人魚が居た。
…あら、この場面は何処かで見たような ─ …?
それではまた、もう一度。
この長い長い、終わる事の無い御伽噺を始めましょう ─────── …
─── なーーーーんてね。
貴方達が知っている ” リトル・マーメイド “ の物語はもっと違うはず。
絵本なら最後に姉妹達が魔女に貰った剣を渡し、
映画ならアースラを倒し王子と結ばれる。
そんな都合のいい物語、あってたまるか。
何故?何故結ばれるの?
如何して?如何してあの小娘だけ幸せになるの?
─── 信じられない。
私を ” 追放 “ しておいて、そんな結末なんて。
…そうだ、こうしよう。
あの薬に毒を盛れば。
あの小娘達は永遠に苦しみ続ける事になる。
そう独り言を漏らし、先程まで調合していた小瓶に赤い毒を盛る。
「 …あっはは、自分のした事を後悔するのね、トリトン。 」
…私はこの国の王、 ” トリトン “ の姉。
何故追放されたのか?
知らない方がオモシロイでしょ。
ほんのりと赤かった小瓶が、紫色に染まる。
この毒の名前は…
嗚呼、あれだ。
” 不死身憶草 “ を混ぜた、あまり出回って無いモノだ。
アイツらの所為で、私がどれだけ苦しんだ事か。
「 ───── 出来た、 」
とぷん、と小瓶を揺らせばほんのり光る紫の毒薬が、今、私の手元にある。
「 アースラー、居るー、? 」
丁度いい所に。
「 嗚呼、居るさ。 」
「 人間になりたいのだけれど… 」
その願いなら尚好都合。
嗚呼、女神様。
やはり希望の光はまだ降り注いでいたのですね。
小娘に小瓶を渡してから数分後。
あのウザったらしい魚が来た。
「 …ねぇアースラ、あの薬、まだある、? 」
おずおずと聞く魚。
名前は何て言ったっけ…
まぁいいか。コイツもいずれ死ぬんだから。
「 …無い。 」
「 それっぽいのも無いの、? 」
「 はぁ~…何したいんだい、一体… 」
「 アリエルと陸に行くの、だから… 」
嗚呼、昔からこんなヤツだったな、コイツ。
控えめでウザったらしい話し方、
何時もアリエルに着いて回るしつこさ。
「 調合するから待ってな 」
にや、と笑う私の顔は、一体コイツには見えていたのだろうか。
そうして、今度は毒毒しい緑の薬を渡す。
ざっと説明を済ませる。
「 !ありがとう、アースラ 」
アイツはこの洞窟を出てから直ぐ呑んでいた。
嗚呼しまった、1つ言い忘れていた。
調合した薬は5分置いとかないと、不具合が発生して次の日から3日後まで一生出られないんだった。
あーあ。
またトリトンに怒られちゃう。
まぁいいか。
どうせアイツもそれを望んでいるんだから。
「 ただいま~…母さん…疲れたぁ… 」
最愛の娘、ルミエールが顔を出す。
「 ルミエール、おかえり 」
「 今日フランダーが来てさ~、 」
淡々と今日の出来事を話すルミエールを横目に、アリエルに似すぎた娘だな、と思う。
まぁそうか。
だってアリエルの父の姉、私が産んだ娘なんだから。
一応と言えど血は繋がっている。
嗚呼、憎たらしい。
「 それでね、私 ” 魔法 “ をあげたの 」
「 …へぇ、なんの魔法だい? 」
「 んっとね~…あれ!母さんが教えてくれたヤツ! 」
「 嗚呼、丁度私も同じ様な薬をあげたさ。 」
「 ぇ~、効果2倍じゃん!大丈夫なの? 」
「 効果が強く出るだけさ。 」
「 !!じゃあ100回目からも…? 」
「 そうさ。100を過ぎれば1から。 」
…それに100までの記憶も無くなる。
それはまだ内緒にしておこうか。
「 ん~…カワイソウな事しちゃったなぁ… 」
「 ちゃんと ” 呪文 “ も教えて来たんだろう? 」
「 …教えたけど… 」
「 所詮アイツら。なら大丈夫さ。 」
「 …うん!そうだよねっ! 」
と、他愛のない会話を続ける。
きっと今頃、アイツらは眠っている事だろう。
── 何回、この会話を続けるんだろうか。
── 後何回、アイツらに薬を渡すんだろうか。
アイツらが薬を呑んだ所為で、この光景も、
早1899回目。
さっさと終わっちまえ。
さっさと、死んじまえ。
𢊍𢊍 この物語はフィクションです。 𢊍𢊍
「 赤 髪 人 魚 は 未 練 を 残 す . 」
────── e n d .
そして、s t a r t ───────── …
コメント
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鳥肌すぎた
うわぁぁぁぁぁぁ(泣) めっちゃ悲しい終わりだった、 まさか今までアリエルを救おうと頑張っていたことが全て無駄だったかもしれないなんて、。 王子様もあんなに悪だったし、、、。 リメンバーは何回も何回も同じ事を繰り返していたってことは何回もアリエルの死をみていたってことと同じ。最愛の女性の死を何度も見るってどんだけ辛かったのだろうか、
こ の 物 語 は ラ ス ト が ・ ア リ エ ル じ ゃ な い ア リ エ ル が 皆 を の ろ う ・ フ ラ ン ダ ー ( リ メ ン バ ー ) が 王 子 様 を こ ろ し て ア リ エ ル に 接 吻 す る ・ 皆 し ぬ ・ ア リ エ ル と フ ラ ン ダ ー ( リ メ ン バ ー ) 、 王 子 様 が し ぬ の 四 択 で し た ! !