そんな最低な兄が、ゲームセンターの帰りに行方不明になった。現場は見ていないが、あの兄のことだからトラブルに巻き込まれたのだろう。死んだのかもしれない。兄のいない生活は、まったく支障がなく、むしろ快適だった。
〜1ヶ月後〜
僕の平穏は、隣人である料理人の青年によって破られた。
「ランさん!ランさん!アイさんが!」
アイの名前が聞こえ、僕は走った。あんな兄でもたった一人の家族だ。そして僕の_の人だ。
「アイさんが、店の前で倒れているんです。気を失っています。暴行を受けた跡があります。ランさん、アイさんは行方不明になっていたのですか?」
アイが1ヶ月も行方不明になったことに、僕しか気が付かない。かわいそうなアイ…
僕は沈痛な面持ちで首を振った。
「アイ…」
隣人の青年、東海 耀はかなり冷静なようだ。
「話は後にしましょう。困惑することも多いと思うので。回復したアイさんに聞きましょう。」
耀はフランス料理店をやっている。僕にはとても高くて手が出せないが、耀は振る舞ってくれるようだ。
「キッシュかガレット、どちらがいいですか?」
「…どちらでも…」
アイを椅子に倒すように寝かせる。耀の店は一度、大手のグループに取られそうになったこともあるとか。
耀の手が踊るように動き、調理してくれる。
「…だあれ?」
…?耀って、子供いないはずだけど…
「…ねっ…ねぇ…」
僕の手を引いたのは、アイだった。今までの勝ち気そうな態度は消え、弱々しそうだ。心なしか雰囲気が変わっている気がする。
「アイっ!良かったっ!」
「…あい…?」
アイは記憶を失っていた。
「あい?おにいさん、あい?」
僕はかなりのショックを受けた。
「何言ってるの?アイがアイでしょう…?」
アイはアイじゃなくなった。