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約4年前の、
高校2年生の時。
僕はずっと好きだった人と付き合った。
高校を卒業する頃、
ころちゃんは僕に
「親から離れて僕と一緒に暮らそう」
と、そう言った。
正直驚いた。
親から離れるという考えはなかったから。
無意識で、
あの親からは絶対に逃げられないと思っていた。
でもころちゃんが背中を押してくれて、
僕は親と離れることが出来た。
しっかり親とは話しあった。
話してみると僕の悩みは簡単に解決して、
そのことに少し苛立ちを覚えてしまう。
今はころちゃんと同棲していて、
一緒の大学に通っている。
あお「るぅとくんっ!」
きい「わっ、!?」
ころちゃんが思いっきり抱き着いてきて少しふらついてしまったが、
ちゃんと受け止めた。
抱き着いてというより突進の方が合ってるかもしれないが…。
あお「るぅとくんっ!」
きい「ど~したの…?」
あお「僕のこと好き?」
急にどうしたのだろうと疑問に思うが正直に答える。
きい「好きだよ、?」
あお「ほんとに、!?」
「ほんとのほんと、!?」
きい「ほ、ほんとだよ?」
本当に突然どうしたのだろう。
あお「どのくらい、!?」
きい「どのくらい…」
表せないくらい好きなものを、
どう表せばいいのだろう。
強いて言うならば…
きい「別れようって言われたら殺しちゃうくらいかな…」
あお「…」
言った後に重かったかなと後悔し始める。
あお「るぅとくん僕のこと大好きだねぇっ」
引かれるかもと思っていたのに、
ころちゃんは嬉しそうに笑いながらそう言ってくれた。
別れようって言ったら殺す、それはきっと例えじゃなく、脅しに近いであろう。
僕は多分、ころちゃんに別れを切り出されたら、本当にころちゃんを殺してしまうだろう。
ころちゃんがいるから、僕は生きる。
なのにそのころちゃんすら無くしたら
生きる意味などない。
愛おしくて愛おしくてたまらない。
この太陽みたいな笑顔を、
寝癖が酷いふわふわしてる髪も、
透き通った水色の綺麗な目も、
ぷくっとした柔らかな唇も、
赤ちゃんの匂いがする身体も、
何ひとつ離すつもりなんかない。
いつも人に囲まれてて、
みんなに優しくて
みんなに笑顔で、
僕は沢山いる人の中の1人でしかないんじゃないかって、
そう思うときだってある。
いつか離れちゃうんじゃないかって、不安になる。
不安で、不安で、
外に出したくない。
小さくして持ち歩きたい。
だからこそ、
不安に思ってきたことが起きたらころちゃんを殺せばいい。
なぜそう思ってしまうのだろうか。
暗く、重く、
どろどろとした愛が募っていくのだろう。
あお「じゃあさじゃあさっ!」
「別れるってどっちかが言ったら」
「もう1人がその人殺そうね」
普通の、ごくごく普通の笑顔ですごいことを言う。
もしかしたら自分が殺されるかもしれないのに。
きい「え~、いいの?」
あお「いいんだよ」
きい「…ほんとに?」
「僕ほんとに殺しちゃうよ、?」
少し笑いながら小指を出して最後の確認をする。
僕が差し出した小指に、少し食い気味に小指を絡めて、ころちゃんは笑う。
あお「いいんだよっ」
「るぅとくんがいたらそれで」
力を込めたらきっと折れてしまいそうな細い指を折れないように、大事に、大事に、 小指を絡め返した。
きい「はぁっ、はぁっ」
酷くうるさい心臓の音は止まらず、速さは増すばかり。
息がうまくできず、肩で息をする
きい(なんで…っ、)
(僕っどこで間違えたの?)
(ねぇなんで?)
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで)
(どうしてなの?)
水色の髪が赤く染まっていくのを、
僕はじっと見ていた。
すっかり光が消えた瞳から溢れでている涙を、拭って舐めてみる。
きい「…」
「あま、」
ぽつりと呟いた言葉は、動かなくなった君と、それをぼぅっと見ている僕がいる、静かな部屋に響いた。
「別に好きな人ができたから別れたい」
なんて君が言ったのは少し前のことだ。
約束を守る、と言うよりは怒りで彼の腹を刺した。
何回も、何回も。
君が苦しそうな声を出すのすらも気にせずに、何回も刺した。
何度も刺して、君が動かなくなってから意識がはっきりしてきた。
きい(そういえば)
(好きな人誰か聞き忘れたな)
意識が戻り始めて、最初に浮かんだのは後悔でも哀しみでもなく、殺意だった。
僕からころちゃんを奪ったやつを殺して、そのあとに自分も死んでしまおうと、
ころちゃんの部屋にふらふらとした足取りで向かう。
好きな人を殺したのなら、もう失って怖いものなどなにもない。
自分の大事なものはなにもなくなった。
1番大事なものを、自分で壊したから。
ころちゃんの部屋について、机の中を片っ端からひっくりがえすように漁り始める。
僕があげた物ばかりで、他の人が渡したようなものはなにもなかった。
なぜひとつもないのだろうと疑問を浮かべながら最後の引き出しに手をかける。
開けようとするとかちゃ、と軽く音がするだけで引き出しは開かなかった。
よく見てみるとここの引き出しだけ鍵付きだ。
きっとここに好きな人からのものでも入っているんだろう。
僕に見られたら困るようなものを。
鍵は子供のおもちゃのようで、少し弄るとすぐに壊れ開いた。
中には大量の写真と、くしゃくしゃになった紙。
まず大量の写真をめくっていく。
1番上のはこの前紅葉を見に行ったときの写真。
何枚か秋の風景が映った写真をめくっていくと、次は海の写真が出てくる。
綺麗な海で、足だけを海に浸して僕ところちゃんがはしゃいでいる写真だ。
きい(確かこの時、着替えを持ってきてないのにころちゃんの服が濡れて、ころちゃん焦ってたっけな)
思い出に浸りながらも、写真をめくっていったが、僕との写真ばかりで他の人と撮ったであろう写真はなかった。
写真は印刷せずに取ってあるのだろうか。
とりあえず、くしゃくしゃになった紙を広げる。
読みやすくするために紙を丁寧に伸ばす。
ころちゃんの診断結果が書かれた紙だった。
結果に、見た事ある単語があった。
身近なのに、現実味が無い単語。
きい「…末期癌…?」
今更になって、どうしようもない不安が生まれた。
僕はある物を取りに走った。
昔、僕がころちゃんにあげた、あまりにも幼稚な日記帳。
ころちゃんの日常が嬉しい事で埋まれば良いと思ってあげたのだ。
最近になって、ころちゃんがまた使い始めたのを思い出した。
「日常を嬉しい事で埋めたいから…かな?」と、照れ臭そうに笑った顔を思い出して胸が痛む。
ころちゃんの幸せそうな顔を思い出すと、何かに押し潰されそうで、読めなかった。
表紙をめくると、幼児特有の拙い字。
ぱらぱらと、無理矢理付け足されたページをめくってゆくと、見慣れた字が出てくる。
読んでしまった。るぅとくんへと書かれた文字を。 震える手で続きを読んだ。
読み終わって、やっところちゃんを殺してしまった事を後悔した。
ころちゃんは、僕と別れたいなんてちっとも思っていなかったし、新しい好きな人が出来た訳でもなかった。
末期癌で、もう治す方法なんて無かった。
_どうしようもない我儘だけど、どの道死ぬなら、るぅとくんに殺されたい_
震える字で書かれたそれは、少し滲んでいた。
僕に殺されたかったから、僕に別れたいなんて言った。
そう言えば僕が殺してくれる事を知っていたから。 そして、これを見た僕が後を追ってくれる事を知っているから。
_僕の我儘でごめんね。一緒に生きれなくて、ごめんね。_
ざぁざぁと、波の音がやけに五月蝿かった。
何故此処に来たかと聞かれれば、実際僕にもよく分からない。
ただ、写真に映る、笑っているころちゃんが、僕の愛おしいころちゃんだったから。
ここなら、ころちゃんと話せる気がしたから。
ころちゃんを抱きながら、海に足をつける。 冷たくて、少しびっくりした。
冬だから、相当冷たい。ころちゃんが冷たい理由も、冬だからなんて。
そんな妄想が本当になればよかったのだけれど、ころちゃんが冷たい理由は僕が殺したからだ。
ころちゃんがあたたまる事は無い。
そして、僕ももうあたたかくなどありたくない。