bl視点
sm「……」
tm「……」
bl「……」
さて、今僕の目の前で何が起こってるか説明しよう。
まずスマイル。さっき頼んだ紅茶(ちなみにアールグレイ)を飲みながら、ともさんを氷のように冷たい目で見てる。
次にともさん。コーヒーを啜りながら、文庫本に目を落としてる。睨まれてるのには気付いてるだろうが、全く動じてない。
最後に僕。コーラをストローで飲みながら、居心地の悪さを感じてる。
スマイルの氷のような目は、トイレに行って帰ってきてからも変わらなかった。
sm「……ともさん、どういうことだ」
先に口を開けたのはスマイルだった。
tm「どういうことって?」
sm「とぼけるな。さっきも言っただろ。鈴村京花の彼氏が自首してきてるんだ」
そう、ついさっき聞き込みをしてたところ、ともさんから犯人が自首したと聞かされた。自首してきたのは、鈴村さんの彼氏、荒牧日向。
スマイルが詳しく話を聞きたいというので、学校近くのファミレスに寄っていた。
tm「僕に言われてもどうにもできないよ。上が決めたことなんだから」
sm「俺よりも上に従うのか」
吐き捨てたスマイルはチッと舌打ちを弾けさせた。
tm「ただね、僕は荒牧くんは犯人ではないと見てるよ」
スマイルの顔が、不機嫌ながらもともさんの方を見る。
sm「理由は?」
tm「スマイルくん、監視カメラの映像欲しい?」
形の良い眉がピクリと動いた。
sm「……そりゃ欲しいな」
tm「よし、じゃあ僕は信頼のため、それを提出しよう」
ともさんはスマホを取り出し、液晶画面を見せてくれた。
どうやらそれは通学路の映像らしく、数秒すると見覚えのある黒髪が見えた。
鈴村さんだった。
長い髪の毛を揺らしながら歩いてる。特に変わったところは無い。
数分して映像は終わった。
sm「なるほどな……確かにこれは、荒牧日向が犯人ではないという証拠になるな」
bl「え?どういうこと?」
sm「……お前の脳みそには蟹味噌が詰まってるのか?食ってやるぞ」
bl「グロいこと言うのやめてよ……」
sm「いや、脳みそは主な成分は脂質だから普通に食べれると思うぞ。それに、日本以外の国では猿の脳みそを食べる国もあってな……」
bl「はいはい、分かったから」
気持ちよく知識を吐き出してたスマイルは、口を尖らせるも素直に、「分かったよ」と言った。
sm「話を戻すが、なんで今の映像が、荒牧日向が犯人ではないという証拠になると思う?」
bl「えぇ~……」
スマイルより圧倒的に足らない頭に鞭うって考えるが、やっぱり分からない。そんな僕を、ともさん含めて二人はない凍るほど冷たい目で見てた。
sm「はぁ~……この馬鹿が。ともさん、説明してやれ」
「了解」と言って、ともさんはまた同じ映像を再生した。
tm「鈴村京花の通学路に監視カメラは無いから、途中にあるビルとかの映像を調べた。時間もピッタリ」
映像の中には、やっぱりさっきと同じ鈴村さんが歩いてた。
tm「ぶるーくくん、何か気付くことはある?」
ともさんは優しく聞いてくれたが、スマイルが「こいつの頭蓋骨には蟹味噌が詰まってるから意味ないぞ」と口を挟んできた。頭かちわるぞ。
bl「うーん……全然…」
tm「……本当に蟹味噌詰まってる?」
お願いだからあなたまでそんな事言わないでくれ。
tm「まぁ説明すると、この映像には被害者以外誰も映ってないの」
bl「なんでそれが荒牧くんが犯人じゃない証拠に?」
tm「えっ?……あぁごめん。ぶるーくくんには話してなかったね」
sm「そうなのか?じゃあ分からなくても仕方ないな。まぁ蟹味噌は詰まってるだろうがな」
もういい加減にしろぉ!
詳しく聞いたら、僕がトイレに行ってる間に、荒牧くんの取り調べ内容を話したようだ。何故僕に話してくれなかったのか……。お陰で蟹味噌呼ばわりされた。というか、それなら睨み合わないでくれ。思いっきり誤解する。
tm「荒牧くん曰く、『鈴村さんを家に迎えにいって、学校に着いたとき襲った』らしいの」
sm「さすがにここまで来たら分かるよな?」
bl「……家に迎えにいったって言ってるのに、監視カメラに荒牧くんが映ってないこと?」
tm「良かったよ。蟹味噌くんでも分かって」
満面の笑みでとんでもない事を言われる。この人、こういうことあるんだよな~……。黒髪のちく……。
sm「他にも理由はある。鈴村京花は荒牧日向に告白されて付き合ったんだ。まあぞっこんだったらしいな。そんなに好きな恋人を襲っても意味が無い」
tm「その通り。別のも挙げると、荒牧くんは『毒草を使った。他の四回も自分がやった』って言ってる。けど、鈴村さんの検査データからは毒物は検出されなかったし、あと、明らかに嘘をついてる顔をしてた。あれは真犯人じゃないね」
「これは刑事の勘ってやつね」と付け足した。
bl「刑事の勘?」
訳が分からず聞き返す。
tm「そう。僕は刑事になってから間もないけど、そこそこ殺人犯は見てきた。なんか、そいつらはね……匂いが違う」
sm「匂い……か」
tm「人を故意に殺した、もしくは殺しかけた人はね、そういう奴にしか出せない匂いがあるんだよ」
刑事とはそういうものなのだろうか。
sm「話を戻すが、自白ってことは、それは多分嘘だろうな。もしかしたら、誰かに脅されてる」
スマイルの話に混乱してると、ともさんは更に畳み掛けてきた。そして、非常に気まずそうな顔になゆ。
tm「……あと、残念だけど、警察はこの捜査に正式に関われない」
sm「何でだ!?」
bl「何でぇ!?」
僕とスマイルの声が重なった。店内の視線が一気に集まる。僕はおずおずと席につき、遠慮なるものを知らないスマイルは不思議そうに座った。
tm「荒牧日向が自白したからだよ。今は証拠が無いけど、その内証拠らしい証拠を見つけて起訴に持ち込む。そうすれば、この事件は終わりだよ」
bl「何でですか!荒牧くんが犯人ではないことは明らかじゃないですか!天下の警視庁でしょ!」
sm「天下の警視庁だからだよ」
熱くなった僕を、冷ますようにスマイルの声が聞こえた。
sm「警視庁は何年もの歴史を持ってる。解決した事件は万を越えるだろうな。その中には悲惨でミステリー小説のような事件もあった。けど、それらも解決してきた。それが警視庁の誇りだ。そして、警視庁の奴らはその誇り、悪くいえば面子だな。それを守るのに必死なんだ。歴史のある奴らは保守的になりがちだ。俺の捜査に非協力的なのも、素人に事件を解決されるのが気に食わないからだろうな」
「もちろん、ともさんみたいに市民の平和を願う警察もいるぞ」とスマイルは付け足した。僕は、今彼が話した内容に、正直唖然とした。警察といえば、街の人々の安全を守る人達、というイメージがあったからだ。
sm「けど、そうなったらともさんから情報を搾り取れないな。残念だ」
心から残念そうな顔でスマイルは言った。
tm「そうだね。でも、まだ僕はこの事件に関わるよ」
bl「良いんですか?」
tm「うん。警視庁は毎日ひっきりなしに事件がやってくるけど、何もないときは上から昔の事件でも良いからなんか解決してこいって言う適当な指示が出るの」
そこでともさんは、口の端をニヤリと上げた。
tm「今回の鈴村さん襲撃事件は、その『昔の事件』に入るんだよ」
言葉の意味を理解した僕らは、ふっと表情を緩めた。
sm「それじゃあ、引き続きコッテリ絞ってやる」
tm「あれ?絞られるのはそっちじゃない?大人はナメない方が身のためだよ?」
二人は不敵な笑みを浮かべて見つめあい、同時に「くっくっくっ」と忍び笑いをした。傍を通ったウェイトレスさんが引いてた。
bl「スマイル何見てんの?」
ともさんから話を聞いた二日後、僕はスマイルの家に来てた。彼の両親は経営者らしく、(審議不明)財産はかなり余裕がある。だから、家がそれなりにデカイ。まるでヨーロッパのような白い壁や磨きのかかった大理石などがある。しかし、そのようなお城の雰囲気に反し、彼の部屋はまさに、「魔女の家」だ。
扉を開けると、カーテンは閉められ、間接照明だけで照らされた薄暗い部屋が広がる。部屋の所々に、小説漫画医学雑誌何処かの論文のコピー、更には爆弾を作るための本や悪徳商法の本が「本の樹」となって積まれてる。
他にも、大きなグランドピアノやスピーカーもある。部屋を明るくして見たらオシャレな部屋なのだろうが、暗いせいで「魔女の家」になってる。
因みに、爆弾を作るための本や悪徳商法の本、人体実験についてまとめた本を見て、「何に使うの?」って聞いたら無言で見つめられた。それ以来、怖くて聞けない。
sm「あ?鈴村京花の検査データだよ。主治医に貰った」
bl「え?でも、医者って患者の守秘義務があるから、簡単にくれないんじゃ……」
sm「そうだな。簡単にはくれない。だから、主治医の弱みを握って脅したらくれた」
……僕、こいつと一緒にいて大丈夫かな。
胸に沸いた不安はかきけし、パソコンやら何やらが並んでるデスクの前に座ってるスマイルが見てるスマホを覗きこんだ。
bl「なんか変なとこ見つかる?」
sm「いいや、全然。ともさんが言ってた通り毒物も見つからないし、毒以外の異常もない。けど、多分鈴村京花は毒を盛られてる。なのに、何も出てこない……」
bl「なんか、まさに『不可視の毒薬』だね」
sm「確かにな……」
スマイルはそう呟くと、覗きこんでた僕の顔を見た。
sm「それは良いとして、話は聞けたか?」
bl「はいはい。聞けましたよ。写真も貰った」
実は、ファミレスで話した翌日、僕はスマイルからの命令……もとい指示で、鈴村さんの周辺から話を聞いていた。
bl「まず鈴村さんの友達に聞いたんだけど、『恨まれるような事は無かった。男女両方から人気だ』って」
sm「他には?」
bl「鈴村さんが一緒に住んでる叔母夫婦にも聞いた。『学校も楽しそうで、ご飯もよく食べてた』あと、倒れた他の四回について聞いたら、『共通点が無いから、対策のしようが無い』って困ってた」
sm「その叔母夫婦が犯人の可能性は減ったな。時間差で効く毒物を使ったかもしれんがな。ぶるーく、写真を見せろ」
bl「分かったから。焦んないでよ」
sm「『証拠と魚は鮮度が大事』って言うだろ」
初めて聞いたんだけど……。僕はスマホのアルバムを開いて、鈴村さんの友達から貰った写真を見せた。
bl「遊園地に遊びにいった写真らしいよ」
スマイルは、僕の声も無視してスマホを取り、その写真を見ながらぶつぶつ呟いてる。自分の世界に入った証拠だ。
手持ち無沙汰で待ってると、スマイルが僕の方を向いた。
sm「なんか、腕に傷が多いな。他に証拠はあるか?」
言われてみれば、指には絆創膏が多い。手首には包帯のような物も巻いてる。
bl「うん、あるよ。友達叔母夫婦、両方言ってたけど『怪我や体調不良が多かった』って」
sm「体が弱いのか?」
bl「そういう訳じゃ無いみたい。ここ最近の話。何度か病院に連れていった事もあるらしいけど、原因が分かんないんだって。入院もよくしてたから、その度に不安だって友達も言ってた」
sm「ふーん……」
スマイルは目を閉じると、急に立ち上がった。
sm「おい、鈴村京花に話を聞くぞ」
個室病室の中で、艶やかな黒髪の持ち主は、辛そうに俯いてる。
sm「話は聞いてるな?鈴村京花」
ky「はい……まさか、荒牧くんが、私を…襲ったなんて……」
鈴村さんは頭を抱えた。その姿は痛々しい。信頼してた恋人に裏切られた事がショックなのだろう。
sm「酷かもしれんが、質問するぞ。お前と荒牧日向の間にトラブルはあったか?」
鈴村さんは緩慢に顔を上げた。
ky「いえ……何も無かった筈です」
sm「前に俺らが来たとき、荒牧日向が来てたよな。何を話した」
ky「何って……他愛もない雑談です。笑ってくれたのに、あんなことするなんて……」
再び俯いた鈴村さんは、肩を震わせはじめた。小さな嗚咽が鼓膜を揺らす。
sm「……ぶるーく、帰るぞ」
それだけ言って、病室から出た。
bl「聞かなくて良かったの?」
sm「まともに話が聞ける精神状態じゃない。それに今は考えをまとめたい」
bl「しっかし、何か訳が分かんないね」
sm「ああ、本当だ」
動機のない容疑者。不可視の毒薬。
まるでミステリー小説だ。
この事件は解決できるのか。不安が渦巻く。
sm「だかな」
スマイルは紫色の瞳を輝かせながら言った。
sm「事件の真相に近付いてる筈だ。俺に任しとけ。解決してやるよ」
そう言ってニヤリと笑った。
その言葉を聞いて、僕の中の不安は消えた。そうだ。スマイルが捜査してるんだ。きっと、この事件は解決する。
次回へ続く
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