『アネモネだ、、、これって確か花言葉は”儚い恋”や
“見捨てられた”だよね、、、ははっ、まるで私みたい』
すごい勢いで体が雨に打ち付けられる中、傘を持たず私は道端に生えているアネモネを体育座りの状態で 見ながら、失笑気味に自分に絶望していた。
『これから、どうすればいいのか分からないや、、、』
とりあえず家に帰ろう。そう思った矢先、私の上に雫が落ちなくなった。いや、私はもう全身ずぶ濡れだ。だから正確には雫が落ちていないように感じた。でも音もくぐごもっているように聴こえるし、ふっと上を見上げると、
『こんなとこで、何やってるの?』
そう彼に聞かれた。彼というのは、顔はマスクとパーカーのフードを被っていてよく見えないけれど、声が低かったから。そんな理由。でも、私はそれを信じて疑いもしなかった。何故って言われたらよく分からないけれど、声以外に特徴をつかむことが 難しかったからだ。傘は男女兼用っぽい感じだし、口調もいかにも男子or女子!って感じじゃないし、、、と彼の問いも忘れ、そんなことを彼をジロジロ 見ながら考えていた。流石に、不審に思ったのか
『何?、そんなにジロジロ見て、 気持ち悪いんだけど』
彼は直球で言ってきた。確かにそれもそうかと思い、体育座りしていた体を起こそうと思った瞬間、
『で?、さっきの僕の質問にも答えてないんだけど』
彼は体育座りして、私の目線に合わせて、問いかけてきた。
『うわっ!てか、目どうした?、めちゃくちゃ腫れてるぞ?』
さっきの質問も答えていないのに、更に質問なんて。
『ごめんなさい。さっきの質問も、今の質問も答えたくない、、、思い出したくない。』
今、心身ともに衰弱している私にはどっちの質問も 辛かった。それを見て悟ったのか、彼は
『ふーん』
と言われ、思わず私は
『えっ?それだけ?』
と言ってしまった。
『なんで?だって、思い出したくないんだろ?』
『いや、確かにそうなんだけど、、、、』
私は、また歯切れ悪く言ってしまった。”いや、確かにそうなんだけどね、でも、他に何か無いの?と、 自分から深堀しないでと言って置いて、結局、気にかけて欲しいって訳か、と自分の中で府に落ちた。そして、また黙っていた私を見兼ねて、 はぁ、、、、と重く、大きい溜息を吐いた。
『めんどくせぇな、女って』
そういうのって、相手に聞こえないぐらいの声量で言うもんじゃないかなとか思っていたら、彼は私の目の前に人差し指を向けた。所謂、拳銃ポーズを私に向けて言い放った。
『いいか?、僕はあまり面倒事には頭を突っ込みたくない、それが、まさに今だと思っている。あんたは、聞いて欲しいのか、聞いて欲しくないのか、どっちか僕には分からない、もし、聞いて欲しいんだったから今から、家まで送っていくから、その時、話せ!分かったか?』
そして、私の右手を引っ張りあげ、体を起こした。彼と私は頭2つ分ぐらい違った。こういうのって大体 「頭1つ分ぐらい違う」だと思うんだけれど、とか私は思いながら、スラッとした彼を見上げ、やけに、綺麗な手だなと思った。
『家は、何処だ?』
と聞いてきた。それから、私は住所を教えて、2人で並んで相合傘をしながら、一歩、また一歩と歩き出した。私は、まだ気持ちの整理がついておらず、何を言っていいのか分からなかったけれど、無言で前を向いている彼の横顔はフードで見えなかった。それが、何故か心地良くって、嬉しくって、私の近くにこんな人がいたら、何か変わっていたのかななんて、考えてしまっていた。
『意外に、強引なんだね』
私は思わず、そう彼に聞いていた。助けて貰った分際で、こんな事、聞いているのはおかしいと思っている。けれど、彼のことを知りたくなった。もっと知りたいと思った。
『うるせー、あんたがグジグジしているからだろ』
と言われ、2人で次第に強くなる雨音に負けないくらいの声量で言い合いをしながら、家に向かった。そして、あっという間に家に着いた。人生で1番早く感じた時間だった。
『今日はありがとう。私、甘井 悠雨(あまい ゆう)』
彼はふっ、と笑って”今更自己紹介かよ”と言った。
『まぁ、いいや!僕は夕凪 雫(ゆうなぎ しずる)機会があったら、宜しくな!』
『うん!』
これが、私と雫の最初の出会いだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!