29
Ⅺ
『うっ……ぐぅ……っ』
僕はゆっくり目を開ける。
開けているはずなのにまだ暗い。
ここは?
頭が痛くて、重い。
立ちあがろうとした。
でも、腕が思うように動かせない。
足も、動かしにくい。
何か、ある。
手錠のようなもので両足を縛られていた
多分、腕にも同じものが…
背中側で縛られているようだ。
『やぁ、やっとお目覚めかァ?』
僕は声のした方へ振り向く。
そこに、鉄格子と、
その奥に、
『お前…っ!』
あの時の男が立っていた。
男が、鉄格子の扉に鍵を刺して、開ける。
男が入ってくる。
『何をする気だ!』
男は怪しく笑う。
『ヘッヘッヘッ!そんなの決まってるじゃないか!』
!
男の手に、また注射器が、
『私の、この傑作をお前の身体にィ!』
男が歩み寄る。
僕は、なんとか立ち上がり、
男にタックルしようとした。
でも、
『ハァイ‼︎』
男が、僕の頬を殴ってきた。
僕は倒れた。
『その状態で勝てると思ったかァ?残念だったなァ!』
男が、僕の頭に足を乗せる。
そのまま、ぐりぐりと体重をかけてくる。
『ぐぅっ!』
痛い、
『辛いだろ?怖いだろ?死にたくないか?』
辛いけど、
怖いけど、
『死にたくはない!』
琥珀さんが教えてくれたんだ。
生きる意味を。
男は足を戻した。
『そうかそうか。なら、先にあの女からにするかァ。』
男が見た先に…
『琥珀さん!』
琥珀さんはまだ、倒れていた。
僕はなんとか先回りして、
『琥珀さんに手を出すな。』
琥珀さんの前に立つ。
『ヘッヘッヘッ!さすがは人狼!大切な奴のためなら、命をかけてでも守ろうとするなんて!』
男は怪しく笑いながら言う。
『素晴らしい!なんて面白い生き物なんだ!だけど…なんだァ、その目つきはァ?気に入らないなァ?』
男が、僕の頬をまた殴る。
『あぁっ!』
僕はまた倒れる。
『まぁいい。お前が死にたくなるまで、コレはお預けだァ。』
男は、鉄格子から出る。
身体が重い。
何か、されたのかな。
もちろん、銃は盗られていた。
今のままじゃ、勝ち目はない。
『こは…く……』
僕は、這いつくばるように琥珀さんに近づく。
身体を動かしながら近づいた。
琥珀さんはまだ、目覚めない。
でも、
死なせない、絶対に。
あたりを見る。
1面は鉄格子で、他は、
冷たい、コンクリートだ。
出られそうな場所はもちろんない。
あるのは、端にある段ボールのようなものだけ。
とてもあれだけで脱出はできないだろう。
化学薬品のようなツーンとした匂いがする。
実験施設だろうか。
新田先生が言っていたことを思い出す。
人狼を閉じ込め、実験体にした。
そんな実験施設が、この島にあったと。
!
また、あの男が戻ってきた。
『ヘッヘッヘッ!お腹すいただろォ?ほら、食えェ!』
雑に置かれたなんなのかもわからない食べ物。
2つ、
1つは琥珀さんの分だろう。
『あれェ〜?まだ寝てるのかァ?ねぼすけさんだこと!』
僕は反応が遅れてしまった。
男が、琥珀さんの身体を足で揺らし、蹴る。
『やめろ‼︎』
僕は止めようとした、
でも、
『勝てるわけねぇって言っただろォ?』
僕も、腹を蹴られた。
僕は倒れた。
けど、
男が髪を引っ張り、持ち上げる。
『今の状況、わかってるかァ?無駄なんだよォ!』
そして、
僕の頭を掴み、
壁に押し付ける。
『うぐっ!』
『お前らはァ、ただのォ、実験体ィ、抵抗ゥ、してもォ、無駄ァ!』
頭を何度も、壁に押し付けてくる。
絶望。
それだけが、強くなっていく。
男が手を離すと、僕は倒れた。
床が赤く染まっていく。
僕は、目を閉じた。
30
『ーーゃん!』
声が聞こえる。
幻聴だろうか。
『アマちゃん!』
!
僕は、目を開ける。
そこに、目から大粒の涙を流している琥珀さんがいた。
『甘ちゃん!』
『目、覚めたんだね…』
僕は弱々しく言った。
『頭から血が出てるよ、』
琥珀さんが言う。
そうか、
頭がボーッとしていた。
『琥珀さんは大丈夫か…』
自分より琥珀さんが心配だった。
『琥珀は大丈夫だけど、甘ちゃんは…』
琥珀さんは、僕が心配だったようだ。
『僕も大丈夫…、でも、早く…逃げないと…』
あの男がいつ、何をしてくるかわからない。
僕は、上半身を起こす。
『お腹すいたよ…』
『それは、食べない方がいいだろう…』
先ほど、男が持ってきたものを指差して、言う。
何が入れられているか、わからない。
そんなものを食べたくはない。
でも、僕もお腹が空いてきた。
どれくらい食べてないんだろう。
今、いつの何時だ?
時計はない。
もう、1日くらい経っててもおかしくはない。
これから、どうしよう、
死ぬのかな、
少しずつ、マイナスなことを考えてしまう。
それからしばらくして、
また、あの男が入ってきた。
『アレェ?まだ食べてないのかァ〜、残念だなァ、』
男はまだ手をつけていない食べ物を見て言う。
『まぁ、しかたないかァ。ほらァ、新しいのォ、持ってきたぞォ〜。』
また、よくわからない食べ物が置かれた。
『そんなもの、いらない!』
お前が持ってきたものなんて信用できない。
『ヘッヘッヘッ!そうか、いらないか。人は食べないで、どれくらい生きられるっけなァ?なんだァ?死にたくなったかァ〜?』
『ふざけんな!死にたくなるわけないだろ‼︎』
僕は怒鳴って言う。
『でもよォ〜。最初に比べて、絶望的な顔をしてるしィ〜、』
男が、琥珀さんを見る。
『この女のせいだろォ〜、お前が弱くなったのはよォ〜。』
『なんだと、』
僕は男を睨みつけて言う。
『一匹の時はすげー強かったのにィ、今は余計な奴を守りながら戦わなくちゃいけないだろォ?ろくに戦えもしなさそうな女を連れてさァ〜、自分とその女を守りながら戦わなくちゃいけなくなったァ!』
『黙れ、』
『でも、事実だろォ?足手まといのせいでェ、明らかに弱くなっ…』
『黙れ‼︎』
僕は、怒っていた。
許せなかったから。
『琥珀さんは足手まといなんかじゃない!弱いのは、僕の心の弱さのせいだ!逆に、琥珀さんがいてくれたから、僕は戦うんだよ!守りたいと思えたんだよ!生きたと思えたんだよ‼︎』
こんなに怒ったことは初めてだ。
怒りが収まらない。
自分を悪く言われるのはまだいい、
でも、琥珀さんのことを悪く言われるのは許せない。
僕は、男に頭突きをする。
コイツから、鍵を奪えば!
でも、
そう上手くいかない。
『うぅっ!ぐぁ!』
手足がほぼ使えない状態で、戦うことなんて…
でも、やるんだ!
僕は起き上がり、立ち向かう。
『昔のお前なら、勝てただろうなァ!』
殴られて、蹴られて、
琥珀さんが狙われて、
僕は起き上がり、琥珀さんを守るだけで精一杯だった。
『お前を弱くしたこの女が憎いぜェ!』
『だから!黙れって!言っただろ‼︎』
僕はまた立ち上がり、琥珀さんを守る。
立ち向かう。
けど…
『あっ…ああっ……くっ!』
何度も同じことの繰り返しで、
僕は、もう、
立ち上がることができなかった。
『きゃあ!』
琥珀さんの悲鳴が聞こえた。
助けたいのに、
身体が動かない…
立ち上がりたいのに、
身体に力が入らない…
無駄だと、心の中で思う。
一『努力もしないで、生まれた時から力があって勝ち組な人狼が!ずっと努力をしてきた俺たちの夢を壊すんだ!お前らみたいな人狼が嫌いだ!』
『どうせ、今までずっと俺みたいな普通の人間たちを見下してたんだろ!』
『お前らが苦しむのは当然だろ!お前らは知らないだろうけどな!俺らだって、お前ら人狼のせいで苦しんでんだよ!お前らが生きてるから、死ぬべきじゃなかった人たちが死んでったんだ!お前らにその辛さがわかるかよ!』
『お前、一匹狼だろ?あんなに人を傷つけておいて被害者ぶるな‼︎』ー
あの時の男の言っていたことを思い出した。
今も、僕は誰かを苦しめているんだろうか、
この男も苦しんでいるんだろうか、
ーお前はここにいらないー
『うっ!』
辛い、
きつい、
苦しい、
助けて…
一『ずっと会いたかった!ずっと待ってたよ!』
『人は、怖くてどうしようもない時、追い詰められてしまった時、人を傷つけてでも自分を守ろうとしてしまうんだと思う。甘ちゃんは今、ほとんど何も知らない所で知らない人たちと色々なことをして、怖くなっちゃったんじゃないかな?』
『いっしょに生きてよ、最後まで隣にいさせてよ…うぅっ、琥珀が、甘ちゃんを幸せにさせてよ!琥珀のために生きてよ!』
『甘ちゃんが隣にいてくれたら大丈夫だよ、』
『琥珀に気を使わないで、甘ちゃんのしたいことをして欲しい。』
『琥珀も、強くなりたい。出来るかな?』一
琥珀さん…
君は、
こんな時でも僕を助けてくれる。
まだ、終わってなんかいない。
『命を落とせば、もう助けられないんですよ。手遅れになってからじゃ、遅いんですよ。』
この前僕が言った言葉だ。
今助けないで、いつ助ける?
無駄なことはたくさんある。
余計なことをするだけかもしれない。
でも、
助けたい、
あの時の笑顔を、また見たい。
生きていたい!
僕が、守るんだ!
身体に力が湧いてくる。
立ち上がる。
ふらふらでも、
それでも歩く。
『僕は、諦めない!』
手遅れになる前に、
終わらせるんだ!
そして、
男に突進する。
男とともに倒れる。
かっこ悪くてもいい。
諦めて負けることに比べれば、
全然いい、
僕は男の腕に噛み付く。
『ギャアァァァ‼︎‼︎』
そして、
強く、噛み砕く!
『アァァァァァァッ‼︎‼︎‼︎‼︎』
これで終わりだ。
皮膚を噛みちぎる。
『はぁ、はぁ、はぁっ、』
ばたり、と、
噛みついていた男の腕が、地面に落ちる。
僕が噛みついたところがえぐれて、血が出ていた。
僕は後ろを向いて、男が着ている服のポケットから鍵を取り、
琥珀さんの手に付いている、手錠を外す。
ばたり、
30
頭を、優しく撫でられている。
この感覚、
心地よい。
安心する。
目を開ける。
と、
琥珀さんがいた。
琥珀さんが頭を優しく撫でていた。
いつのまに、寝てたのか?
『甘ちゃん、ありがとう。』
琥珀さんが笑顔で言う。
この笑顔を、守れたのか、
良かった。
僕も、自然と笑顔になる。
僕は、琥珀さんの頬に手を伸ばし、
優しく撫でる。
傷ができている。
あぁ、
いつの間に…
僕の手足の錠も外してくれたのか、
僕は立ち上がる。
『もう、いく?』
『あぁ、行こうか。』
『怪我は?体調は大丈夫?』
琥珀さんが心配してくれる。
『大丈夫。それより、ここから早く出よう。』
僕は琥珀さんに手を伸ばし、引き上げる。
『ちょっと待ってて、』
振り返ると、
琥珀さんは自分の足についていた錠を外そうとしていた。
僕はしゃがみ、鍵を持ってそれを外す。
『ごめん、僕のことを優先してくれたんだね、ありがとう。』
琥珀さんは自分のことより先に、僕のために色々してくれたんだ。
『甘ちゃんが助けてくれたから、せめて優しくしてあげたかったの。甘ちゃん、カッコよかったよ。』
嬉しかった。
僕は鉄格子の鍵を開け、外に出る。
こっちかな?
どこが出口かがわからない。
とりあえず歩く。
と、
隣にも、鉄格子があり、
中に人影がある。
その人はこちらに気づくと、
身体を震わせて、
怯えていた。
この人も、捕まっていたのかな。
僕は、鉄格子に鍵を刺して、
扉を開けた。
『もう、大丈夫ですよ。一緒にここを出ましょう。』
僕は、手を伸ばす。
まだ、怯えていたが、
手を、こちらへ伸ばしてくる。
そして、
僕の手の上に乗せられた。
僕はゆっくり引き上げる。
『男は今、倒れています。今のうちに行きましょう。』
他にも、いないか確認した方がいいだろう。
『少し、他の方も見てきます。』
そう言って僕は、周りも見てみる。
もう、いないみたいだ。
それほど広くはなかった。
出口らしきものもない。
薬品が入った試験管だらけの机、
実験について色々書かれた紙が置かれている。
と、
これは、
僕の銃だ。
持って行こう。
そして、先ほどの人、
女性と合流して、出口らしき扉を開ける。
光がさす。
眩しい。
ここは、外だ。
僕たちはそこから少し歩く。
と、
『あそこにいるの、銅だ!』
声がする方を見ると、
如月さんが走ってきていた。
鷹也隊長と東雲さんも、後を追う。
『傷だらけじゃないか!』
如月さんが心配してくれた。
『甘君、一体何があったんだ?』
鷹也隊長が、訊いてくる。
『ある男に、捕まって…』
まだ、体調が良くない。
僕はその場でしゃがむ。
『わかった、そちらは私に任せてくれ。如月さんと東雲さんは傷の手当てを、』
そう言って鷹也隊長が建物へ向かう。
『東雲さ…』
如月さんの声が聞こえた気がした。
が、
『美雪、無事…だったのか…』
東雲さんの声がした。
『光輝…』
そして、先ほどの女性の声がした。
この方が美雪[ミユキ]さんなんだろう。
『東雲!とりあえず、傷の手当てを!』
如月さんが、僕に肩を貸してくれた。
如月さんが僕の傷の手当てをしてくれた。
顔にガーゼが貼られた。
東雲さんはうかない顔をして、美雪さんの傷の手当てをしていた。
『東雲、そのじょーちゃんと知り合いなのか?』
僕も、気になっていた。
『美雪は、僕の妹です。』
え?
東雲さんの妹だったのか、
『妹が?確か、ある時から家に帰ってこなくなったって…』
如月さんが言う。
帰ってこなかった…
ずっと、あそこに閉じ込められていたのか、
『はい。僕はずっと、妹の手がかりを探していました。』
そうだったのか、
『怪我をしているし、怖い思いをしてしまったと思うけどよ、無事に見つけられてよかったじゃないか!』
如月さんは笑顔で言う。
『はい、良かった…です、』
東雲さんが涙を流しながら言う。
『銅さん、美雪さんを助けてくれてありがとうございました。』
東雲さんは頭を下げた。
その後、あの男は捕まった。
そして、建物内から危険な薬品が、複数見つかったそうだ。
でも、何とか終わった。
無事、脱出できた。
僕たちは家に帰る。
-僕は、久しぶりに戻ってきた妹と、剣士所内の家に帰る。
『本当に無事で良かったです。』
『また、光輝と会えて嬉しいよ。』
美雪が笑顔を見せてくれた。
『何か、酷いことされませんでしたか?』
僕は美雪が心配だった。
『色々、酷いことをされたけど…大丈夫だよ。』
少し、悲しそうに言った。
『明日は休みを取ったので、病院で診てもらっ…』
『うぅっ!』
急に美雪が苦しそうにし始めた。
僕は駆け寄る。
『美雪!大丈夫ですか?ミユ…』
胸の辺りが痛い。
なぜだ。
僕は、胸を見る。
!
美雪の腕が、僕の心臓に向かって伸びている。
その手には、
ナイフが、
『ミユ…キ……どう……し……、』
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
美雪は、ナイフを抜く。
様子のおかしい美雪が、赤く染まっていく。
僕は、倒れた。
『ミ…ユ………キ………』
もう、助からないだろう。
僕は、目を閉じた。-
31
Ⅻ
僕は、知りたくない事実を知った。
東雲光輝さんと美雪さんが、自宅で亡くなっていたと。
美雪さんの胸に、ナイフが刺さっていたそうだ。
なぜた?
なぜ、こんなことに…
僕たちは見回りの時間になった。
『ありえない。何があったんだよ、東雲…』
如月さんは悲しそうにそう言った。
こんな気持ちで、見回りなんてできそうにない。
でも、見て回る。
もう、こんなことが起きないために。
と、
〔こちら第2隊!水族館近くだ!援護を頼む!〕
無線から、必死な声が聞こえた。
『急ごう!』
僕たちも向かう。
嫌な予感しかしない。
こんな時に、やめてくれ。
水族館の近くまできた。
すると、
『くたばれ!クズどもが!』
嫌な言葉だ。
僕は声がした方を見る。
そこに、複数の人が争いあっていた。
片方は第2隊だ、
もう片方に、
!
嘘だろ、
もう、やめてくれ、
どうして…
敵がいる方に、
1人、剣士用の服を着た男が立っていた。
『どうしてだ、北崎。』
鷹也隊長が言う。
『来たのか、鷹也。悪いがお前も、その仲間も死んでもらうぞ。』
北崎と言われた男の後ろに、複数の人が立っていた。
『悪いな〜、コイツは俺の仲間なんだ、あんたらは裏切られたのさ。』
裏切られた、
鷹也隊長から昔、仲間が暴れ出したと聞いた。
まさか、また?
鷹也隊長は悲しそうな表情をしていた。
『そんな、嘘だろ。』
如月さんも悲しそうだった。
くっ、
すでに数人の第2隊の仲間が傷を負い、倒れている。
『ふざけんなよ、こんな時に!まさか、この時を狙ってたのか!』
苦しんでいる時を狙ったのか?
『まず、東雲と美雪を殺したのはお前らか!』
如月さんは、悔しそうに言う。
『東雲たちのことは僕たちとは関係ないね。だけど、この時を狙ったのは本当だ。だって、心が弱っている時が1番の狙い目だからねぇ。』
っ!
『鷹也、君の命が狙いだ!』
北崎たちがこちらへ走ってくる。
『北崎は私が相手をする。』
鷹也隊長は怒っているようだった。
『いいのか?』
『あぁ、』
如月さんの言葉にそれだけ言った。
『じゃあ、周りの奴を倒すぞ、銅。』
『はい。』
僕たちは剣を構える。
僕の方へ、数人のナイフを持った男たちが襲いかかる。
『ガキかと思ったら、一匹狼か!』
1人がまず、ナイフを向ける。
『ぐっ!』
剣で、攻撃を抑える。
が、
まだ、周りに
他の男がナイフを振り回す。
攻撃を防ぐことしかできない。
『うぐっ!』
横腹を斬られる。
剣を振り回してくる。
『っりやぁっ!』
剣を振るう。
が、
『あがっ!』
また、斬られる。
敵が多すぎる。
琥珀さんを守るだけで精一杯だった。
いや、琥珀さんも守りきれていなかった。
『いたっ!』
『やめろおっ!』
僕は必死に争う。
数人を蹴り飛ばし、殴り、剣で斬り、
だが、それと同じくらい、ナイフで切られてしまった。
『あぁっ、ぐぅぅっ!』
『銅!』
如月さんも、こちらに参戦してくれた。
そして、第3隊も駆けつけてくれたようだ。
戦う。
諦めてはいけない。
昨日のように戦え!
『はあっ!』
生きるために、
助けるために。
守るために。
剣を振るえ!
『やあっ!』
敵を倒していく。
もう少しだ!
僕は剣を構えて、
男の右腕に刺す。
そして抜く。
男は、持っていたナイフを落とした。
あと、近くに敵は
あたりを見回す。
と、
『鷹也隊長!』
鷹也隊長が苦戦しているみたいだった。
32
鷹也隊長は北崎と言われていた男と戦っていた。
!
脇道から、男が数人出てきた。
ナイフを持っていた。
と、
ドドドドド‼︎
銃を撃ってきた。
『琥珀さん!』
一発、片足にあたる。
『ぐ!』
片足を引きずりながら、鷹也隊長の方へ、
北崎に、
剣を構える。
が、
鷹也隊長と北崎が剣を振るう。
速い!
『なぜだ!北崎!』
鷹也隊長の声、
僕も戦う。
剣を振るう。
が、
『ああっ!』
あっさりと腹から胸まで、斬られた。
『甘君!離れるんだ!』
僕は離れるしかなかった。
琥珀さんを連れて、離れる。
嫌な音が聞こえた。
怖かったが、振り返る。
‼︎
そこには、
胸に、剣が刺さった北崎と、
胸に、剣が刺さった鷹也隊長の姿が。
ばたり、
2人ともその場で倒れた。
『隊長!』
僕は急いで駆け寄る。
『甘君…すまない……たいしたこと、ぐっっ!……でき…なくて、』
『隊長、ごめんなさい!僕のせいで、ううっ!』
僕は涙を流していた。
僕のせいだ。
僕が勝手に鷹也隊長の方へ行ったから、
余計なことしかできなかったから、
『如月さんもあっちに行ったほうがいい』
後ろで声がした。
そして、
『シンちゃん‼︎嘘だろ‼︎』
如月さんが大声をあげる。
鷹也隊長は優しい笑顔を向けて、
『あと…は、…頼み……ます……』
如月さんが、鷹也隊長の手を取る。
『何で、1人で戦ったんだよ!俺は、こんなの望んでない!1人で責任を背負う必要は…なかったのに…』
如月さんが、涙を流していた。
でも、鷹也隊長は何も言わなかった。
『目を…覚ませよ………シン…ちゃん…』
もう、少したりとも動くことはなかった。
また1人の命が終わってしまった。
また、大事なメンバーの1人が失われた。
『あぁ!ああぁ!』
僕と如月さんはしばらく、そこで泣いていた。
『・・・』
如月さんと琥珀さんと、
3人、黙り込んでいた。
『・・・』
沈黙が続いた。
思い出すだけで辛い。
初めて、人の死を見た。
優しくしてくれた鷹也隊長が、
すぐ近くで、
僕を逃して、
目の前で、
なぜ、僕は逃げた…
僕が立ち向かっていたら、助かったかもしれないのに、
『俺は、このあとどうすりゃいい?』
如月さんが言う。
『わかりません…』
第1隊は、1日で2人が失われた。
2人とも、残酷な終わり方で、
信じたくなかった。
『3人でどうすれば…』
如月さんはそう言った。
『わかりません…』
何もわからない。
ショックだったから。
鷹也隊長が亡くなったことも、
僕の弱さも、
『少し、1人になってもいいか?』
『はい。』
如月さんはどこかへ行く。
僕も家に帰ろう。
33
テーブルに置かれていた紙、
1枚を持って帰った。
そこには、東雲さんたちに何があったのかが書かれていた。
美雪さんの身体から、危険な薬物が検出されたそうで、そのせいで美雪さんが東雲光輝さんを殺したのだろう。そしてその後、美雪さんは自殺したのだろう、
と書かれていた。
あの男が、美雪さんに何かをしていたんだ。
!
そうだ、
美雪さんを連れ帰ったのは僕だった。
なら、
僕のせいだ、
『くぅっ……ううっ…ああっ…』
涙が溢れる。
悔しい。
昨日、僕は強くなれたと思っていた。
でも、違った。
僕は強くなんてなっていなかった。
弱いままだ。
もう嫌だ。
辛い。
苦しい。
逃げたい。
もう、疲れた。
『甘ちゃん、』
琥珀さんが、僕の身体を引いてくる。
僕は、琥珀さんの太ももへ倒れる。
今は、そんな気分じゃない。
『甘ちゃん、よく頑張ったね、』
!
それは、
『違う。僕は頑張れなかった。守れなかった。弱いから、守りきれなかった。』
僕は強くなんてないんだ。
『余計なことしかできなくて、結果がこれだ…くそぉっ……ちくしょう…』
後悔しかなかった。
なんであの時…
『甘ちゃんは弱くなんてないと思うよ?』
琥珀さんは優しくしてくれた。
でも、
優しさだけでは強くなんてなれない。
逃げることはしたくない。
それが、事実だから、
変えられないんだ。
『弱いよ、今日のでよくわかった。全然はがたたなかった。浮かれてたんだろうな。』
『そんなことはないよ。琥珀はもっと、何もできなかったから。昨日、あの人に言われてわかった。ううん、知らないふりをしてだだけでわかってたの。琥珀が足手まといでしかないって、』
『そんなことはない!僕は琥珀さんがいてくれるから戦えた。助けたいって、守りたいって思えたんだ。死のうとした時も、琥珀さんのおかげで今を生きれているんだ。僕は、たくさん、琥珀さんに救われたんだ。』
琥珀さんが僕を救ってくれた。
そんな琥珀さんの優しさが羨ましく思っていた。
『でも、甘ちゃんは悪い人に立ち向かえるでしょ?琥珀には、できないことだよ、』
『…っ!』
『甘ちゃんはね、ずっと誰かを救いたいと思っているし、ちゃんと行動までできる強い人なんだよ?』
そういうものなんじゃないのか?
行動することは勇気がいることだ。だけど、見捨てるのにも勇気がいる。
『でも、甘ちゃんは救えなかった時、全て自分のせいだと思っちゃうみたい。』
『それは、だいたい僕のせいだからだよ。』
だいたい僕のせいだ。
昨日のも今日のも、僕のせいだ。
『違うよ、甘ちゃんが救わなきゃいけなかったわけじゃないでしょ?周りにも、助けられたかもしれないのに、行動できなかった人がいる。その人たちは?もっと悪くない?』
『え、』
そこまで見ていなかった。
そう、なのかな…
『でも、甘ちゃんは見捨てなかった。自分が弱いと思っても、誰1人見捨てなかった。なのに甘ちゃんは優しい子だから、全てを1人で抱え込みすぎちゃうんだよ。でも、それは、自分が辛いだけで、損をするだけなんだよ?』
・・・
そうなのかな。
『そんな優しい子には、ご褒美をあげないとね?』
へ?
琥珀さんが僕の頭を優しく撫でてくれる。
『よく、頑張ったね。辛い時も、苦しい時も、諦めず立ち向かってえらいよ。そんな子の彼女になれて、守ってもらえて嬉しいよ。いつも助けてくれて、優しくしてくれて、隣にいてくれて、本当にありがとう。』
!
『くぅっ!』
『泣いてもいいんだよ、辛かったね、苦しかったね。辛いことを愚痴っても、琥珀にちょっと悪いことをしてもいいんだよ?いっぱい頑張ったから、いっぱいわがままになってもいいんだよ?琥珀に甘えてもいいんだよ。ね?』
『ううっ!ああっ!』
『琥珀になら、我慢しないで?何も気にせず、やりたいようにして?』
『ああぁぁぁぁぁぁっ!』
僕は泣いた。
彼女の前で大泣きした。
琥珀さんの優しさに安心して、
辛かった全てを出し切るように、
『誰にも甘えられず、辛いことを言えず、心に溜め込んでしまって、辛かったね。でもね、甘ちゃんはいい子なんだよ、』
僕は琥珀さんに抱きついて泣いた。
ずっと、泣き続けていた。
こんなに安心できたのは初めてだったかもしれない。
僕を大事に思ってくれる、琥珀さん。
その優しさに、甘えてしまった。
-甘ちゃんが抱きついてきた。
こんな甘ちゃんは初めて見た。
本当に辛かったんだろう。
琥珀は近くで見てきたからわかる。
琥珀のために、自分を犠牲にしていた。
琥珀が傷つくはずだったことも全て、甘ちゃんが背負ってしまった。
なのに、
何もしてあげられなかった。
私は、見ていることしかできなくて、私のわがままばかりして、
もっと迷惑をかけちゃった。
だから、辛かったはずだ。
記憶になくても、疲れてはいたはず。
記憶がなかったからこそ辛かったこともあったはず。
甘ちゃんは本当にいい子なんだ、
私はそんな甘ちゃんのことが、
『大好きだよ。』
甘ちゃんはいつのまにか眠ってしまったみたい。
琥珀の胸で、心地良さそうに眠っている。
起きている時は男らしいのに、今は特に、子供みたいな寝顔をしている。
甘ちゃんの目から溢れている涙を、指で拭く。
『おやすみ、甘ちゃん、』ー
第1章,END
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