寝てしまえば簡単だって思った。あの人しか知らない自分を変えてしまえば。
アントンの言うとおり、アントンなら僕を泣かせるようなことはしないだろう。
触れられるたび、あの人の指じゃないと、手のひらじゃないと自覚する。
唇も、あの人とは違う。キスだって、当たり前なのに。
「やーめた」
アントンの動きが止まる。覚悟は決めていたつもりでも、僕は。
「……アントン?」
大きなため息をつき、アントンは僕に背を向けた。
「どこ触ってもキスしてもずっと呼んでる。気付いてないの?」
「なに、を」
「僕じゃない名前。言わない、それ以上は」
アントンが去ってからよくよく考えてみた。声には出していないはず。なのに。
僕はずっと唇だけでウンソクを呼んでた。あまりにも愚かで、涙が出る。
離れたのは自分だ。つらかったから、勝手にウンソクのせいにしただけだ。今更戻れるわけがない。
こんな僕でもいいとアントンが言ってくれるなら、ちゃんと向き合うべきだ。
ただ、今日はもう疲れた。ベッドに寝転がる。ウンソクが置いていったトレーナーの匂いを嗅ぎながら、眠りについた。
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