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「 好き 」
って初めて言われたのはいつだったっけ。
…あ、俺の誕生日の前の日だったかな。
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6/16 23:58
誕生日の前日、俺は1人寂しくディスコードで編集作業をしていた。
すると、誰かが入室する音が響く。
「 お、きゃめやん 」
「 おーニキくんおつー 」
音の正体はニキくん。
「 …えキャメ明日…ていうか2分後? 」
「 誕生日じゃねえの 」
「 そうだよ 」
「 なのに? 」
「 …何さ 」
だいたいニキくんが言いたいことは察しがつく。
なんであと2分で誕生日を迎えるやつが1人でディスコ入って作業してるのかって。
「 …ぼっちなんけ、お前。 」
余りにも声が暗かったのか、いじりにくそうな雰囲気を出してきやがる。
「 ぼっちじゃねえよ別に笑 」
「 …へえ 」
あれ、珍しいな。
いつものニキくんならこんなにいじりやすいチャンス、逃すはずないんだけど。
6/16 23:59
「 …なあキャメ? 」
「 なあに 」
俺が返事をしたのに一向に続きは話されない。
なに?なにごと?
「 …え?ニキくん?死んだ? 」
「 …死んでねえよ 」
6/17 0:00
「 好き、キャメ 」
「 ん?うん、ありがとう 」
何も考えずに俺はそう言うと、ニキくんは大きくため息をついて。
「 …はーあ、これだからいつまで経っても童貞なんだよキャメは 」
「 はあ??笑 」
「 別に童貞じゃねえし 」
「 てかどうしたの急に?笑 」
「 …分からんならいいよ、これ言いに来ただけだし 」
「 ええ? 」
「 おやすみキャメ 」
「 あ、おやすみ、 」
またもや珍しい。あの昼夜逆転男のニキくんがこんな時間に寝るだなんて。
ていうか、ニキくんにしては少し、いやなかなか変だった。
なんだか態度もいつもよりよそよそしかったし、何より現状ぼっちである俺をいじり倒さないだなんて、いつものニキくんなら絶対しないのに。
…あ、そういえばX巡回しなきゃ。
LINEもいっぱい来てるし。ゆっくり返してこー。
そう考えるとおもむろに机の上に置いてあったスマホを手に取ってロックを解除する。
振動し続けるスマホ。なんだかこの瞬間は満たされる。
りぃちょくんからも、せんせーからもじゅはちからも。
もちろんニキくんからだっておめでとう、って来てた。
…なんなんだろ、さっきのニキくん。
…好き、って。
そりゃ俺もニキくんのことは好きだよ?
でも、なんだかその好きとはまた違っている気がして。
直接会っていれば、また話は変わってくるはずなんだけど。
…あ、またりぃちょくんからLINE。
『 明日!キャメさん家でキャメさんお誕生日おめでとうパーティーするよ! 』
俺ん家?主役なのに俺ん家なんだ。
少し驚いたが来てくれるらしいので快くOKした。
誰かが俺の家に来て祝ってくれるなんて、何年ぶりだろう。
配信でもするのかな。家バレしないといいけど。
そこまで考えて、ふと思い出す。
「 …ニキくん、来る… 」
なんだか意識してしまって。こんなに考えてるのは俺だけなのかもしれないのに。
そうだ、俺に対する感謝だったのかもしれない。
そう、そうだ、そういうことにしよう。
1人で勝手に考えて、納得して。
1人で勝手に胸の中のモヤモヤは晴らしたつもりになっていた。
6/17 19:25
りぃちょくんたちは7時半頃には来ると言っていた。
ご飯も買ってきてくれるらしいので俺は何もせずただただ待機してていい、って…
ニキくん、りぃちょくんは少し不安だけど、せんせーとじゅはちがいるしなんとかなるだろう。
…変なもの、買ってこないといいけど。
そこまで考えて、1人でくふくふ笑って。
…楽しみだな。
ざわざわとした声が聞こえてくる。
「 …あ、そろそろかな、 」
そう言って立ち上がって、ドアの鍵を開けた。
それと同時にドアが開いて、目の前にニキくんの顔があった。
「 うお、キャメやんびびったー。 」
「 今鍵開けたばっかだよ 」
「 うえーいそんなタイミングいい事あるんだね 」
「 ほらほら、ニキニキ早く進んで! 」
「 後ろに3人もつっかえてるんだから 」
ぐいぐいとりぃちょくんに背中を押されるニキくん。
はいはいなんて言いながら入ってくる彼の後ろからぞろぞろと大人3人が入ってくる。
男の一人暮らしの部屋に大人5人が座るとなるとそれはそれはぎゅうぎゅう詰めで。
一応今夜の主役である俺は真ん中、その右隣にはニキくん、左隣にはりぃちょくん。
そして向かい側にせんせー、じゅはちが座っている。
りぃちょくんは初めからハイペースで飲んでいてもう既にベロベロである。
「 ほおらきゃめさんものんでのんで! 」
そう言って缶を持つ手をグラグラさせながらりぃちょくんの飲みかけの缶を俺の口元へと寄せてくる。
「 りぃちょくん、お酒弱いんだからさあ笑 」
「 りぃちょはもうちょっと自制出来るようになろうな。 」
なんてせんせーが言って。
じゅはちもなかなかに強い方ではあるが、結構な笑い上戸になるのですぐにツボに入ってしまいケラケラと笑い続けている。
一方ニキくんは何故か今日に限っていつもより静かで少しむす、とした顔をして1人静かにお酒を嗜んでいた。
「 おお、?なんやニキ今日えらい静かやな 」
ちょうどいいタイミングでせんせーが聞いてくれた。
するとニキくんは弾かれたかのように顔を上げると慌てていつもの笑顔を作って、
「 ええ?そんなことないよ笑 」
「 なあキャメ? 」
そう言って肩を組んでくる。酔っているのか酔っていないのか。
「 ええ笑今日大分静かだと思うけどねえ笑 」
俺がそう言うと目尻のしわをくしゃ、とさせて笑った。
するとニキくんは大きく伸びをして立ち上がり、声を張った。
「 ほーら、りぃちょ!18!ボビー! 」
「 起きろよ!キャメにHappyBirthday歌うぞ!! 」
なんて言って急に大声で歌い出すもんだから、それがつい面白くてずっと笑ってた。
ああ、幸せだな、なんて考えながら。
時は経ち、夜が更に闇を増した頃。
起きているのは俺とニキくんの2人だけとなった。
せんせーも珍しく眠りこけてしまい、りぃちょくんは…まあいつも通り。
じゅはちは明日予定があるとかなんとかで俺とニキくんで送り届けた。
2人で片付けを済ませ、ひと段落。
煙草吸ってくるわ、そう一言放ってニキくんはよいしょと立ち上がり、煙草に火をつけながらベランダへと歩いていった。
ニキくんが白煙を吐き出しながらこちらを向いて、また一言。
「 ねえキャメ? 」
「 はい 」
また、まただ。また昨日の夜と同じ。
「 俺はね、キャメが好きだよ 」
「 知ってるよ。俺も好きだし 」
感謝の意味だと捉えてそう返す。
でもニキくんは不服そうな表情を浮かべ、煙草を灰皿へ押し付けてからベランダから帰ってきた。
「 違うよ 」
「 キャメは全部勘違いしてる 」
「 俺が言いたいのは 」
「 キャメと付き合いたいよ 」
「 …ってこと 」
「 …うん 」
自分でもこんな曖昧な返事しか出来なくて申し訳ないと感じているが。
それでも、薄々勘づいていても。どうしても受け止めきれなくて。
そんな俺の感情が顔に出ていたのだろうか。
俺の顔を見たニキくんは柔らかく笑って、
「 別に、返事なんか要らないよ 」
「 …んー、 」
考えるふりをして、顎に手を当てて。
「 …ふ、笑 いいこと思いついたわ 」
にやにやと笑みを浮かべるニキくんはすっかり元通りで。
だけど俺を見つめる視線は少し妖艶で。
不覚にも心拍数は上がる。
「 キャメにちゃんと伝わるまで俺言い続けるわ 」
「 …え? 」
思っていたよりもとんでもなくやばいのがきた。
言い続ける?好きって?
「 え、?え? 」
「 だーかーら、笑 」
「 俺はキャメに俺がちゃーんとキャメのこと好きだって、愛してるよって伝えるために言い続けるよ、好きって。 」
「 ええ、ちょ、えぇ、? 」
ときめきたくなんかないのに、意識せずとも自分の頬が紅潮していくのが分かる。
「 いゃ、ちょ…、ええ?? 」
「 照れてるじゃん 」
「 もう俺の勝ちじゃね?笑 」
「 いやいやいやいや、 」
「 あ、じゃあいいよ勝負ねこれ 」
「 先に折れた方の負け。 」
しっかり目と目を合わせてこんな事を言われてしまったら、照れないやつなんていないだろう。
ふい、と目を逸らしてしまう。
「 あー、逸らしたからキャメの負けね 」
「 ええ!? 」
「 嘘嘘笑 」
「 流石にそこまで俺も鬼畜じゃないよ 」
「 …ねえ、負けたらどうする? 」
「 ええ、どうしよっか 」
「 んー、 」
「 じゃあ、キャメが折れたら俺と付き合ってね 」
「 …うんうん、 」
「 って、はあ!? 」
にやにやと笑うニキくんはむかつくけど月の光に照らされて俺の瞳に美しく映っていた。
「 はい、俺とキャメの賭けね。 」
ぽん、と頭に手を乗せられた。
先手必勝が絶対な世界なら、100%負けているだろう。