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R-18は無し。
🎸、🎤メイン。
episode 1“君に逢いたい。”
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幼い時に見た。幼馴染。
「また、逢おう」
「……‼︎うん、……約束」
そう約束を交わして長い年月が経とうとしていた。笑う、君。俺も、笑う。
そんな日は、…終わりを告げる。
ずっと、笑っていたかったな。
君と一緒に。
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4月初めの夜。
俺は愛用しているパソコンを開く。
ギターを持ち、弦に手を絡める。
音楽アプリ、『青リンゴ。』
このアプリは歌い手の卵がうようよと存在し、成功したらアーティストとして認めてもらえるんだそうだ。
俺は口を開く。…。自分の歌声が聞こえる。
……大嫌いだ。俺の歌声。
「……君の方が上手かったな、」
10年前の記憶の限り、君はとても歌が上手く、引き寄せられた。輝く瞳に俺は、……。
「恋した、なんて言えるかよ、」
俺は愛する人を探すために。見つけてもらうために。歌う。弾く。
「ケセラセラ、今日も唱える、…」
俺の乾いた歌声が部屋に響く。
この曲も君が昔、作曲してくれた曲でよく公園で聞かせてもらった。あの時の歌声も美しかったな。……顔が自然と歪む。
名前は確かー。……大森元貴。
「……元貴、逢いたいな、」
「逢えるといいけど、」
そう言いながら俺は歌う。歌い続ける。
たとえ、自分の声が嫌いでも。大嫌いでも。
何もかもを我慢してでも、君に逢いたい。
見つけて欲しい。俺の存在を。
「………生まれ変わるならまた私だね、」
歌い終わり、ギターを下に置く。確認をするため、もう一度音声を聞く。………吐き気がするほどに気持ち悪い歌声。
「ははっ、ひっど、……なにこれ、…」
独り言を呟く。君ならもう少しだけ、上手く歌えていたのだろうか。高く、美しく、魅了された瞳。
「……投稿、」
こんな酷い声を誰も聞きたくないだろうが、
撮り直すのも面倒だったのでとりあえず投稿した。顔は映されておらず、手だけだ。
「……元貴。」
君の名を呼んだ。…呼吸するように。
自分の歌声を聞けば、海の底にいるかのように、息が苦しくなって、上手く生きれない。
君のことを思い出すだけで、呼吸が上手くできて、吸えて、上手く生きられる。
「………あ、いいね、」
パソコンの場面を見れば、いいねが一つだけついているのが確認できた。こんな下手な歌声でもいいねしてくれるやつはいるのか。
クリックした。プロフィールが出てくる。
「……M、さん、」
プロフィールの名前を復唱した。
Mさんはコメントを残してくれていた。
『すごく、好きな歌声。
なんて言うのかな。笑昔を思い出す。』
と。コメントが貼られていた。
「………っ、……」
嬉しいけど嬉しくない。好きな歌声だと言われても、俺は嫌いだ。複雑な気持ちが俺の心を襲った。呼吸が荒くなる。
「はあっ、……。……大丈夫だから、…
落ち着いて、…っ、…」
俺は自分に言い聞かせた。
気持ちが落ち着く。すうっと深呼吸をして、
パソコン場面を閉じる。
「……洗い物」
俺は一人でいることを改めて感じさせる。
出しっぱなしの服。洗い物。洗濯。
全部俺がやらないといけない。
「………まあいいや、…」
俺は、まだ、16歳の少年だ。
両親は共に他界している。目の前で車に轢かれて亡くなった。ただ、…すこしだけ。
嬉し かった。
「………カップ麺、」
俺は棚からカップ麺を取り出して、お湯を注ぐ。浮いてくる食材。すこしふっと笑って。
「うん。美味しい」
久々に食べるカップ麺はとても美味しいものだった。一人。広い場所で。少し寂しかったけど、ほとんど寂しさなんか感じない。
「……。」
「あ、通知」
音楽アプリ『青リンゴ。』から通知が流れる。スワイプすれば、それはMさんの動画だった。おすすめに流れてきた。
ー。…高く、美しく、何もかも忘れてしまいそうな歌声。
「……っ、ぇ」
思わず声を上げる。昔、大好きだった。
あの声に似ている気がした。
「……っ、き、気のせいだ。」
「これはきっと、」
“気のせいだろう”と俺は自分に言い聞かせた。
next、50♡
君に逢いたい。