何かに怯えて生きるのは本来正解であるべきだったのでは無いだろうか。
電車の揺れる時間で揺れる音に黄昏ながら毎度と思う。それに混じえて聞こえる荒い息遣いと耳に入れ難い戯言を避けようと目を閉じた。
幼い頃に初めて知った異常な常識。人間誰しもが抑えられない感情を持つことを『変質』と言うらしい。そして、それが僕にはないことも真実らしい。
いつかの授業で聞いた。
人間である以上、男女で恋愛に発展することは自然の摂理であって、その上、大きな事件が起きることも自然であるということ。
人間は自分の持つ『変質』によって、他人に迷惑をかけるということ。
それは正しいということ。
そして、……例外はないということ。
「かッわ……いッ……す…ぃ……だぃ……す…ッ」
ここは電車の中。知りもしない女子高校生が僕に擦り寄ってくる。耳に、首に、頬に息をかけ、湿った手で僕の手を握る。欲しがろうとも出来ない感触に僕はじっと耐えることしか出来ない。
変質の基本情報は3つ。
1、どの条件においてもいつ露出するか分からない。
2、好みの異性にのみ反応し、血液型で相性がある。
3、制御ができず、本来の性格を失う。
この変質の露出に対する僕の対応は何もしないことが正解らしい。できるだけ反応せず、性欲を抑え、じっと露出が終わるまで待つのみ。周りは助けてくれない。
(暑いな。早く……終わってくれ……。)
そう思うも、事態は留まることを知らないようで、股を掴まれれば強く揉まれる。痛みと不安感は増し、意識も1つ遠くなってきているのを感じる。
(ぁ……あぁ……声、出そう…)
咄嗟に口を抑え、喉の奥から込み上げてくる酸味を取り返した。だんだん体の力は抜け、電車の扉に寄りかかるように体制が崩れた。
「……んッ……ぐぅッ……」
同時に、急な揺れが襲ってくる。急停車のような傾くような揺れ。そして、背中の扉が擦れた。
(あ……着いた。)
ギリギリで救われるのも僕の生活らしい。
「おはよー。数学今日テストだっけ?プリント見せて。」
「社会もあるし。教科書150ページから出るってよ。」
教室に着くのはまあまあ落ち着く。余計な心配がいらないし、保護されることが確定しているからだ。
現在の学校では、血液型ごとにクラスが分けられ、変質の露出が起こってもある程度対応できるようにしている。
血液型の相性としては、4つ。
ab×a a×b b×o o×ab
左は男性、右は女性となる。
ただし、必ず相性の血液型だからといって好みでない人間には反応しない。
僕の血液型はa型なので、このクラスにはaとab型の男子、oとab型の女子がいることとなる。このようなクラスはABクラス呼ばれ、もうひとつはBクラスと呼ばれる。
つまり、このことから察するに朝の女子高校生はb型であることがわかる。この相性に例外はなく、恋愛対象も異性であることが絶対だ。
(僕の『変質』は一体いつ現れるのやら……)
そして未だに『変質』が露出したことが無い僕だ。『変質』は女性の月経のようなものとは違い、人間の体には影響を及ぼさない。影響があるとしたら人格や感情くらいだ。あってもなくても大差ないのだ。ただ、それが常識である故、僕は『異質』だった。
「……おはよう。園村くん。」
ふと、声が届いた。いつも挨拶をくれるクラスメイト。名前は確か、橋那 歩とかだった…はず。
「…おはよう」
そのまま彼は席につく。隣だから、ついでに挨拶をくれているのだろうか。それ以上に関係がないのは気になるが。
橋那 歩、ab型、9月7日生まれ、乙女座。
黒の霞むような髪に、張り付くような肌。真っ直ぐ伸びた睫毛と奥が深いグレーの瞳が特徴的だ。羨ましいくらい魅力的だろう。
彼は僕と同様友達はあまりいないようで、いつも1人で本を読むか自主勉をするかの2通りしか見たことがない。凛としたかっこよさを持っているような感じもする。
(友達とか……なれたらいいな。)
時は過ぎ、4時間目。体育を挟んだ後の現国の授業で、少し疲れた雰囲気が漂っていた。静かな教室に僅かな私語が流れ、必然的に耳に入る。通知音と落下音の交互が繰り返され、リズムのないだらけた音が奏でられた。
そんな中、僕はスマホに目を向けた。奏でられた通知音のひとつは僕のものでもあった。知らない送り主の通知。この高校に入学してから何度かこの人から通知が来ることがあった。ただ、嬉しいものでは無い。
[好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き]
メッセージはそれだけ。不定期に同じメッセージが送られる。きっと、変質による露出だろうか。文字で済まそうとしてくれるだけありがたいが、いつ、連絡先を知ったのだろう。学校の人間だろか。
それ以降は何事もない授業で、時間を費やした。
「…園村くん。一緒に食べない?」
昼食の時間になってから、声をかけられた。橋那くんだ。普段教室でぽつんと食べていたものだから同情でもされたのだろうか。
「うん。一緒に食べよう。」
それか、学食を利用せず、お弁当を持参しているからだろうか。彼も同じのようだ。
無言で食べ進む。何か用があったのかと期待してしまったが、ただ単純に昼食を食べるという作業に徹するだけだった。
(何か…話してみようかな。)
「あのさ、数学のテストどうだった?勉強した?」
他愛もないがさりげなく聞いてみる。1度驚いたような目をされたが、すぐさま箸を置き、喉を動かした。
「勉強はしたけど、問5の問題だけ間違えたかな。関数苦手なんだよね。」
意外と初歩的な部分では?と疑問に思ったが、触れようとも思わなかった。いつも勉強しているからといって、得意と言う訳ではないみたいだ。
「結構頭使うよね。でも僕は点数には自信あるかな。」
彼は大きな卵焼きを口に入れてじっと見てくる。箸の先を咥え、キョトンとした表情が
見え、僕も見つめ返す。
「…ねぇ、尊くんって呼んでいい?」
え、と返したくなった。突然ではあるが、要求はこれだったということだろうか。仲良くなりたいのか、はたまた天然なのか。
「いいよ。僕も歩くんって呼んでいい?」
別に嫌ではない。でもそうなら、僕も同じように呼びたい。
「……橋那がいいかも。呼び捨てでいいから」
何か突き放されただろうか。1歩退かれた気がする。
少し目を背けた。
_____________________
前提が難しいかな。説明載せます。
変質⋯人間の承認欲求が露出したもの。主に性欲や恋愛感情が加算されやすい。
設定
異性同士の恋愛の概念のみがある世界。変質はその概念に乗っけられて動作する。
血液型相性
※字汚いです。すみません。
登場人物紹介
※ビジュは納得いく絵を書けなかったのでまた今度。黒髪となんか薄めの茶髪イメージしてる。
園村 尊 (そのむら みこと)
15歳 10月3日生まれ 天秤座 a型
身長 172cm 体重 64kg
性格⋯落ち着いている。探究心強め。怒ることは少ない。
橋那 歩 (はしな あゆむ)
15歳 9月7日生まれ 乙女座 ab型
身長 171cm 体重 65kg
性格⋯人前では静か。気を抜くと素が出る。ストレスを溜めやすい。
※後々増えるかも。
世界観としてはオメガバース的な感じになると思います。恋愛要素主軸で書きますが、世界観の深ぼりも多くなると思います。
感情要素多め、駆け引き多めです。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!