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身支度《みじたく》などを済ませた後《あと》、俺たちは再び『例の火山』に登ることにした。

俺はよく覚えていないが、ミノリ(吸血鬼)とカオリ(ゾンビ)がそこで反省させられているらしい。

今回は、俺とシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)がそこに登って、そこで反省しているであろう二人を連れ戻しに行く。

留守番が決定した他のメンバーの顔が一瞬《いっしゅん》、引きつったように見えたが全員の頭を撫《な》でると少し改善されたため「早めに戻るからな」と言った後、俺とシオリは『例の火山』を登り始めた。


「タン、タン、タン、タタタン、タタタッタタ、タン、タタン、タタ、タッタッタッー」


「シオリ、何歌ってるんだ?」


俺より少し前で行進をしている、シオリにそんなことを訊《き》くと、シオリはこちらを向いて後ろ歩きをしながら、こう言った。


「ナオ兄は『ガ〇パン』知らないの?」


「えっ? いや、知ってるけど……あっ! もしかして!」


「そう、あの有名なBGM、戦車道行進曲! パンツァー」


『フォー!』


俺たちはつい、拳《こぶし》を天に突き上げながら、言ってしまった。

あー、懐《なつ》かしいなー。

マウスの倒し方、やばかったなー。

あと、西住姉妹の一騎打ちも、かっこよかったなー。

最終章にも期待だな、これは。俺がそんなことを考えていると、頂上でとても大きな音が聞こえた。

その音から分かったことは、何者かが頂上で戦っているということだった。

俺とシオリは顔を見合わせると、首を縦《たて》に振《ふ》ったあと、急いで頂上へと向かい始めた。


「なあ、シオリ。あの音って、やっぱり」


「うん、多分。あの二人がケンカしてる音だと思う」


「まったく、あいつらはコブラとマングースかよ」


「でも、殺し合いに発展してしまったのなら、さっきので、どっちかがやられてると思うよ」


「ああ、そうだな。でも、あの音は物と物がぶつかった時になる音だった。だから、おそらく二人はまだ生きている。まあ、これはあくまでも俺の推測だから、本当かどうかは分からないけどな」


「そうだね。現地に行ってみないと、何も分からないもんね」


「ああ、そうだな。それに、あの二人のケンカを止めないと、この火山が崩壊《ほうかい》するかもしれないからな」


俺たちは走りながら、そんな会話をすると、歩くとかなりの時間を要する山道を数分で登りきった。(俺の身体能力は【鎖《くさり》】の力を使う度《たび》に化け物じみていく)

頂上に着くと、二人はそれぞれの固有武装を使って戦っていた。


「お前のその翼《つばさ》は! あたしの固有武装で消し炭にしてやるよ!」


「あんたの固有武装で、あたしに勝てるわけないでしょう!」


「なんだと! ぶっ殺すぞ! コラ!」


「なによ! あたしに敵《かな》うとでも思ってるの!」


固有武装『|光を喰らう黒影製の翼《ブラックイカロス》』は、ミノリ(吸血鬼)が手に入れた固有武装。空を飛ぶためだけでなく武器としても使える優れもの。

固有武装『|火山の力を司りし手甲《ボルケーノ・ナックル》』は、カオリ(ゾンビ)が手に入れた固有武装。

まるで火山の噴火の威力をそのまま打撃力《だげきりょく》に変えているかのように攻撃《こうげき》できる。

そんな物を持っている二人が戦っているため、周囲の地面はボロボロであった。


「お前ら、いい加減にしろよ! ケンカの原因はいったい何なんだ!」


二人は、こちらを向き均衡《きんこう》し合ったまま、こう言った。


「ナ、ナオト、良かった。もう、元気になったのね」


「マスター、復活おめでとう! 温泉での件は……その、すまなかったな」


「ああ、この通り、完全復活だ。温泉での件も水に流したしな。だが、そう言うお前たちは俺が眠《ねむ》っている間に、何をしていたんだ? 今も、ケンカをしているように見えるが……」


「ち、違うの! これは!」


「おいおい、何か勘違《かんちが》いしてないか? マスター」


「ん? どういうことだ?」


「あたしらは、ケンカをしているわけじゃねえ。この山の頂上のどこかに生えてるっていう植物を探してるだけだ」


「そうなのか? けど、ずいぶんと派手に暴《あば》れたように見えるぞ?」


「それは、仕方ねえさ。普段、その植物は眠《ねむ》っているからな」


「そんなことが……あってもおかしくないよな。この世界では」


「まあ、そういうことだ。だから、ここでこいつと戦ってるのは、それを無理やり起こすためなんだぜ?」


「そうだったのか。で? それは起きそうなのか?」


カオリ(ゾンビ)は、ニシッと笑いながら。


「全然、これっぽっちも起きる気配がないぜ!」


自信満々にそう言ったため、怒《おこ》るのがバカらしくなった。


「じゃあ、もう、お前たちが戦う必要はないってことだよな? ミノリ」


「ん? え、ええ、そうよ。でも、こんなに暴《あば》れても起きないなんて、本当にこの場所にしか生えないのかしら?」


ミノリ(吸血鬼)がそんなことを言ったので、少し考えてみた。

こんなに可愛《かわい》い幼女が二人でドンパチしているのに起きない植物……か。

普段は眠っている植物……いくら暴《あば》れても起きない植物……この場所にしか生えないという植物か。

うーん、名前さえ分かれば、どんな植物か見当《けんとう》がつくのだがな……。

俺が腕《うで》を組んで考えていると、黒いパーカーの袖《そで》をクイクイと引っ張られたので、シオリ(獣人《ネコ》)の仕業《しわざ》だと思い、そちらを向いた。


「どうしたんだ? シオリ。何か珍《めずら》しいものでも見つけたのか?」


「ナオ兄、ここはどこ?」


「えっと、記憶喪失《きおくそうしつ》かな?」


「違うよ。単純《たんじゅん》に、ここがどこなのかを訊《き》いてるんだよ」


「えっ? ここはどこって、それは……」


その時、俺の脳内《のうない》でオレンジが弾《はじ》け飛ぶ音がした。要するに、閃《ひらめ》いたのだ。俺は腕を組むのをやめて。


「シオリ、お前はいつからこの答えを導(みちび)き出していたんだ?」


シオリ(獣人《ネコ》)は、キョトンとした顔で。


「えーっと、この火山の頂上にしか咲かない植物があるって聞いた時からだよ」


「お、お前、すごいな。将来、探偵《たんてい》になれるぞ」


「そうかな? 私はただ、真実を見つけただけだよ?」


「かっこいいな。今のは、いったい誰《だれ》の言葉だ?」


シオリは、ニコッと笑って。


「わたしだよー」


そう言って、俺の手をギュッと握《にぎ》ってきた。

突然のことだったので、少し驚《おどろ》いてしまった。

だって、女の子の手って、びっくりするくらい柔《やわ》らかいんだもの。

お、おかしいな。俺っていつもこんな感じだったっけ? ま、まあ、いいか。今はそんなに気にする必要ないしな。


「じゃあ、二人に伝えるか」


「うん、そうだね。それとナオ兄の手、やっぱりすごくいいよ。みんな、この手の感触《かんしょく》が好きだって言ってたのがよく分かったよ」


「お、俺の手の感想はいいから、早く伝えにいくぞ」


「うん、分かった」


その後、俺とシオリは二人に真実を伝えにいった。



『ええええええええええええええええええええ!!』


二人のその反応はごくごく自然なものだ。だって、この山の山頂にしか生えないという植物は……。


「今、言ったことは全て事実だ。だから、ここに大人数で来ちゃいけないんだよ」


『そ、そんな』


ガッカリして体を小さくする二人の気持ちはよく分かる。

自分たちが正しいと思っていたことが、間違いだと気づいてしまったからだ。


「ということで、それが咲くまで、お前たち三人はできるだけ山頂から離れてくれ」


「分かったわ。その代わり、十分以上待っても咲かなかったら……」


ミノリ(吸血鬼)。


「分かってるよ。大声で、お前たちにここに戻るよう叫べばいいんだろ?」


「ええ、そうよ」


「まあ、しっかりやれよ? マスター」


カオリ(ゾンビ)。


「ああ、分かった」


「ナオ兄、ファイト!」


シオリ(『ノ○ノラ』の白のように、そう言った)。


「ありがとうござ……いや、ありがとう。頑張るよ」


そんな感じで、三人はできるだけ山頂から遠くに下行き始めた。さてと、しばらく待ってみますか。

しかし、それは俺があぐらをかいて座ってから、三秒も経《た》たないうちに咲いてしまった。


「早っ! こんなに早く咲くものなのか?」


咲いた花の名前は、俺たちの世界で言うと『リンドウ』。この世界では多分、『グリーンドウ』だろう。(バイオレットウガラシやインディゴマがあるから)

本来、この花は俺のいた世界では、こんな場所には生えないはずだし、そもそも、こんな深緑《ふかみどり》ではない。


『おはよう。今日もいい天気だね』


その花は急に俺の脳内《のうない》に直接、話しかけてきた。


「お前、話せるのか? すげえな」


『そうかな? この世界の植物のほとんどは人と会話できるよ?』


「……えっ? そうなのか? 初耳なんだが」


『それより、僕を採《と》りに来たんでしょう?』


「まあ、それはそうだが……」


『謎《なぞ》を解《と》いた者《もの》には褒美《ほうび》を与えるのが、この世界での常識。けど、それを与えるに相応《ふさわ》しい存在かどうかは、僕が決める。ねえ、君はどうやって僕が顔を出す条件を導き出したの?』


「暴れても出てこないのと、普段、咲かないのは、リンドウの花言葉《悲しんでいるあなたを愛する》のせいなんだろう? まあ、それを知っていたシオリはすごいが、なによりも、この火山にしか咲かないということを聞いただけで、それを理解したのがすごいな」


『なるほど、君はその子のおかげで僕を見つけることができたんだね』


「ああ、そうだ。だから俺じゃなくて、シオリに褒美《ほうび》を与えたいんだ。ダメか?」


『どちらにせよ、僕は自力で動けないからね……いいよ、君がその子に僕という褒美《ほうび》を与えるのなら僕は大歓迎さ。僕を見つけてくれた君に免《めん》じて、僕はそれを許すよ』


「そっか、ありがとな。ところで、どうして、この山にしか生えないんだ? それだけが分からなかったんだが……」


『ああ、それはね。ここに僕を植えた人が恋をしていたんだよ』


「それで?」


『彼女は、その人と一緒になりたかった。行くところまで行ったら、子作りもしてみたいと』


「……ほう」


『でも、それは叶《かな》うことはないと言っていた』


「どうしてだ?」


『……それは、彼女が人ではなかったからさ』


「……そっか。けど、どうしてその人は好きな人に自分の気持ちを伝えなかったんだろうな」


『人ならざる者《もの》が普通の人と普通の恋や結婚ができると思う?』


「そうか? 俺なら、大歓迎なのにな」


『……そうか……もしかしたら君が彼女の言っていた好きな人なのかもしれないね』


「えっ? それってどういう……」


『話はおしまい……あと、お腹が空《す》いたな。我慢《がまん》できそうにないから、先に謝《あやま》っておくね……ごめん』


「ん? それって、どういう……」


リン(グリーンドウを省略した言い方)は、地面にあるはずの根っこを俺の手首に刺(さ)して、血を吸い始めた。


「お前、動けないはずじゃ、なかった……のか?」


『ごめんね。でも、この世界の植物はだいたいが吸血種なんだ』


「は、はは、しょうがないな。だが、死なない程度に頼むぞ?」


『善処《ぜんしょ》するよ』


まさか、復帰早々に植物に血を吸われるとはな。


「……まったく、あなたは本当にあの頃から変わっていないのね、ナオト」


「……えっ?」


俺の背後から聞こえたその声に俺は聞き覚えがあった。


「『|強制睡眠《スリープ》』」


「……せん、せい?」


俺が眠《ねむ》る前に、一瞬《いっしゅん》だけ見えたその姿は間違いなく、俺の高校時代の恩師である『先生《アイ》』であった。


「『|完全破壊《デストラクション》』!」


『ク、【|純潔の救世主《クリアセイバー》】!? どうしてこんなところに! く、クソ! あと少しだったのに! おのれ、おのれええええええええええええええええ!!』


その植物は、瞬時に灰と化《か》すと風に飛ばされてしまった。


「……お人好しすぎるのが弱点なのは、あの頃から変わっていないのね……レプリカに騙《だま》されるなんて。まあ、それがあなたのいいところでもあるのだけれどね」


白いワイシャツ、白いスカート、白い靴下《くつした》、白い運動靴、白というより銀に近いショートヘア。

そして、瞳《ひとみ》だけが黒い彼女はあらゆる世界の頂点に立つ存在。その名は『アイ』。

彼の異変に気づき、モンスターチルドレン育成所から、どうやって助けに来たのかは不明だが、彼女のおかげで彼は助かった。


「本物の『グリーンドウ』が、あなたの右肩に咲いていたのに気づかないなんて……ふふふ、やっぱりあなたは面白いわね。ナオト」


彼女は、ナオトの寝顔を見ながら頭を撫《な》でた。


「『完全記憶操作《ザ・メモリー》』……ごめんなさい、ナオト。私の名前は、しばらく忘れておいてちょうだい。じゃあ、またね。ナオト」


先生はそう言うと、どこかに消えてしまった。

その直後、ナオトのことが心配で様子を見に来た三人が眠《ねむ》っているナオトを発見しなかったら、ナオトは動植物たちの養分になっていたかもしれない。

実は、ナオトの右肩に生えていた方がナオトと会話をしていた方で最後の方に会話していたのが、襲《おそ》ってきた方である。(『話はおしまい』のあたりから、後者が話していた)

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