「……えっと、俺は…」
「らっだぁさん、でしょ?話はきょーさんとレウさんの二人から聞いてるよ」
「あ、そうですか…」
「俺はコンタミ、コンちゃんってよんでね」
心を読まれているかのような感覚になりながら話をしていると、コンタミが横のワゴンから新しくティーカップを取り出して紅茶を淹れ始めた。
「レウさんのには劣るんだけど…是非飲んでほしいな、俺のオススメの茶葉なんだぁ」
「あ、ありがとう…」
「さっきのみっどぉの事、彼の代わりに非礼を詫びるよ…申し訳なかった」
そういってティーカップの縁をそっと撫でる憂いた彼の姿は、絵に描いたような紳士の姿だった。
「ただ、あの態度はらっだぁを守ろうとするが故のものなんだ…わかってほしいとまでは言わないけれど、頭の片隅には残しておいてほしいな…」
ふんわりと微笑んだコンタミの眩しさに、思わず目を細めてしまう。
なんだか居心地が悪いわけではないけれど、その紳士っぷりに目がチカチカし始めたらっだぁは紅茶を一気に流し込んだ。
「俺は、さっきの小さな幽霊さんに感謝の言葉伝をえたいだけなんだ」
・ ・ ・
お邪魔しました、と一言添えてから温室でのお茶会を後にしたらっだぁの背中を見つめていたコンタミは、手元のカップをスッと傾けた。
らっだぁのそれとは違う、紳士のお手本のような美しい所作で紅茶を少し飲むと、ふっと口元を緩めた。
「ね、みっどぉ…らっだぁはみっどぉの言う罪の事は憶えてないみたいだよ?」
誰もいないはずの温室に、紳士の柔らかな声がそっと響いた。
優雅に読書を始めたコンタミの背後から、ぼんやりと姿を現した少年はどこか拗ねているようにも見える。
「今、目の前に存在するらっだぁは、みっどぉが殺してしまったらっだぁと同じでは無いんだよ…?」
対応の仕方は考えようね、やんわりと諭すように言われた言葉に、少年の声がわかってるよ…とそっけなく返した。
「…」
苦いものを口に入れたかのように眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった彼を、コンタミはふっと困ったように笑った。
読みかけの本をテーブルに置くと、俯いて影の差す少年の孤独を癒すようにそっと抱きしめた。
「ッ…コンチャン、離レテ」
「なんでぇ〜?」
「…殺チャッタラ、ドウスルノ」
「みっどぉの前に化けて出ようかな?」
お嫁さんにしてくださいって言いに行くね、と冗談を言いながら頭を撫でてくれる紳士の優しさに暖かさを感じながらも、少年は脳内を支配する悪夢に灼かれジクジクと痛む胸元を握りしめた。
「モ、ウ…イイデショ……オシマイ」
「…みっどぉ……」
「ッ……ジ、時間ダカラ…出テッテ…」
腕から逃げ出して姿を消してしまった少年の悲痛な表情を思い出して、コンタミは彼の傷が癒える日はいつ来るのだろうと考えながら温室を後にした。
・ ・ ・
少年を探して東奔西走。
あれだけ避けていた広い森の中も駆けずり回ったというのに、少年はなかなか見つからない。
「こっちであってたはず…」
日が傾き、空がオレンジ色に染まり始めていた頃、らっだぁは再度温室へと向かっていた。
(考えてみれば、一番仲の良さそうなコンちゃんに聞いてみればいいんだよな…)
温室の扉を開けて顔を覗かせると、ティーセットはおろかティーテーブルや椅子までもが綺麗さっぱり無くなっていた。
何処か別の場所に移動したのだろうかと、温室の奥へと歩いて進む。
「あ…」
こちらに背を向けた少年が色鮮やかな花々の中央で丸くなっている。
らっだぁが声をかけようとすると、少年を中心とした花々がみるみると枯れ始めた。
「えっ、え!?」
らっだぁの困惑した声が聞こえたのか、少年の薄い肩が小さく揺れた後、気怠げにゆっくりと手をついて上体を起こした。
「あ、あのー…?」
「………」
らっだぁは色がくすんで茶色くなり、みずみずしさを失って縮んだ花弁がパラパラと土に落ちる様子を眺める少年の表情を見て、まるで泣き出す前の子供のようだった。
『なんで僕はみんなとちがうの…?』
どうにもならないことに対して、どうしようもない程に思いを募らせている。
その姿が、幼い自分と重なって見えた。
「…俺の名前はらっだぁっていうんだけど」
故に、彼はその手を差し伸べたくなったのかもしれない。
「君の名前は?」
コメント
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わわ……続きが気になるッ…!! あと、コメントぜんっぜん出来なくてごめん!!!!なさい!!!!