コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(同情、かぁ)
有り得なくはないな、と自嘲をこぼした。
いるまなら、なつに同情するのは有り得なくない。
「…だとしたらすっげーカッコ悪ぃな、俺」
同情で思いを通わせて、舞い上がるなんて。
だが、思い返せばこの1週間、とくにそれらしいことをした訳ではなかった。
恋人らしい、と言うよりは以前の2人らしい日常だった。
後日、考えながらなつはのんびり歩く。
なつがダンス練へ向かう近道に通りかかったときだった。
生垣の向こうで、何やら会話が聞こえる。普通はそんなの気にするはずもないが、その声に間違うはずもない聞き覚えがあったのだ。
『ーー悪かったな、いきなり押しかけて』
『大丈夫、”いるま”さんの為だから』
『そりゃありがてぇ。…もう行く』
『愛してるよ “いるま”さん』
『…俺もだよ』
聞き覚えのある声、間違えるはずがない。
なんたって、なつの悩みの種で、思いを寄せるたった1人の人、
「いるま…」
このままでは鉢合わせしてしまう。反射的になつは近くの物陰に見を潜める。
(ーー俺もって、言ってた。愛してるって、俺もって…)
なつの心に深く突き刺さり抜けないその言葉が、頭の中で何度もリピートされる。
耳に入り込むような、蕩けるような女の声と、それに応える、低くて心地のいいいるまの声。
(なんだ、簡単じゃないか)
「同情、だったんだ…」
そう思えば、刺々しいその気持ちはすとんと心の中に落ちてきた。なつ をグサグサと抉りながら、確実に跡を残していく。