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ずっと、両思いだっだじゃないかと勝手に自惚れていただけだったんだ。
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ランスのことが好きかもしれない。そう気づいたのは三年生の春。突発的にそう思ったのか、今まで気づいてないふりを無意識にしていただけだったのか、それはわからないけれど、ある日からランスを見る度に心臓がうるさく鳴り始めた。
ランスとは今までも喧嘩ばかりだった。でも仲が悪い、とかではなくて世間で言う、喧嘩するほど仲がいい、というやつなんだろう。寮の部屋も結局ずっと一緒だったし、よく近くにいることが多かった。だからなのか、席が離れていても目が合うことが多かったと思う。それとも俺の気のせい?
ランスは思わせぶりなことをよく言う。相手はそんなこと思ってなかったんだな。
仕事に追いやられて眉間にしわがよっているときよく、自分のついで、という建前で紅茶を出した。ランスが好きそうな茶葉を買ったりもしていた。ランスは紅茶を飲むと大抵こういうことを言う。
「紅茶はお前のが一番美味い。」
そんなことを言うものだから、以前よりよく出すようになったし、もっと上手になろうと頑張った。もっとランスに褒めてほしかった。
そんな毎日を過ごしていたら、あっという間にイーストンでの三年間が終わろうとしていた。
でも、俺なんかが告白したところで、と勇気が出ず、結局思いを伝えられないまま、会う機会も滅多にないので俺たちは離れ離れという形になってしまった。
まぁ、これはこれで青春かな〜、なんて思っていた。
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卒業して数年後、ランスが結婚したとの伝えが来た。相手は職場で出会った優しそうな可愛らしい人だった。
まぁ、ランスも結婚ぐらいするだろう、とそのときは振り切っていた。ランスへの恋心を忘れることも出来なかったはずなのに。
結婚式には呼ばれるだろうか、そのときは祝福する気持ちで行ってあげよう。呼ばれるかわからないけど。
そんなことを思っていたある日、友人のスピーチとして俺が話すことになった。ランスから直々に頼まれてしまい、まだ友人としてくれることが嬉しくて承諾してしまった。
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結婚式当日の朝、緊張で冷や汗をかきそうだった。久しぶりにマッシュたちに会ってほっとした。俺たちが友人枠として何人かで話す予定だ。神覚者の結婚式なんてそれは豪勢に行うのかと思っていたら、本人たちが拒否したらしく、身内や友人、職場の数人たちだけで行うらしい。
ついに式が始まった。タキシード姿で登場したランスは、緊張など微塵も感じず、前より穏やかな雰囲気だった。その後すぐ、花嫁が登場し、誓いの言葉や指輪の交換、誓いのキスをした。二人は拍手に包まれ、とても幸せそうに見えた。その瞬間、ランスへの恋心はもう振り切ったはずだったのに、目がうるんで前がよく見えなくなった。
スピーチは挨拶や祝福の言葉から始め、最後には末永く幸せに。という言葉で締めくくった。きっと笑顔でできていたと思う。想像より噛まないで言えたし、途中で泣くなんてことも無くてよかった。ただ、やっぱり心の奥底ではモヤモヤした感情が続いていた。この気持ちは練習のときは無かったはずなのに。
無事、式は終わり解散ということになった。帰り際椅子の脇にあった引き出物のバウムクーヘンを持ち帰った。
食べようかとも思ったが、気持ちが冷めやらなくてその日は食べることが出来なかった。
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結婚式の翌日、この気持ちはバウムクーヘンを食べると同時にさっさと消してしまおう、と思いおやつとして食べることにした。ランスが美味しい、と言ってくれた紅茶をその頃使っていたティーカップに淹れた。
さて、食べてやろうじゃないか、とフォークを刺した瞬間ふいに涙がこぼれていた。泣きたくなんてないのに、そんな気持ちは構わずに頬を伝っていた。泣きながらバウムクーヘンを食べた。
今の俺にはこのバウムクーヘンの味は甘すぎるほどだった。
「……こんな気持ち、知らないでいたかった。」
ずっとランスに執着していたんだと気づき、心臓がぎゅう、と締め付けられて痛かった。
俺は一生、今日食べたバウムクーヘンの味を忘れることはできないだろう。