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「どうやって犯人を突き止めようか」
琥珀はウキウキ顔で作戦を立てていた。
「そもそもどうやって犯人見つけるんだよ」
「そんなのどーんってやってばーんってやって捕まえるんだよ」
「意味わからねぇ」
千絃は呆れ顔で呟いた。
「じゃあ千絃も案だしてよ!」
「そんなぽんぽんでるかよ」
そもそも今日中に解決できる問題ではない。
こういうのはもっと証拠が集まってからではないと。
「あーあ、こんなん翠がいたらすぐ解決できるのに」
なかなか案をださない千絃への嫌味っぽいが構っている場合ではない。
「やっぱり一緒にいた方がいいんじゃないか?」
そう口にすると同時に電話が鳴った。
「はいはい、こちらなんでも屋です。ご用件は?」
『あ…千絃さんですか?今あいつにつけられてて…』
声ですぐにわかった。
ストーカー事件の依頼をした子だ。
「こんな昼間から?!」
「場所は?」
『今は…』
ブチッ
「おい、今どこにいる?おい!……まずいかも…」
「電話切れちゃった?どうしよ…あの子は今どこにいるの?」
場所を聞きだす前に電話が切れてしまったんだからわかるわけがない。
「なんかこの辺りで人が寄りつかない場所とかに行ったらいるかも…」
「この辺り……」
千絃には覚えがある。
あの場所なら人は全く寄ってこない。
そこは琥珀も把握していたようだ。
「「あそこなら」」
今は昼だからなにも起こらないだろうと1人で出かけたことを後悔している。
後ろから足音がする。
怖くなり早歩きすると後ろの足音も早くなる。
こんなことなら1人で出るんじゃなかった。
とりあえず誰かに電話しないと。
スマホを取り出し電話しようとしたが誰にすればいいんだろう。
親は仕事中だし、友達にも相談できない。
警察に電話しようとしたが間に合いそうもない。
ふとこの近くのなんでも屋に相談していたことを思い出した。
ストーカーのことを唯一相談している人達だ。
もしかしたら助けてくれるかもしれない。
藁にも縋る思いで電話をかけてみる。
すると相当暇なのかすぐにでてくれた。
『はいはい、こちらなんでも屋です。ご用件は?』
声ですぐ千絃だとわかった。
「あ…千絃さんですか?今あいつにつけられてて…」『こんな昼間から?!』
電話の奥で琥珀の声も聞こえる。
『場所は?』
「今は…」
その瞬間、スマホを後ろから取り上げられ通話を切られた。
振り向くとずっと後ろをつけていたらしい男が立っていた。
「か…返してください…!」
スマホを取り返そうと手を伸ばした瞬間、首元に衝撃を感じ、意識が薄くなっていった。
「1ヶ月以内に1人、誰にも気づかれないように殺して
こい」
ことの発端は社長のこの一言だった。
この日は大事な取引先でやらかしてしまい、クビ寸前までに追い込まれた。
社長に泣きながら土下座していると突然言われたー
言。
意味がわからず固まっていると社長室からつまみ出されてしまった。
人を殺せだと?
そんなの無理に決まってる。
悲観に暮れながら帰っていると1人の少女とすれ違った。
みるからに気弱そうな子で手をかけても何も言わなさそうな感じだ。
気づけば後を追っていた。
しばらく歩いた後家らしき場所に着いた瞬間にすぐに家の中に入っていった。
ああいうやつなら殺せそうだ。
…そもそも人を殺さないといけないのだろうか。
あれは場を和ませようと言った冗談ではないか。
だがすぐにそうじゃないと思った。
あの目は本当だ。
社長は人殺しを命令した。
殺さないと俺がクビになる。
今の会社をクビになったら生活ができなくなってしまう。
俺の生活の為だ。
あの子には申し訳ないが俺の人生を今ここで狂わされても困る。
そう思い、すぐに殺しの準備をした。
抵抗されないようにロープとスタンガンを持った。
すぐに死ぬように鋭い肉切り包丁を買った。
準備は整ったがなかなか決断ができない。
約1ヶ月、迷い続けた。
本当に殺さないといけないのか。
でもクビになって社会的に死ぬことよりマシだ。
今日決行しようと後をつけていると突然どこかに電話しだした。
体は反射的に動いていた。
スマホを取り上げ通話を切った。
すると取り返そうと手を伸ばしてきたのでスタンガンを首元にてて電源を入れた。
少女は気を失った。
これなら殺せる。
だがこんな昼間から目立つ場所で殺せない。
どこか人が全く寄りつかない所はどこかないか。
そういえば最近この辺りで連続殺人事件が起こっていた。
犯人はまだ捕まっていないらしくとても危険な場所だが、人を殺すには絶好の場所だ。
そう思いすぐにそこに向かった。
頭がぼーっとする。
確か自分は家に帰る途中だった気がする。
起きあがろうとすると手足が動かなかった。
縛られていた。
側では男が刃物を持っていた。
殺される。
直感でそう感じた。
一気に怖くなり必死で助けを求めた。
「だ…誰か助けてください!誰か!」
だが声が届かないのか誰もこない。
男が馬乗りになって刃物を高くに上げている。
もうダメだと思い痛みを我慢する為目をつぶっているとふと声が聞こえた。
「その子嫌がってるじゃん。やめろよ」
そう聞こえた瞬間男は壁に叩きつけられていた。
男を叩きつけた人物は千絃だった。
「…っ千絃さん!」
「大丈夫か?変なことされてないか?」
「はい…まだなにも…」
千絃は手足に縛られたロープを優しく解いた。
「そうか。俺が来るまで頑張ったな」
そう言われた瞬間、糸がぷちっと切れた感覚があり、気づけば泣いていた。
「ありがとうございます…」
「まだ危険は無くなったわけではないから家までは琥珀と帰ってもらう」
「はーい、一緒に帰ろうねー」
「本当にありがとうございます……」
琥珀に連れられるままその場を立ち去った。
「あの…本当にありがとう…なんてお礼を言ったらいいのか…」
「全然いいよー。仕事だし。それより気をつけてね。変なやつなんてそこら中にいるんだから」
「はい…すみません…あの、千絃さんは?」
「千絃はね、今お説教中だよ。次やったら食っちゃうぞーってね!」
「ふふっ…優しいですね」
その言葉を聞いた琥珀は笑った。
「そうだよね」
「っと…もう行ったかな。なぁ、アンタ聞きたいことがいくつかあるんだけどいい?」
男は力なく項垂れた。
「アンタはこの場所ってなんなのか知ってる?」
「……あぁ。例の、連続殺人事件が起こった場所、だろ」
「よく知ってんじゃん」
「まだ犯人が捕まってない気味悪い事件だ」
「気味悪い…ね」
千絃は男の顔を覗き込みながら言った。
「俺さ、自分が築き上げた実績を誰かに上書きされたりすんの、嫌いなんだよね」
「なんだ、その言い方。お前が犯人みたい、じゃないか」
「ははっ。だからそう言ってんだろバーカ」
「……」
「そうそう、それともう一つ」
千絃は声のトーンを落として聞いた。
「アンタが通ってた会社の社長の名前、何?」
「それを言ったら、見逃してくれるか?」
千絃は少し考えて言った。
「わかった。俺はアンタを殺さないでおこう」
男はそれで納得したのか話しだした。
「本名は知らないが、秘書の女が話していたときは少し聞こえてきたな。確か”月夜”って言っていたな」
その言葉を聞いて千絃はわかっていたような顔をして頷いた。
「そうか。ありがとな」
「じゃあ、」
バンッ
一つの銃声が昼の街に響いた。
「遅い」
千絃の足元にはこめかみに風穴を開けた男が横たわっている。
目の前には楓夜が拳銃を持って立っていた。
「やっと帰れたと思ったら、誰もいないし心配してここに来てみたら…。何?1人で思い出に浸かってたの?」
「どう見ても1人じゃないだろ。あと楓夜って心配するんだな」
「私をなんだと思ってるの?」
「とりあえずこれ、どうする?」
そう言い千絃は男の遺体を指差す。
「まずは血抜きしないと。袋に詰めるの手伝って」
「はいはい」
楓夜と千絃で男の遺体を袋に詰めていると楓夜が思い出したように聞いた。
「そういえば、あなたさっきこいつと何話してたの?」
千絃は笑いながら口を開いた。
「別に何も」