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赤城としずくは恋愛の絶頂を迎えていた。要するに二人だけの世界に没入していつでもイチャついているバカップル状態にあった。
二人こそそういうバカップルを嫌悪していたはずだが、実際に恋に落ちてみると驚くほど盲目になるのだった。
今日もコンビニに向かって歩いている最中、外にもかかわらず、しずくは甘えるように赤城の肩に顔を擦り寄せ、意味もなく名前を呼び出した。
「シュウさん、シュウさんっ」
真顔ながら口元がむにゅりと緩んでいる。完全にリラックスしている証拠である。
「こらこら、ひっつくな」
形だけ注意しつつも、完全にデレデレした声と表情で赤城も身体を傾ける。
人通りが少ないとはいえ、当然それが誰にも見られないわけはなく。
「シューさーん」
「ったく、そんなにひっつかなくてもいつでも一緒だぞ──」
途中、視線を感じて二人はぴたりと動きを止めた。
偶然通りかかった夜月がこちらを見ていた。化け物にでも出くわしたように、心底ドン引いた顔で。
途端、二人はスッと離れた。いつもの真顔、いやもはや愛など知らなかった頃のような冷たい表情に戻る。意図的に表情を作るものだから、ただでさえ元から悪い目つきが一層鋭さを増す。赤の他人のような、今にも喧嘩が勃発しそうな空気が漂う。
「明日の天気何だっけ」
「知らん、くだらんな」
目を合わせず、それぞれどこか遠くを見つめたまま、あからさまに他人行儀なやり取りをしてみせる二人。そんなに仲良くないですよと言いたげに、もしくは夜月に邪魔さえされなければと言わんばかりに。
「いや通った僕が悪いみたいなのやめてもらえます!?」
当然夜月はキレた。関わりたくないのでドン引いたまま無視したかったが、自分のせいで態度を変えられると流石に癪に障った。
それでも尚、二人は元に戻らない。
「あーもう!僕に構わずイチャつけばいいじゃないですか!」
どうせバカップルならバカップルらしくしとけよと、矛盾したことを思いながら叫ぶ。
すると、二人は確認するようにちらりと目配せをした。そして互いに顔を近付け、目を閉じ、自然な流れでキスをした。
自然すぎて一瞬理解が追いつかなかった。理解した瞬間、夜月は発狂した。
「ギイイエアア!!コイツらマジでイカれてる!!最悪!!この街から出て行って下さい!!」
共存を完全に拒絶。
もはや二人より夜月の方が圧倒的に周囲に悪目立ちしていた。だが発狂している時もまた、盲目なのであった。
「夜月くんも恋をすれば分かるよ」
「夜月、恋をしよう」
二人は先輩面で夜月の肩をぽんと叩き、満足気に歩いていく。
恋愛が人をこんな風にさせるなら、孤独の方が幾分かマシだと、夜月は死んだ目で思った。
いずれ自分もこうなる瞬間が訪れることを、今の夜月はまだ、知らない。
摩耗状態のみくる「何がしたいの?嫌がらせ?ねぇ何がしたいの?」