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夜の帳が都市を覆い、冷たい風が瓦礫の隙間を吹き抜ける。
そこに足音が響いた。規則正しく、迷いのない歩調。
神聖執行局・執行官──アレクシス・ローレンス。
白銀の軍服を纏い、鋭い瞳を持つ青年が静かに立つ。
その前には、膝をついた男。血に塗れた顔が、歪んだ笑みを浮かべる。
「……秩序の剣か」
その言葉にも、アレクシスの表情は変わらない。
彼は静かに剣を構え、淡々と告げた。
「貴様の罪は確定している。最期の言葉を許す」
男は苦しげに息を吐き、かすれた声で笑った。
「……お前は、この”秩序”を正しいと思うか?」
アレクシスは即答しなかった。
代わりに、剣を振るった。
一閃。
男の声は、血の匂いと共に夜に溶けた。
「執行完了。対象の排除を確認」
背後の兵士が無線で報告を入れる。
『了解。帰還せよ』
アレクシスは剣を鞘に収め、無言のまま踵を返した。
執行官とは、ただ命令を遂行する者。
正しいか否かは関係ない。
それが、”秩序の剣”たる者の在り方だった。
神殿都市・ヴァルハイト。
その中心にそびえ立つのが、統括組織の中枢──「神聖執行局」。
白亜の石造建築。長大な回廊と、荘厳な天井画。
そこは、秩序の心臓部だった。
「……処刑は完了した」
アレクシスが報告すると、デスクに座る執行局の高官は淡々と頷いた。
「ご苦労。君の手際には、いつもながら感服するよ」
「当然のことです」
アレクシスの声には一片の感情もない。
執行官に必要なのは、忠誠と冷徹さ。
どれほど多くの命を奪おうとも、手を汚したという意識すら必要ない。
だが。
ふと、先ほどの男の言葉が脳裏をよぎる。
──「お前は、この”秩序”を正しいと思うか?」
……考えるな。
それは不要な迷いだ。
「次の任務を」
アレクシスは静かに言った。
高官は一瞬、興味深そうに彼を見た後、書類を差し出した。
「次の標的は、”革命派”の残党だ」
また、粛清か。
アレクシスは紙を受け取り、無言で踵を返す。
思考する必要はない。
彼は”剣”であり、”盾”ではないのだから。
夜。執行局の一室。
アレクシスは窓の外を見下ろしていた。
整然と並ぶ街並み。
全てが統制され、無駄のない美しさ。
これが、秩序の象徴。
神聖執行局が守るべき世界。
……なのに、なぜ。
あの男の言葉が、こんなにも耳に残るのか。
「──正しいと思うか?」
誰かに答えを求めたことはない。
だが、もし。
もしも、秩序が歪んでいたとしたら──。
その思考を振り払うように、アレクシスは静かに目を閉じた。
「考えるな。剣であれ」
彼は、ただ”秩序の剣”であるべきなのだから。
そう、自分に言い聞かせながら。