君に思いが伝わらない。
⚠️ 病気、キャラ崩壊、原作無関係⚠️
きっかけは本当に些細なことだった。
(頭痛ぇ…昨日夜更かしし過ぎたかもな)
当時俺は高校1年。
入学してすぐにできた友達と夜遅くまでゲームをすることが増えた。
そんな日が立て続けにあったからか、帰りのバスで目眩と頭痛に襲われていた。
(……ゲーム制限しよ。今日は早く寝て…)
「潔?どっか調子悪いの?」
「ごめん蜂楽、肩借りてもいいか?なんか目眩がやばくてさ。」
「もちろん、席譲ってもらう?」
蜂楽の言葉に反応してゆっくりと周りを見渡した。
部活の鞄を肩にかけてイヤホンをしながら目を閉じている高校生。
疲れ果てて寝てしまってるサラリーマン。
小さな身体で席に座るお年寄り。
こんな人たちを見てしまえば席を譲ってもらうなんて到底できなかった。
「いや、大丈夫。マシになってきたし!」
蜂楽の肩に手を置きながらなんとか笑顔を作り上げた。
するとその直後後ろから肩を叩かれる。
振り返るとーーが空いた席を指さしていた。
ーーは微笑むとそのままバスを降りていく。
あの時。あの瞬間から俺は恋に落ちた。
1.出会った日
「あ〜、雨とか聞いてないのに〜!」
「まじでびしょ濡れ…傘持ってて良かった〜!2本あるし折り畳み貸してやろうか?笑」
「まじで!?神様、仏様、潔様〜!!」
バス停の屋根で傘を開いて家へ帰ろうと足を動かした。
蜂楽はタオルで頭を拭きながら俺の隣を歩き続けている。
「ん、あの子どうしたんだろ?」
「どれ?…あれ、うちの高校の制服じゃん。」
バス停を少し歩いた場所にあるコンビニの駐車場で傘を置いてしゃがみ込む男子生徒が見えた。
「ごめん蜂楽、待ってて。」
「ほいほーい、」
蜂楽を置いて信号を急いで渡ると男子生徒の背中の前に立った。
「傘、あるならさしな……猫、?」
男子生徒は顔をあげずダンボール箱に入った猫の頭をそっと撫でた。
猫は嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
男子生徒はそれに応えるように微笑んだ。
「…傘、猫にさすのはいいけどよ〜、君が風邪引いちゃ元も子もない…って君…」
自分の背中は雨で濡れ始めている。
しゃがみこむ男子生徒はふいに顔をあげた。
「…傘、ささないの?」
何度も言っている質問を改めて聞く。
だが男子生徒は頭を少し下げるとすぐに行ってしまった。
追いかけようか迷ったが蜂楽を待たせている。
傘の下で震える子猫をそっと抱えた。
放っておける訳がなかった。
それと、またあの子に会える気がしたから。
「え、じゃあ昨日の猫、連れて帰ったの!?」
「うん、里親が見つかるまで家で飼うんだ。」
「へぇ〜、その傘は?」
蜂楽が俺の手にあるビニール傘を指さした。
「あの猫に傘置いて行った子。あの子のだよ」
蜂楽は納得するように何度も頷く。
「なるほどね。持って行ってあげるんだ?」
「あぁ、傘ないと困ると思うし。まぁビニール傘だし、コンビニで買ったのかもだけど一応な。」
靴箱につくと蜂楽は上履きを雑に手に取り履き始める。
俺も靴箱に手を入れて上履きを取ろうとした時、背中をトントンと2回叩かれた。
振り向くとそこには…
「え、あ、氷織…さん?」
「さん付けなんかやめてーや。一昨日帰ってきたんよ。1ヶ月後にはまた戻るけど。」
そこには氷織羊が立っていた。
さっきから周りの視線が気になっていたのはこの人のせいだろう。
幼少期から優れた運動神経と空間認識能力に長けており「天才」と呼ばれ始めた。
整った顔とすらっとした長身。この辺りではあまり聞かない関西弁が女子に人気だ。
そんな人がこの学校に帰ってきたとなれば周りの生徒も目を奪われてしまうだろう。
「なんで急に?連絡もなかったし…」
「ごめん、忙しくて。でも会えて嬉しいよ。」
「羊ちゃーん!!!お久だね!」
俺の横から飛び込んできた蜂楽が氷織に飛びつく。
それを軽々と交わして氷織は微笑みを浮かべた。
「久しぶりやね、蜂楽くん。元気そうで。」
「へへ、嬉しくて笑」
蜂楽はずっと羊を追ってきた。
周囲はそれを憧れだとか懐いているだとかいってたけど俺にはそうは見えなかった。
きっと蜂楽は羊のことが…なんてかんがえてやめた。
俺には関係の無い話だ。
「ねぇ、潔。あの子…?」
立ち上がった蜂楽が目線を向けてそう呟いた。
俺はその目線の先に目をやる。
周りの生徒の噂話が聞こえてくる。
「あれ、凛くんじゃない??嘘、朝から見れるなんて幸せ!!」
「ほんと綺麗な顔立ちよね!」
「俺もあんくらい身長ほしいよ」
「OKするのかな…?」
廊下の真ん中で女子生徒があの子に頭を下げて手を差し出していた。
彼は困った顔をしている。
口を開けたり閉じたりしながらおどおどとしており女子生徒も頭を上げない。
きっとあの子は…耳が聞こえない。
胸の奥がズキっと痛んだ。
話そうとしても声が出ない。
周りの音も聞こえない。
焦って、でも待たせられないくて、不安になって、逃げ出したくなる。
気づけば俺は走り出していた。
「え、潔…!」
「ええよ、ほっとき。」
「…あの、」
俺は昔の記憶を頼りに手を動かした。
驚きながらも俺の手をじっと彼が見ている。
少しして彼は額に指を当てて手のひらを広げて前に出す仕草をした。
すぐに片手の甲をもう片方の手でとんとんと叩く。
手話だ。
「ごめんなさい、ありがとうって。ごめん、でしゃばった真似しちゃって。」
「いいえ、ありがとうございました。耳が……私、知らなくて…ありがとうって凛くんに伝えて下さい。失礼します。」
女子生徒はそう言って逃げるように去っていった。
俺は彼…いや、凛と呼ばれたこの子に手話でありがとうと示す。
「じゃあ、また。」
これで良かった。
胸がまだうるさく鳴っていた。
この音が聞こえそうなほどに。
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