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Ⅲ
昨日は、なんとか上峰さんを見つけられたそうだ。
というより、
帰ってきたそうだ。
上峰さんも苦しんでいるのだろう。
今日は休むとのことで、
今日も如月さんと島田さんと岡野さんと5人で見回りをすることになった。
今日は、剣士署周りの見回りか…
すぐ近くだ。
とにかく、見てまわろう。
『これからはこのみんなで、あと上峰くんと6人で見回りをすることになるのかな。』
島田さんが言った。
『そうなるかもしれないけど、前より1隊分足りてない状態だろ?それって大丈夫なのか?』
そうだ、
今は人手不足だった。
怪我人が戻ってきても、3人も足りないことになる。
あ、そうだった。
『あの、そのことなんですけど。』
皆が、僕の方を見た。
まだ新人である僕に、こんなことを提案する資格があるだろうか?
『あの、じょ…』
『アンタたち剣士か?』
と、
誰かに声をかけられた。
声のした方を見ると、女性が1人立っていた。
『はい、私たちは剣士です。何かお困りごとでもありましたか?』
島田さんが優しく、そう言った。
『そうね、困ってるわ。アンタたちにね!』
だが、
なぜか、僕たちに怒っているようだった。
特に何も迷惑をかけた覚えはない。
じゃあ、なぜ?
『えぇと、私たちに困っているのですか?』
島田さんも、わかっていないみたいだ。
きっと、皆がわかっていないだろう。
『アンタたちが、剣を持ってうろうろと歩き回っているのが迷惑なのよ!』
剣を持っていることが迷惑ということだろうか。
嫌な予感がする。
-『犯罪を犯しておいて助けたと?それを、周りの人が見た時、どう思われるのかを考えたことはあるか?』
『もし、お前の近くで誰かが武器を持ち、戦っていたら、お前はどう思う?お前は人狼だからわかりにくいかもしれない。だが、普通の人は怖いと思うんだ。お前が、誰かを守るために戦っていると、誰がわかる?お前を信用できると、誰が思う?』-
鬼塚さんの言葉を思い出す。
剣士だけ武器を持ち、歩き回る。
それは、周りからしたら怖いことなのかもしれない。
『アンタたちがいると安心できないわ!剣士なんてなくなればいいのよ!』
信用されてないんだろう。
『私たちは皆様を守るために、この剣を持って戦うのです。平和であり続け…』
『平和であり続けるため?そんなものを持っていて?ありえない。そんなものを持って平和のためだなんてよく言えたわね!他がどうやって平和を守っているのかわかってる?剣を持っているのなんてここくらいしかないわよ!』
警察は剣を持ってはいないんだろう。
なら、その通りかもしれない。
でも、
『人を助けるためなら仕方ないことだろ?ここは治安があまりよくないんだ。それなのに、剣を使わずに戦うのは危険すぎると…』
『そんなのはただの言い訳よ!警察として、剣を使わずに守りなさいよ!他の都道府県、どこを見てもそんな武器を振り回す警察なんて見たことないわ!剣なんて必要ないでしょ!』
・・・
剣士の皆が黙ってしまった。
僕もそうだ。
何も言えなかった。
なぜ、剣士という職業ができたのかもわからない。
『昔、多くの警察官が人狼により殺された。それに対抗するためには剣が必要だったため、剣士となり、剣を持つことが義務となった。多くの人を守るためなら、この島で、剣士が剣を持つことは許されている。』
『そんなのは勝手ね!私たちは認めてないわ!それに、なぜその人狼が剣士としてそこにいるの?意味がわからないわ!こんな人たちを信用できるわけないでしょ!』
警察が剣士になったのは、人狼のせい?
なら、僕たちは…
なぜ、剣士に入れてくれた?
『人狼ってだけで人を傷つけると決まったわけじゃない!俺も銅2人も、皆を守りたぃ…』
『アンタの言葉なんて信用できないのよ!人狼なんて、存在するだけで危険なのよ!私たちはアンタたちのせいで怖い思いをしているのよ!』
なら、どうすればいい?
存在するだけで怖がられるなら、どうしろと?
『人狼は皆刑務所にでも入れて、残りは警察として剣を持たずに見回りでもしてなさい!』
聞き捨てならない言葉。
もう、いやだ。
『人狼を皆悪者扱いしないでください!僕たちだって、人を助けたいと思うことはあります。人狼にしかできないことだってあると思います。人狼を怖いと思う気持ちは少しくらいならわかります。でも…』
『何も知らないくせに、勝手なことを言わないで!アンタたちも剣を持っているのはなんでなの?どうせ、どんな時でも剣を持って脅して傷つけて、そんなことをしてるんでしょ?そんなのは悪者よ!』
『そんな簡単に人を傷つけるようなことはしていません。皆を守るための盾として使うことがほとんどです。どうしようもない時くらいしか傷はつけないようにしています。』
最近は特に、意識していることだ。
昨日だって、傷つけることは避けたんだ。
『そうだ!みんなは守りたいから戦うんだ!それなのに、簡単に傷つけるわけない!それは、勝手に決めつけているだけだ。』
如月さんも言う。
『どうせ嘘でしょ?人狼は嘘ばかり言うのね。やっぱり名前の通り嘘つきなんだね!』
だけど、届かない。
その時、
僕の中で、何かが切れた気がした。
いつまでも、悪者扱いされるのはごめんだ。
苦しみ続けるのはもう、嫌だ!
『傷をつけたのは人狼だけじゃない。僕も、この子も、ずっと!人狼だと言われていじめられたんだよ!僕たちは悪いことをしてないのに、この子が死にたくなるほど苦しんだよ!この子は人が怖くなったんだよ!なのになんなんだよ!勝手に悪者扱いしないでくれよ‼︎』
琥珀さんはたくさん苦しんだんだよ。
君たち以上に辛いんだよ。
僕からしたら、君たち普通の人間の方が怖いと思うよ。
『つまらない冗談ね。傷つくのは全てアンタたちのせいなのよ。自業自得じゃない。それなのに人のせいにして、最低ね。』
女は、僕を見下すように言った。
『それはいくらなんでも酷いと思いますよ。人狼だって悪い人ばかりではないし、普通の人間だって、悪い人はいる。なのに、人狼だけ悪者扱いするのは良くないと思いますよ。』
島田さんも庇ってくれた。
『そ、そうですよ。みんなで仲良くした方がいいと思いますよ。』
岡野さんまで、
『皆、そっちの味方なのね。やっぱり、剣士って人の心なんかないんだわ!』
女の手に、
ナイフ!
『アンタたちは剣があるでしょ?これで平等よ!いや、剣の方が大きいわね、人数も多いし。』
『なら、武器は使わない!』
ここで証明してやる!
簡単に人を傷つけないと!
女がナイフを振り回す。
僕は一歩前に出る。
ナイフがこちらに向かってくる。
っ!
グサリ、
僕はナイフの刃を持ち、止める。
手から血が出てくる。
『うっ!』
押し返す。
女は少し離れたが、また向かってくる。
『それがあなたの答えか?』
スッ!
ナイフが首元で止まった。
『これが、私が感じた恐怖よ!』
『あなたに、剣を向けたことはない。傷をつけた覚えもない。』
『っ!』
『そうだろ?』
僕の首元から、ナイフが離れる。
『怖がらせたのならすまない。でも僕は、剣士を続ける。剣を持って、戦う。全ては、平和のために。』
僕は決めたんだ。
強くなって、みんなを守ると。
『悪かったわね、やりすぎたわ…』
まだ、納得はしていないんだろう。
仕方ない。
剣を持っていることも、人狼の力も、皆が待てるわけではない。
特別な力は、怖いだろう。
だからせめて、
良いことのために使おう。
皆のために使おう。
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