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もし司くんと類くんが中学一緒だったらこんな感じかな
乾いた風が吹く秋のこと。
朝から大きな話し声と耳障りなチャイムが聞こえてくる教室で。
僕は1人、窓の外を眺めていた。
退屈でしょうがなくて、今すぐにでも屋上に行きたかった。
(瑞希は何しているだろ…)
ふと孤独の仲間、瑞希のことが頭によぎる。
文化祭のあの日出会った僕らは、あれからも授業を抜け出してはちょくちょく話していた。
彼女はもう屋上にいるだろう、この時間帯なら。
ホームルームまであと5分となった頃、大きな音を立てて登校してきた者がいた。
「おはようございます!!!」
「はあ゛ぁ……間に合った」
「よお天馬、ぎりぎりだったな」
「あと少しで遅刻だったぜw」
「天馬くん珍しいね」
「昨日少し夜更かしをしてしまってな!」
「え〜、意外!」
鮮やかな金髪にサーモンピンクの彼。
天馬司。
自称未来のスターであり、変人。
しかし底抜けた明るさと、誰とでも仲良く話すコミュ力から、彼は皆の人気者である。
彼の周りにはいつも誰かがいて、陰キャの僕には手も届かない存在だった。
(あ、今日もまた囲まれてる…)
話し上手な彼は、今日もクラスメイトと戯れていた。
いつもクラスの中心にいる彼を見ていると、人生って理不尽だと思ってしまう。
彼も僕も、同じ“変人”と呼ばれる人間だ。
だが、彼と僕は大きな違いがあった。
彼は変人という性格さえも愛される幸せ者。
一方で僕は変人だからと、怖がられ距離を置かれてきた。
この差はなんなのか。
きっと生まれたときから埋まらない、天性の“才能”というものだろう。
最近、どんな性格でも受け入れてもらえる彼が、羨ましいと同時に妬ましいと感じる。
こんな感情はいけないものと言うのは知っているが。
どうせ幸せになれないなら、他人の幸せぐらい妬まさてくれ。
あの子は、一生人から愛されて、幸せになって、、、。
悩むことなんてないんだろう。
苦しみなんて、わからないんだろう。
一人ぼっちになることへの恐怖も。
大切な人が離れていく辛さも。
全部全部知らないで生きているんだろう。
そう思うと、腹が立って仕方がなかった。
このときはどうしても好きになれなかった天馬くん。
実は彼が、壮絶な痛みを抱えていることを、僕は知らない。
珍しく瑞希のいない屋上で、僕は時間を潰していた。
屋上の柵にもたれかかって、ただただ広い青空を眺める。
空はずっとずっと広がっていて、自由そうで羨ましい。
僕も次生まれ変わるなら空になりたいな。
そんなことを考えていると屋上のドアが開き、見慣れたピンク頭がこちらを覗いた。
「あ、先輩もういるんだ」
「やあ瑞希くん、今日もおサボりかな?」
「そんなの先輩もでしょ」
「おや、バレてしまったねえ」
「ねえ先輩」
「どうしたんだい?」
「少し、ボクの愚痴を聞いてくれないかな」
愚痴、か。
瑞希も僕に気を許すようになったんだね。
前までは言葉を発する度に警戒されていたというのに。
「キミが?珍しいね」
「別に構わないよ」
「ありがと」
「実はさ、うちのクラスに凄く明るい子がいるんだけど」
「その子皆の人気者でさ」
「髪の毛もふわふわーってしてて可愛くて」
「少し、羨ましいなって感じたんだ」
「…」
「おんなじ人間なのに、どうしてこんなに違うんだろうね」
今の僕の心情とまるっきり同じだった。
同じ部類でも愛される人と愛されない人がいて。
僕らはその愛されない側の人間。
僕らからすると、愛される人たちはほんとに…
“羨ましいんだ”
「その子にも、何か悩んでることがあると思うよ」
「人間は完全ではないからねえ」
「僕らは“人間関係”という部分が欠けていただけなのさ」
「そっかな、…」
「ああ、そうだとも」
「いつかキミのことを理解してくれる人は現れるよ」
「ちょっと元気出た」
「ありがと、先輩」
「ふふ、どういたしまして」
「僕らは人間関係は欠けていても、“頭の良さ”は満タンだからね」
「うーわ、自画自賛?」
「まあね」
「天才の言うことはわかんないなー」
「かくいうキミもクラス上位じゃないか」
「ボク頭はいいから」
「僕には敵わないけどね♪」
「それはそう」
「学年1位と比べられても困る」
彼女と話しているのは楽しい。
だけど今日は何か違った。
胸の奥がちくりと痛むような、違和感を感じる。
(彼も、そうなのだろうか)
自分で言っておいてだけど。
乾いた風も去り、空気が冷たくなってきた頃。
外は雨が降っているというのに、僕は相変わらず屋上に向かう。
(そろそろ受験の時期か…)
正直、勉強は受験前ぎりぎりでいける。
だけど、少し卒業することが寂しく感じるのは、やはり彼女の影響だろうか。
「…あれ」
屋上の向こうに誰かいる。
男の人のすすり泣くような声。
「今日は先客がいるようだね」
邪魔をしてはいけない。
帰ろう、そう思ったときだった。
「あ、」
「あっ…」
「わ、悪い!!」
「いや、こちらこそごめんね」
「ってその声…」
「天馬くん?」
「え、あ、ああそうだが?」
まさかの、泣いていたのは天馬くんだった。
「どうしてオレの名前を知っているんだ?」
「え、あ…ちょっと風の噂で」
「む?そうなのか!」
「もう噂になるなんて流石はオレ!」
「あ、はは…」
「お前は確か…よく屋上にいるやつだよな!」
「そうだけどなんで、」
「昼休みや体育の際に見かけるんだ」
「そうなんだ」
「キミは、ここで何をしていたの?」
「…」
いつも笑顔で大声な彼が泣いていたなんて、珍しい以外にありやしない。
興味本位で聞いてみたが、答えが返ってくることはなかった。
「ねえ、聞いてる…」
「…泣」
「え?!」
彼はまた泣いていた。
そんなに涙が脆いのか、それとも何か理由があるのか。
「ちょ、ちょっと泣き止んで…!」
「……っ」
「仕方ないね、ちょっと寒いかもだけど」
「もう一度屋上に行こう」
ガチャ
「う…やっぱり寒いね」
「うぁ、す、すまん…泣」
「別にいいよ」
「僕は最初からここにくるつもりだったし」
「落ち着いた?」
「悪い…迷惑をかけたな」
「それで?」
「他人の僕がおこがましいかもだけど」
「何かあったのかい?」
「…」
「少し、長くなるかもだが」
「聞いてくれるか…?」
「そ、…か」
「オレは兄なのに…何もできない」
「ただ咲希が苦しんでいるのを眺めることしかできないんだ…」
「もう咲希は明日にはいないかもしれない」
「咲希がいなくなるかもと思うと怖いんだ」
(天馬くんも悩んでいるんだ)
(妹さんがいついなくなるのか分からなくて、毎日苦しんでいるんだ)
酷いかもしれないが少し嬉しかった。
人気者の彼だって、悩みはあるんだってことを知ったから。
でも、それ以上に彼の抱えているものが大きくて。
どうにもできないものだった。
「…キミは、まず自分を見たほうがいいよ」
「…は」
「妹さんも心配だろうけど」
「その前にキミの精神がそんな状態だと、妹さんも悲しいんじゃないかな」
「…」
「だからさ、天馬くん」
「今日はキミのことを考えてみたらどうかな」
「時期的に僕らは受験生だ」
「違うことに逃げてみたりするのはどうだい?」
「だが、オレは勉強が苦手だ」
「というわけでお前、勉強を教えてくれないか?」
「僕が?」
「悪いけど今日は予定が入っていてね」
「ここらへんで失礼するよ」
「え?!」
「ほら、もうこんな時間だしね」
キーンコーン、、、〉
「…はあぁぁぁっ?!」
「ま、まま、まさか…授業……」
「サボっちゃったね」
「僕はいつもだからいいけど」
「キミ、大丈夫かい笑?」
「やってしまったあーー!!!」
「じゃあ僕は行くね」
「バイバイ天馬くん」
「今日はありがとう!」
「おかげで気が楽になった!!」
「ところでお前、名前は…?」
「僕が誰かなんて別にいいじゃないか」
「もう関わることもないだろうしね」
「それじゃあ」
「あ、おい!!」
誰にでも悩みはあるものだね。
少し、心が軽くなったような気がした。
もし神高で再会したとき、司くんは覚えてなかったけど、類くんは覚えてたーとかならいいね。