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「大事件〜〜!大変大変!!」
声を張り上げながらドイツ棟ミーティングルームに飛び込んできた黒名に、
部屋にいたカイザーとネスは訝しげな視線を向ける。
本気で慌てた顔をしている黒名を見ると確かに何かが起きたようだ。
「うるさいですよ。どうかしたんですか、蘭世」
「まったくだ。クソうるせぇ」
「ハァッ、ハァッ……じ、実は…」
黒名は肩で呼吸をしながらチラリと後方に目線をやった。
そこには氷織の姿があった……が、問題は彼が抱きかかえている存在だった。
「…………は??」
「はぁ!?よ、世一ぃ!?」
カイザーとネスは揃って目をまん丸にして驚きの声を上げていた。
氷織が抱きかかえていたのは幼い子供。恐らくは3、4歳といったところだろう。
ブルーロック内に子供がいるのは勿論不自然だが、なによりもその子供の容姿に問題があった。
綺麗な黒髪の頭からぴょこんと生えた双葉に、くりくりとして零れ落ちそうな程に大きなサファイアの瞳。
この特徴には嫌という程覚えがあった。
どこからどう見てもこの少年は、ブルーロックの異端児エゴイストの潔世一だった。
「……こ、これはどういう事だ?」
「なんか朝起きたら潔くん小さくなってしもてたんよねぇ……」
「はぁ!?どうなってるんですか世一の奴!?非常識すぎるでしょ!?」
「ふはっ、元々小さいのに更にチビになるとか世一くんは大変ねぇ……つーかクソ可愛すぎんだろ。
お目目くりくりだしほっぺたもちもちだし手足も短くてぷにぷにで天使か??」
「落ち着いて下さいカイザー!心の声がダダ漏れです!!」
「ハッ!?ク、クソ世一……これもコイツの策略か?」
「落ち着け落ち着け」
あれほど慌てていた黒名に落ち着けと言われるのは少々癪に障るが、
カイザーは一つ咳払いをしてなんとか冷静さを取り戻そうとする。
ショタ世一を見て取り乱してしまったのは確かに事実だ。それほどまでに小さくなった世一の愛らしさは凄まじいものだった。
「ハァ……で?これは原因は何か分かっているのか?」
「それがまったく……昨日は普段通りに過ごして消灯の時間になって寝たんやけど、
朝起きたら潔くんだけ小さくなってたんよ…」
「ふむ……オイ、これBLTVで放送されるんじゃないのか!?」
「それは大丈夫。すぐに絵心さんに連絡したら、ドイツ棟のカメラだけ故障してるって事にしてくれたから放送はされへんよ」
「冷静な君がいて助かりましたね」
「それは良かった。これが世界中に放送されたらクソヤバい」
「そうですね」
「ああ。こんなクソ可愛い世一を見られたら変態野郎が大量発生してしまうからな」
「そこ!?」
「……?他に何がある?」
至極当然という顔をしているカイザーを三人は揃って呆れた顔をしてジトリと視線を送る。
そういえばこの皇帝様は世一に対しては時々盲目的になり、知能指数が極端に下がることを思い出した。
「……まぁ、確かに小さい潔は可愛い可愛い」
「ふふっ、そうやねぇ。ほんま天使みたいやわ」
黒名と氷織が世一の顔を覗き込むと世一はパチパチと瞬きを繰り返し、ぎゅっと氷織にしがみついている。
どうやら氷織に大分懐いているようだ。
「オイ……その世一って記憶はあるのか?」
「それが……」
「……おにいちゃんたち、だぁれ?……よっちゃんのこと、いじめない?」
「ぅぐっ゛……!!」
見慣れない外国人にぷるぷると怯えながらたどたどしく紡がれた言葉の威力に、
カイザーはグッと胸を押さえてその場にへたり込み片膝をついた。
「カイザーが膝をついたぞ!さすが潔、凄い凄い!!」
「カ、カイザーお気を確かに!」
どうやら目の前にいる世一は現在の記憶がないらしい。中身までも幼児化しているようだった。
つーかおにいちゃんとか自分のことよっちゃんって呼ぶとか可愛すぎてクソヤバい。
声も鈴の音ような甘やかなソプラノで天使か?そうなのか?心臓が変な音立てたぞ。
世一に対して並々ならぬ好意を抱いているカイザーには多少刺激が強すぎた。
「大丈夫だよ、潔くん。このお兄ちゃん達も僕らのチームメイトやから」
「ん……」
「オイ、というかなんで世一はそんなにお前に懐いているんだ?同じく初対面なんだろう?」
「どうやら潔はメンクイらしい。氷織を見てパァッと目を輝かせてすぐに懐いた」
「……剣優はどうしたんですか?モデルやってて顔は整っているでしょう?」
ネスの言葉に黒名と氷織は複雑そうな表情を浮かべていた。
なんでも、小さくなった世一を見て「俺の神が天使になった!やっぱり潔はこの世の理とは違う存在なんだ!!尊すぎる!!」
と涙を流しながら興奮していて、その姿に世一は怯えきってギャン泣きしてそれ以降雪宮は避けられているらしい。
成程。確かに子供からしたらその反応は怖すぎるだろう。いや、普通に大人でも怖い。
ガチでドン引きするレベルだ。ふむ、そうなると……カイザーは優秀な頭脳をフル回転させる。
「……世一、」
「…なぁに?」
カイザーはとびっきりのキラキラ王子様スマイルを浮かべ、
優しく甘い声色で氷織の腕の中の世一と目線の高さを合わせながら話しかけた。
「俺はミヒャエルだ。よろしく頼む」
「……みひゃ、える…?」
「ああ。ミヒでもミヒャでも呼びやすいように呼んでくれ」
「う、ん……ミヒャ」
「ふふ、良い子だ」
カイザーは蕩けそうなほど甘やかな笑顔を浮かべ優しげに世一を見つめる。世一は目の前の造り物の様に美しい男性に、ポーッと見惚れてしまっていた。
「……オイ、カイザーの奴下の名前だけ教えて潔に呼んでもらう作戦に出たぞ!?姑息姑息!」
「しかも成功してるなぁ……さすが皇帝様」
「俺も潔に名前で呼んで貰いたい……」
「う゛っ……カイザーがキラキラと輝いているッ、眩しい…!!」
「めっちゃ好感度上げようとしてはる……普段の潔くんには、初っ端からやらかして嫌われとるから必死やねぇ」
「自業自得」
ヒソヒソと言いたい放題の三人に対しカイザーは世一に気付かれないように、
黙れと言わんばかりの冷ややかで圧のある視線をギッと向ける。
あ、これ本気のヤツだ。三人はそう察してキュッと口を噤んだ。君子危うきに近寄らず。
下手に反感を買って皇帝様に恨まれたくはない。
「……ミヒャ、だっこして」
「いいぞぉ♡」
んっ、と手を伸ばしてだっこをせがむ世一にカイザーの頬が緩んでいく。
無事に警戒心を抱かせずに懐柔出来たようだ。カイザーは心の中でガッツポーズを取る。
自分の容姿が武器になることは重々理解しているので、どうやらメンクイらしい世一に対し最大限に利用させて貰った。
「ふふっ、世一は軽いな」
氷織から世一を受け取り抱きかかえる。驚くほど小さく軽い世一に改めて驚くが、
腕の中にすっぽりと収まる存在に愛おしさが込み上げてくる。ぽかぽかとした子供特有の体温の高さが心地好い。
「……ミヒャ、なんかいいにおいする」
「ん?香水の匂いか?」
「……よっちゃん、このにおい……すきぃ♡」
スンスンと鼻を鳴らしながらスリッと身体を寄せてくる世一に、ビシッとカイザーは固まってしまう。普段は悪態しかついてこないあの世一がファーストネームを呼び、自分(の匂い)を好きと言ってくれるだなんて……カイザーは感動に打ち震える。
ハァ〜…小さい世一が無邪気で可愛すぎてクソつらい。このまま育てて紫の上計画をしたい。
「世一が気に入ってくれたのなら嬉しいな」
「……ねぇ、ミヒャにはお花さいてるの?」
「ん?」
「ここのとこ、お花がある」
世一はカイザーの首元の青い薔薇のタトゥーを興味深げに眺め、ぷにっとした小さな手で撫で撫でとしている。
ん゛んっ、クソかわ!
「…ああ、これはタトゥーと言ってな……怖いか?」
「ううん。あおいお花、とってもキレイ」
「世一ぃ♡」
ハァ…ほんとクソ可愛すぎんだろ。ふと目についたぷにぷにのほっぺたを触りたくて、カイザーの目は釘付けになってしまう。つい我慢できずにツンと人差し指で触れた瞬間、ぷにゅんとしたあまりの柔らかさに「ん゛ぐぅっ」と妙な唸り声が口をつく。
「……世一のほっぺたはマシュマロみたいだなぁ」
「そ〜う?」
「ん〜…クソ気持ち良い♡」
「きゃぁ〜〜♡」ㅤ
衝動のままにカイザーがすりすりと頬ずりすると、世一はキャッキャッと声を上げて笑っている。
「くすぐった〜い!ミヒャ」
「ふふっ、すまない。ハァッ……それにして世一は天使の様に愛らしいな♡」
「…?よっちゃん……てんしみたい?」
「ああ。可愛すぎて心配になるぞ」
「…ふ〜ん?ミヒャはキラキラしてて、おうじさまみたい♡」
「ぐっ、ぅ゛ッ……!」
威力抜群の世一の言葉にカイザーは本日何回目かのクリーンヒットを食らい、顔を歪ませながらギュッと胸を押さえる。
世一はコテンと首を傾げながら、そんなカイザーの様子を不思議そうにまん丸の大きな瞳で見ていた。
「…………」
普段のいがみ合っている状態からは考えられないほどに、甘い雰囲気を醸し出しているカイザーと世一を、
三人はゲンナリとした顔をして少し離れた場所から眺めていた。
「……あれは誰だ?俺の知ってるカイザーとは違う」
「皇帝様めろめろやねぇ。というか、潔くんの天然たらしっぷりも凄いなぁ」
「クソ世一ぃぃぃぃぃ…カイザーにあんなにベタベタと!!あぁ、でもキラキラ神々しいカイザーも素敵です……」
「本当にめっちゃキラキラしてるなぁ……本性隠して王子様スマイル全開のカイザーには誰も勝てへんよ」
「確かに確かに」
目論見通り世一に気に入られ懐かれたカイザーは満面の笑みを浮かべ、
ミルクのように甘い香りのする世一を抱き締めその柔らかさと体温を堪能していた。
ショタ世一の愛らしさにカイザーの顔は緩みっぱなしだった。世一も美人に抱きかかえられてご機嫌な様で、カ
イザーの腕の中でニコニコと天使の如く笑っていた。
「ハァ……本当に可愛いなぁ、世一♡……大きくなったら俺のお嫁さんになってくれないか?」
「よっちゃん、おとこの子だよ?」
「大丈夫だ。俺の国では男同士でも結婚出来るぞ」
「そうなんだ〜…へへっ、じゃあいいよ。ミヒャのおよめさんになってあげる♡」
「ほんとか!?約束だぞ世一ぃ♡」
チュッと音を立てて世一の柔らかなまろい頬に口付けを贈ると、世一は恥ずかしそうにくふくふと笑っていた。
どさくさに紛れて結婚の約束までしているカイザーに黒名と氷織はドン引きである。
「うっわ……潔が幼いのを良いことに結婚の約束までしてるのヤバいヤバい!」
「ふふっ、潔くんが元に戻ったらどうなるんやろね」
「世一ぃぃぃぃ…!カイザーと結婚とか絶対に許しませんよ……!!」
ネスはギリギリと歯を食いしばり妬ましさ全開といった様子で、甘い雰囲気のカイザーと世一を睨みつけるのだった。
その後。
世一が小さくなったと聞きつけて凛、凪、蜂楽がドイツ棟に飛び込んできてショタ世一を独占したがるカイザーと一悶着起こしたりと、騒々しい日々が数日間続く事になった。
「おい、そのチビを寄越せ」
「小さい潔…可愛い」
「わ〜潔天使みたいじゃん!ほらおいで」
「ひっこめ下々共。世一は俺のだ」
「黙れクソ薔薇!!」
「……?」
当の本人の世一は、そんなやり取りを愛らしい顔をきょとんとしながら眺めていた。
なんだかんだで無事元の身体に戻れた世一だったが、
氷織から「カイザーとめっちゃラブラブで、結婚の約束までしてはったよ」と聞かされ衝撃のあまり、
世一は卒倒しそうになった。
約束を取り付けた確信犯であるカイザーに「大きくなったから、結婚してくれるんだよなぁ世一?」と有無を言わせぬ笑顔でグイグイと迫られることになり、世一は涙目でカイザーから全力で逃げ回る羽目になるのだった。