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母国ドイツからオーストラリアへの長い旅路に出発する早朝、初冬を迎えているドイツはまだ日が昇っておらず、空港の外は暗闇と街灯の明かりだけが世界の全てだった。
そんな空港の出発フロアにタクシーから降り立ったのは、白い息を吐きながら少し大きめのスーツケースを無言で引っ張っているリアムと、同じく欠伸混じりにリアムよりは少し小さなスーツケースを引っ張っている慶一朗だった。
リアムは十二日間、慶一朗は七日間をドイツで過ごしたが、それも今日で終わりだった。
約2時間後にこの空港を離陸するドバイ経由シドニー行きのフライトで二人は帰国し、月が変われば日常生活へと戻るのだ。
休暇が終わりを迎える時の寂寥感は得も言われぬものがあったが、そこにこの休暇で一緒に過ごした家族と次の再会を確約できない別れを済ませたリアムにとっては、慶一朗以上の思いが胸に去来しているようで、いつもならば色々話題を見つけてくれるのに、ホテルのフロントに頼んで手配して貰ったタクシーに乗り込んでからは口を開かなくなったのだ。
仲の良い家族との別離は何度経験してもやはり寂しさを覚えるものだろうが、慶一朗にはその感覚があまり理解出来なかった。
だが、己に理解出来ない感覚だからと言って恋人が感じているものを貶したりできるような無神経さを慶一朗はもっておらず、黙っていたいのならば黙っていれば良いとその沈黙に付き合っていた。
出国ロビーに到着し、スーツケースを預ける為に早朝で閑散としているそこに向かい、二人分のチケットを提示する。
「ドバイ経由シドニー着ですね」
「ああ。長旅になるから天気が良いと嬉しいのに」
スタッフとにこやかに−といっても日常に比べれば必要最低限の言葉しか口にせず荷物を預けたリアムは、同じように慶一朗も荷物を預け終えたことに気付き、まだ時間があるからコーヒーでも飲まないかと笑いかけ、少し考えた後に無言で頷かれて少しだけ安堵した顔になる。
「どうした?」
「うん……帰るんだな」
「そうだな……帰ってもまだ休暇は残っているから家でゆっくりしよう」
二人とも仕事へ戻るのは月が変わってからになるのだ、だからまだ休暇は残っているとどうしても消せない寂寥感を滲ませる顔に目を細めた慶一朗は、早朝でも開いているカフェの横にあるテーブルに腰を下ろし、美味いコーヒーが飲みたいと小さく笑う。
ホテルに備え付けのコーヒーメーカーは最近よく見かけるカプセル式のエスプレッソマシンで、慶一朗がメーカー名を見ただけで美味しくないから飲まないと言ったのだ。
ホテル自体は文句を付けようのない程素晴らしいサービスを提供してくれていたのに、エスプレッソマシンがカプセル式だったことだけが不満だと今も苦く笑う慶一朗にリアムも無言で肩を竦める。
「ドイツもカフェは多いと思うけど、シドニーの方がコーヒーの飲み方が豊富だな」
「フラットホワイトはやっぱりシドニーの方が好きか?」
フラットホワイトという飲み方はドイツでも定番になりつつあるが、やはり本家といわれるシドニーのカフェが好きかと問われて頬杖を突く慶一朗に小さく頷いたリアムは、何を飲むとカフェのメニューを見ながら問いかけ、アメリカーノと期待しない声に返されてリアムがコインケース片手にカウンターの前に向かう。
カフェの近くから見える外はまだまだ暗闇と空港特有の街灯のオレンジ色に染まっていて、否が応でも旅立つ寂しさと期待に満ちた気持ちにさせてくれる。
日本を一人旅立つときもこんな不思議な気持ちだったと思いながら小さく欠伸をした慶一朗は、戻ってきたリアムが差し出す紙のカップを受け取り恐る恐る口を付けるが、ホテルのものよりはマシだと皮肉な笑みを浮かべ、リアムが買ったフラットホワイトにも口を付ける。
「……帰ってもし元気があればコーヒーを淹れようか」
「うん。ケイさんのコーヒーを飲みたいな」
「じゃあ俺はお前の料理を食いたい」
お前の料理はお前の実家に滞在していたときにも少し食べていたが、家族がいたためにいつものように食べられなかった、だからあまり食べた気がしなかったと、コーヒーのカップに息を吹きかけながら訥々と呟く慶一朗の横顔を凝視してしまったリアムは、最初の一口目はやはりどんな料理であってもお前に食べさせて貰う、それがもう癖になっているんだから責任を取れと色素の薄い目で睨まれてしまい、カップに口を付けつつ責任を取ると返す。
「ああ、でももしかするとコーヒー豆を買い換えた方が良いかもしれないな」
「油が回ってる?」
「まだ大丈夫だとは思うけどな」
どうせルカ達にマルクトの屋台で買ったクリスマスの飾りを渡しに行くのだ、その前にお気に入りのカフェに立ち寄ってコーヒー豆を購入しても良いかもしれないと笑うが、あの店に行くときはいつも雨が降るからそのつもりで行かないとダメかもなと肩を竦める。
「そうだなぁ」
互いの顔をというよりは手元の紙のカップを見つめながら他愛も無い話をする二人だったが、そのどちらの胸にも言い表せない寂しさが溢れていて、それに気付きながらもどちらもそれを吐き出せとは言えないでいた。
搭乗時間まで2時間を切り、ラウンジかロビーで時間潰しをするかと慶一朗がリアムを見たとき、ヘイゼルの双眸が限界まで見開かれ驚愕の表情を浮かべていることに気付き、どうしたと背後を振り返る。
「――!!」
慶一朗も背後を振り返ったまま動きを止めてしまう程の衝撃を受けてしまうが、二人にその衝撃を与えたのは、必死な顔でこちらに小走りに駆け寄ってくる老女の姿が見えたからだった。
「ばあちゃん!?」
「ああ、良かった! 間に合ったね!」
椅子を思わず蹴り倒す勢いで立ち上がったリアムの横に駆け寄ってきたのは、二日前に実家で別れを告げた祖母、クララだった。
「ばあちゃん、どうやって来たんだ!?」
「マリウスに送って貰ったんだよ」
ほら、フリーダとテレーザも一緒に来たよと、背後を振り返って手を振るクララにリアムがぽかんと口を開けて駆け寄ってくる家族を見つめるが、慶一朗が小さく息を吐いてちゃんと別れが言えるなと笑い、その声にリアムが軽く驚くものの祖母が駆けつけてくれたこと以上の驚きにはならなかったようだった。
「荷物はもう預けたのかい?」
「あ、ああ、預けた。まだ少し時間があるからコーヒーを飲んでた」
「そういえばケイが淹れてくれたコーヒーは美味しかったねぇ」
店の横の菩提樹の下、カフェのようにテーブルを置いて飲んだコーヒーはいつもの味の筈なのに非日常を感じさせてくれた、これから休日の朝はあの木の下でコーヒーを飲むことにしようかなとクララの肩に手を載せたフリーダがねぇと母に笑いかけ、それも良いねぇと同意されて夫を見上げる。
「おばさんも、来てくれてありがとう」
「ええ。……あの人とね、ちゃんと話し合うことにしたわ」
エリアスももうすぐ新婚旅行から帰ってくる、新婚の二人には申し訳ないがちゃんと自分たちの納得のいく結論を出すつもりと、先日店の営業が終わる頃に駆け込んできたときとはまったく違う何かを決意した顔で微笑まれて軽く目を見張ったリアムは、そんな顔になれるのだから大丈夫だ、もし何かあれば母さんも父さんもばあちゃんもいると笑うと、同じ事を言って貰ったからきっと大丈夫とテレーザが目を伏せる。
「俺も帰ったらエリーに連絡をする」
「ええ。――リアム、私たちと同じでバカな子だけど、あなたが良ければ仲良くしてあげてね」
「もちろん」
エリアスがバカとは思わないしこれからも仲良くするつもりだと安心させるように頷くと、テレーザが目尻に涙を滲ませた笑顔でお願いをする。
「ケイ、今回は家に来てくれてありがとう」
最初は驚いたが二人揃って帰ってきてくれてありがとうと、言葉数は少ないがいつも穏やかに見守ってくれているであろうリアムの父マリウスの言葉に慶一朗が穏やかさと自慢を綯い交ぜにしたような笑顔で頷き、マリウスにそっと手を差し出す。
その手をしっかりと握ったマリウスだったが、その手に柔らかな手が重なり、顔を向けるとフリーダがにこにこと笑みを浮かべていた。
「あなたがリアムと一緒に来たときは本当に驚いたけれど、次も一緒に帰ってきて」
リアムはあなたと一緒に住んでいるのでしょう、だったらドイツのあの家もあなたの家のようなものよと、人と人との距離感など意に介さずに気持ちよく詰めてくるフリーダにどう返事をするべきか悩んだ慶一朗だったが、フリーダが母親なら良かったのにと思いも掛けない言葉を呟いてしまう。
「ふふ。私はケイを産んだ訳じゃ無いけど、リアムがあなたを紹介したときからもうあなたは私たちのもう一人の息子なのよ」
だから気兼ねすることなく家に帰ってきなさいと、リアムにも通じる笑みを湛えたフリーダが隣の夫にねぇと笑いかけると、こちらは父子そっくりの顔で大きく頷く。
「父親ならすると思う事、それをしてやるから帰ってこい」
フリーダとマリウスの言葉に少し考え込んだ慶一朗だったが、リアムへと顔を向け次いでクララを見ると同じ顔で頷かれた為、まさかこの単語を使う日が来るとは思わなかったと笑いながらダンケと礼を言う。
「ダンケ。――Dad、Mom.」
「……ダッドとマムか、良いな、それ」
慶一朗が耳を赤く染めつつ二人に呼びかけたのは、親父とお袋と言ったニュアンスの言葉で、それも良いなと笑った二人の本当の息子であるリアムが慶一朗の肩に腕を回して何度も頷くと、ケイさんは今回の旅行で家族が出来たと心底嬉しそうに笑う。
「ああ」
まさかこんなことになるなんて思いもしなかったと苦笑した慶一朗だったが、リアムの様子からあの時ゴードンの誘いに強引に乗って良かったと胸の内で呟く。
「……ばあちゃん、次に会ったらプファンクーヘンの作り方を教えて欲しい」
「食う専門のケイさんが料理をする!?」
「何だその驚き方は!」
くそったれの筋肉バカといつもの癖でリアムを罵ると、愛嬌のある顔に太い笑みが浮かぶだけではなく、テレーザを含めた皆が腰に手を当てて慶一朗の名を呼ぶ。
「ケイー!?」
「その言葉を使えばお仕置きだと何度言わせれば気が済むんだい!?」
マリウスに名を呼ばれてフリーダに子供を叱る顔で注意されてしまい、咄嗟にリアムの背後に回り込んだ慶一朗は、お前が悪いと盾代わりにしているリアムを背後から非難し、盾を内側から攻撃するなと苦笑されてそのおかしさに気付き小さく噴き出してしまう。
「……気をつける」
「――リアム、ケイ、今回は本当に楽しかったよ」
次はいつになるか分からないけれどまた家に帰っておいでとクララがリアムを抱きしめ頬にキスをし、同じように慶一朗の背中をそっと抱きしめると、目尻に涙を溜めながら笑みを浮かべる。
「気を付けて帰るんだよ」
「うん。ばあちゃんも元気で」
祖母の頬にお返しのキスをし、同じような顔で見守ってくれている両親と幼馴染の母の頬にもキスをすると慶一朗へと顔を向ける。
「そろそろ行こうか、ケイさん」
「ああ」
名残惜しそうな顔の家族に笑顔で頷いたリアムとそんな彼の横で穏やかな顔で手を挙げた慶一朗は、同じように手を振り返してくれる家族同然の人達に背中を向けて歩きだす。
慶一朗と同じようにリアムも歩き出すが、一度だけ振り返って家族を安心させるように頷いたかと思うと、その後はいつかとは全く違う顔つきで見送ってくれる家族を安心させるような背中を見せて出国ゲートに向かうのだった。
リアムが十歳の時、遠縁の青年と一緒に乗り込んだ飛行機の行き先はリアムにとっては未知の国々で、まるで地獄か何処かに向かう船に乗った気分だった。
だが、今慶一朗と一緒に乗り込んだ飛行機が向かう先は同じ場所のはずなのに明るい光に満ちている気がし、何だろうと思いつつ二列シートの窓際に座った慶一朗の身体越しに窓の外を見ると展望デッキが小さく見える。
「展望デッキに人がいるけど、ばあちゃん達かな」
「そうかも知れないな」
リアムの視線の先を慶一朗も見ていたようで、そこに家族らしき姿を発見して声を少しだけ弾ませたリアムに慶一朗も頷き、見送りしてくれるんだなとリアムのシートへと軽く身体を寄せる。
「昔、同じように展望デッキから見送ってくれたけど……」
あの時とはきっと気持ちはまったく違うはずだと顔を振り向ける慶一朗に穏やかに笑ったリアムは、あの時は二度と両親やばあちゃんに会えなくなると思っていたと告げると肘置きに置いたリアムの手に慶一朗が手を重ねる。
「……長旅だな」
「うん、そうだな」
でも、あの時一緒にいたユーリには悪いが、今回はケイさんが一緒だから全然気持ちが違うと笑うリアムの前髪を指先で軽く弾いた慶一朗は、添乗員が出発前の確認で慌ただしく動く様子を見ながらドイツでの休暇が間もなく終わりを迎え、自宅に帰る一種の高揚感に小さく息を吐いて窓の外へと目を向けると、暗闇が少しだけ薄れたような気持ちになる。
「帰ったら暑いかな」
「どうだろうな、暑いかも知れないな」
冬のクリスマスではなく真夏のクリスマスになると笑う慶一朗にリアムも笑い、離陸の準備が整ったのか、添乗員が最終チェックを始める。
窓から展望デッキを見つめ、そこにいるであろう家族に心の内で感謝と一時の別れの言葉を告げたリアムは、飛行機が動き始めたことに気付き、肘置きに置かれている慶一朗の手に手を重ね、エコノミーとは違ってゆったりと座れるが、隣のシートの間が離れている事だけが少しだけ残念だと内心で呟くのだった。
暗闇の中、翼の下に赤や緑の照明を点灯させた飛行機が滑走路を進み、離陸に向けてエンジンを始動させる。
展望デッキでその音を聞いていたクララだったが、いつかとは違って今回は悲哀などでは無く無事に家に帰り着きますようにとの願いだけが胸に溢れていることに気付く。
今のようにリアムをここで以前見送った時はフリーダが泣きながら飛行機を追いかけるように走ったが、今はベンチに腰を下ろして二人の息子が乗っている機体が飛び立つ準備に入ったのを見守っていた。
まさかリアムが男の恋人を連れて帰ってくるとは思わなかったが、自分たちが思う以上にリアムを理解し、またリアムも慶一朗を理解している様子が言葉や態度の端々から窺え、この二人ならばどんな問題が起きても乗り越えられると安心できたのだ。
その思いから寒さを堪えて飛行機が滑走路に入るのを見守っていると、ジェットエンジンが始動し、飛行機が飛び立つ準備を終えたことを教えてくれる。
「――リアム、ケイ、何があっても仲良くするんだよ」
クララの呟きにマリウスとフリーダが顔を見合わせ、テレーザが行ってらっしゃいと小さく手を振る。
その声に合わせたかのようにジェットエンジンが火を噴き一際大きく唸ったかと思うと、シドニーへの長距離フライトに向かう飛行機が徐々にスピードを上げて滑走路を走っていく。
その姿をいつかとは違ってベンチに腰を下ろしたまま見送るクララ達の前、機首が上向き、闇が少し薄らいできた空に向けてジェット機が飛び立っていく。
みるみるうちに小さくなる機影を見送った途端、寒さを覚えて身体を震わせたクララは、さあ帰ろうかと娘夫婦とその幼馴染みに笑いかけ、自宅がある国に向けて飛び立った孫息子よりも一足先に日常生活へ戻るため帰路に就こうと笑うのだった。
そんな彼女たちの遙か頭上、赤と緑の照明灯を煌めかせた機体が別れを告げるように旋回し、目的地に向けて飛んでいくのだった。
ドイツを出発し経由地で乗り換えなどを経て最終目的地に向けてフライトを続けていたジェット機が機長の腕前を見せつけるようなソフトランディングを行い、機内の人々に地上に降り立ったことを教えてくれる。
ロングフライトが終わりようやく地上の感触を足の裏で確かめたリアムは、隣で欠伸を堪えながら歩く慶一朗に苦笑し、タクシーで帰ろうかと提案をする。
「そうして欲しいな」
その言葉に頷き、少し厳しい入国審査を無事に終えた二人が到着ロビーに出るとドイツでは感じられなかった熱気のようなものを覚え、今日も暑いのかと思わず呟いてしまう。
到着ロビーの自動ドアから外に出た二人の全身をムッとした熱気が包み、ああ、帰ってきたと思わせてくれる空気に無意識に安心感を覚えてしまいながらタクシーに乗り込み、自宅までの間ドライバーと気軽に言葉を交わし、そんなリアムの横ではいつも通りの様子に安心した慶一朗がぼんやりと窓の外を見ているのだった。
そして、自宅前で荷物を下ろして玄関の鍵を開けたリアムは、自宅から人が不在だった時の空気の淀みなどを感じないことに首を傾げ、後から入ってきた慶一朗に答えを教えられて苦笑する。
「ラシードに家の鍵を預けておいた」
毎日は無理でも空気の入れ換えと郵便のチェックを頼んでおいたことをあくび混じりに聞かされ、それは助かるとリアムも頷く。
「二人と店への土産はいつ持って行く?」
「明日だな」
今日はもう一歩も歩きたくない気分だと笑う慶一朗の頬にキスをしたリアムは、お疲れさまと労いながら慶一朗を抱き上げるが、何の抵抗もされないことから疲労のピークにあると気付く。
「……ベッドで寝る」
「そうだな」
二人が乗ったビジネスクラスはシートをフラットに出来て窮屈さは感じないはずだったが、やはりベッドとは比べられなかった。
だからベッドに連れて行けと頼んだ慶一朗の頬にもう一度キスをしたリアムが同じ長旅をしたはずなのに一切疲れを感じていない顔で二階のベッドルームに運び、ベッドに下ろされた安堵にため息を吐いた慶一朗がお前は寝ないのかと問いかける。
「そうだな、俺も寝るかな」
「ああ、そうしろ」
荷物の片付けなど後回しにして一緒に寝ろと、どちらかと言えば子供が添い寝を強請るような声で誘われては断れず、服を脱ぎ始めた慶一朗の横に同じく下着姿になったリアムが横臥し、昨日までは暖房に感謝していたが今日からはまた冷房にありがたみを感じると笑うと慶一朗が大きくあくびをし、リアムの腕を取って己の頭の下に突っ込ませる。
そしてあっという間に寝息を立て始めた事から、無意識の行動なのかそれともドイツで得た変化の表れなのかと思いつつもリアムも寝息に釣られるようにあくびをし、慶一朗を抱き枕よろしく抱き締めながら目を閉じるのだった。
二人が無事に帰国して眠りについた時、慶一朗の職場ではささやかだが関係者にとっては重大な問題が発生していて、後々二人を巻き込んだ事件へと発展するのだが、今の二人にそれが分かるはずもなく、ただただ眠りの園で長旅の疲れを癒やしているのだった。