太宰side
後方から指す月光が胸に抱き寄せた敦くんの白髪を光らせる。
…そのまま夜の月に溶けて消えてしまいそうな程、今の彼は弱々しくて、何処かに行ってしまうような気がする。
それを防ぐため、今は抱き締める事に必死だった。
敦「太宰さん、離して下さい…ッ」
太「…駄目だ。……敦くんが何処かに行ってしまうのでは無いかと恐ろしいんだ。」
敦「…僕は…ッ、もう1度院長先生に…、」
暴れる敦くんを離さず両手で先程より強く抱き締める。
力も出ないのか、そうすれば大人しくなって、悲しく、苦しそうに喘いで震え出した。
その弱々しい背中を擦りながら言葉をかける。
太「………院長先生が、君の中で、大きな存在だと言う事も、私がその代わりになれない事も分かってるよ。」
太「でも、…それでも、…私は君に此処に居て欲しい。…だから…、私の、私達探偵社の声を聞いて呉れ」
太「…心の中で生きる、君の亡き父親の声では無く、今此処に生きる、君を大切に思う人の声を聞いて呉れないか」
敦くんの肩に手を添えて、互いの顔が見えるように抱き締めていた腕を下ろした。
やっと此方を見てくれた敦くんの顔は涙と悲しさで酷く歪んでいる。
其れでも、此方を捉える私の好きな瞳が、合っていて、私の目に綺麗に写った。
その瞳も、今は涙で歪んでいていつも通りでは無かったけれど。
…いつも通りでは無い、というより、これが本来の微弱な彼なのかもしれない。
その全てを受け入れるように優しく顔を綻ばせてから笑った。笑顔と言っても良いのか分からない程、自身の顔も少し悲しく歪んでいた気がしたけれど、今は其れも気にならない。
太「…、敦くん、私の声を聞いて。」
太「過去を捨てろだなんて言わないよ。その過去も、今の敦くんも全て大切なんだ。だから……、…院長先生より、今君を一番に大切にする探偵社と、。…私と、前を向いて呉れないか?」
再び問いかける。未だ泣き出しそうな顔で下を見る敦くんの表情が、少し動いたような気がした。
太「…辛くなった時は私に本音を吐けばいい、。…だから、そんな悲しい顔…しないで呉れ」
君には笑った顔が似合うから、。
父親にさえ置いて行かれた孤独な彼を、1人にしないように胸の内に抱き締めた。
敦「……太宰、さ…、ッ、僕、っ、ずっと…、ッ、ずっと」
太「…苦しかったね。…、いいよ、泣いて」
言葉が、溢れる涙にかき消されたのか、声もなく震えながら泣く敦くんを胸に、その夜明けを過ごした。
その少し後に、ドアが控えめにガチャりと空いた。
乱「…敦は?」
太「ふふ、泣き疲れて寝ちゃいましたよ」
其れを聞いた乱歩さんが安心したように胸を撫で下ろす。
乱「流石の名探偵も一寸ひやっとしたね〜」
はぁ、と、子供みたいに困った顔をしてから、胸に抱かれた敦くんをみる。
乱「太宰、…言わなくて良かったの?」
太「…乱歩さんは気づいてましたか」
乱「もちろん、名探偵だからね〜」
太「…未だ良いんです。この気持ちを伝えるのはもう少し後にします。」
乱「ふぅ〜ん、…」
乱歩さんは其れだけ言うと敦くんに優しい視線を投げかけて、医務室を出ていった。
苦しみや辛い過去に生きる、彼の弱さも強さも全部、私には無いものだった。
そういうものに私は惹かれたんだ。
優しい彼の笑顔に。
だから、
太宰さん、と語りかける君の声が、早く聞きたいな。
そう思って、今は眠る彼の瞼に接吻を落とす。
夜明けならぬ朝焼けが、もうそこまで迫っていた。
私の大好きな、君の色だった。
𝕖𝕟𝕕 𓂃 𓈒𓏸
長く描き続けていたこの話ももう終わり…!
なんか悲し…、、、
(あ、でも続き少し書くかも…?)
ここまで見てくださって本当にありがとうございます泣
リクエスト等いつでも待ってます…、!
其れではまた何処かで!
コメント
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続いてくれ!(´;ω;`)