夜咲叶霊はただ立っていた。
空はない。風もない。
かつてここで多くの異能者が処分された。今、その石床に、彼女の影が落ちていた。
「……終わったんですね、計画。」
ミルゼは静かに頷いた。
白衣は血のしぶきで染まり、靴の先には魔物の残骸が転がっている。
彼の表情はいつものとおり、壊れそうに優しかった。
「夜咲。君はよく働いた。完璧だったよ。」
「……ミルゼさん。私……何のために……?」
「ん? 目的?」
彼は少し笑った。まるで子どもにおとぎ話を話すように。
「君に“目的”なんて最初からなかった。ただの歯車だよ。そうだろ? 君も途中で気づいてた。」
夜咲は返さなかった。
“黙秘の契約”で封じられたままの喉が、ただ震えていた。
その震えが、かすかな涙を呼び起こす。だが彼女は泣かなかった。泣き方を知らなかった。
「……ミルゼさん。最期に、質問をしてもいいですか?」
「いいよ。無駄だけど。」
「わたしは……誰かを、救えましたか?」
ミルゼはそれには答えなかった。
代わりに、懐から静音式の異能兵装──“黒鍵”を取り出した。
長く細い刃が、夜咲の前髪を揺らす。
「さよなら、夜咲。君の“存在”が、僕の足を引っ張る。用済みの“呪い”には、消えてもらう。」
刹那。
光が一閃。
夜咲の身体は崩れなかった。倒れなかった。
ただその場に、そっと、座るようにして崩れ落ちた。
その顔に、涙も、怒りもなかった。
ただ、ほんの少しの“安堵”が残っていた。
──彼女にとって、これが救いだったのかもしれない。
ミルゼは振り返らなかった。
冷たい塔の風だけが、彼の白衣の裾を揺らしていた。
「なぜ殺した?」
──ウィスの問いが、どこかで聞こえる。
「必要がなかったからさ。」
それだけ。
彼にとって、人の命はもう、重くなかった。
沈黙が彼から全てを奪った時──
ミルゼは“人間であること”を捨てたのだから。
コメント
2件
今回も神ってましたぁぁぁぁぁあ!!!!! ミルゼスワァン...!!?何してるんですかァ...!!!!?? 人であることを捨てちゃったの?そんなの駄目よ!!!! いつか███されるわよ!!(?) 何かうちもうミルゼさんにメロメロになったわ(( 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいいいいぃ!!!!!!
OMG 映画を見ている気分…