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小学校1年生の時、バレエを始めた。
ドレスみたいなチュチュを着て、舞台の上で踊るあれ。
ありすが始めると聞いたお母さんが、一緒にやったら?と聞いてきた。
お母さんは仕事をしてるけど、ありすのお母さんはしてない。
バレエを習う時は、学校からありすの家に帰って、バレエに行って、お母さんが迎えに来るまでありすの家にいる。
つまり、お母さんが私を家に置くのが怖い時に、ありすのお家に預かってもらうための習い事だ。
体験に行った時、すらっとした先生がとてもきれいで見とれた。クラシックみたいな曲を流して、先生が指を鳴らすカウントに合わせてみんな揃って踊っている姿がとても素敵だった。
小学生のお姉さんも素敵だったけど、中学生のお姉さんのクラスの素敵さは言うまでもない。
床に寝そべって柔軟をするのではなく、バーに足をかける絵になる様子とか、
黒い大人っぽいレオタードのかっこよさとか、
トゥ・シューズのリボンを結ぶ様子とか。
ありすはピンクのレオタードの巻きスカートがひるがえるピルエットをできるようになりたいと言ってた。
わたしは、トゥ・シューズで美しく立つ様子にあこがれた。
そんな流れで習い始めたバレエは、とても楽しかった。
先生は泉みさとという名前で、ちょっと低めのハスキーボイス。レッスンではちょっとこわい。
生徒がくると、おはよ、と声をかけて、学校どうだった?と聞いてくれる。
助手の先生は大学生で、レッスンではあんまり喋らないけど、いつもニコニコしていて、ピルエット10回転を見せてくれた。
ありすはピンクのレオタードがとってもよく似合った。
生まれながらのプリマみたい!とありすのお母さんがいって、わたしのお母さんは、るいはそんな黒いレオタードで良かったの?
と不満そうに言った。
黒いレオタードのかっこよさをわからないなんて!
でも、ピンクのレオタードを着たありすを見ていると、わたしには似合わない、と思ってしまった。
わたしはそんなに可愛くないから。
でも先生は、ありすによく似合ってるね、と笑いかけた後に、るいもとっても素敵!お姉さんみたい、と言ってくれた。
その年の12月、初めての発表会がきた。
ありすはお友達みんなを招待した。
わたしも、何人かの仲の良い子を誘った。
ありすが誘った子の中には!ヤマトもいた。
ヤマトとわたしたちは、すっごく仲良しではなかったけど、風邪の時にプリントを持ってきたことから、ちょっとだけよく話すようになっていた。
ありすとわたしでバレエのチケットを渡したとき、ヤマトはバレエなんて聞いたこともないみたいだった。
「へー、ありすとるいがでるの???」
「うん!二つ目の作品だよ!るいちゃんと、あと同じ時間のレッスンの子と踊るの」
「すごいな!絶対見にいく!!」
ヤマトがそう約束して、わたしの心は浮き足だった。
レッスンを頑張って、上手に踊りたかった。
先生も、「今日はるいはすっごいやる気ね」と不思議がった。
その成果もあって、絶対失敗しないと思った発表会の日。
ありすはピンクの衣装。わたしは水色の衣装。
みんなで色違いの衣装を着て、メイクをしてもらう。
アイシャドウは青。唇は赤。
大人になった気分。
もうみんな来てるって!!!
誰かが楽屋でそう叫んで、小学生のみんなで、舞台袖まで見に行った。
袖のカーテンにくるまってみた客席は、ザワザワしてて、沢山のお客さんがいた。
すごい。
こんなにたくさんの人が、わたしの踊りを見る。
ヤマトがわたしをみる!
ゾクゾクする緊張感と興奮、高揚で瞳がぎらついた。
発表会は幼稚園児から始まる。
小さい子が舞台に上がると、かわいいーという無言の悲鳴が上がった。
バレエというよりは、体操みたいな発表が終わって、次はわたしたちの番だった。
音楽に合わせて体を動かす。
指先にまで神経を通して、頭はピンと糸で吊り下げられているように。
つま先を伸ばして、ここで遅れないように。
先生の注意と、カウントが耳の奥でよみがえる。
ライトがまぶしくて、客席はよく見えなかった。
でも、みんながわたしたちを見ていた。
最高にたのしかった。
余韻を残したまま、カーテンコールが終わる。
ロビーには、出演者と観客が入り混じって花束を渡している。
ありすとわたしもすぐに声をかけられて、花束をもらって、すごかった!と褒められた。
「おーい!」
男の子の声がして振り返ると、花束を二つ持ったヤマトとお母さんらしき女性がいた。
「バレエってなんかすごいな!」
ヤマトがにかっと笑った。
そして、ありすを見て顔を赤くした。
「今日のありすは、なんだかお姫様みたいだ」
「舞台でも、いちばんきれいだった!」
そう言って、ヤマトはありすに花束を君に押し付けた。
そして、わたしにも
「お疲れ様」
と笑って花束を渡した。
レッスンの時、泉先生は「るいが1番よくできてる」と褒めてくれた。練習の時の動画でも、わたしがいちばん上手だった。
年上のお姉さんもそう言ってくれていた。
でも、ヤマトは、そうは思わないの?
バレエが上手ってことは、きれいってことだ。
でも、バレエを知らないヤマトは、バレエが綺麗なんじゃなくて、見た目がきれいなありすをみていたんだ。
最高の発表会は、最低な発表会になっちゃった
恋愛小説ではなくバレエ小説になるところだった。。