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「楠木さんは……彼は、ただの職場の先輩ってだけだし……それに、送るって言ってくれたのに断ったのは私だから……今更、呼び出したり出来ないもん……」
「……アイツ、彼氏じゃねーのか……分かった、それじゃあもう少しだけ居てやるよ」
楠木さんが私の彼氏じゃないことが分かった大和はどこか嬉しそうだった。
大和がもう暫く居てくれることになり、ひとまず彼を部屋へ招き入れる。
「適当に座ってて。今コーヒー淹れるから」
大和に座るよう言った私は荷物を置いて上着を脱いで、手洗いうがいを済ませてからキッチンに立つ。
大和はベッドを背にして床に腰を下ろすとスマホを弄り始めた。
何だかこうしてその光景を見つめていると、付き合っていた当時を思い出す。
私の部屋に来ていたときもあんな風に寛いでいたなと懐かしくなった。
コーヒーを淹れてカップを持って大和の隣に腰を下ろした私。
何を話せばいいのか分からなくて、シンとした空間が気まずくて、おもむろにリモコンを手にしてテレビを付けた。
暫くテレビからお笑い芸人のコントの様子が流れていく中、大和が口を開いた。
「――何かさ、懐かしいよな、こうしてコーヒー飲みながら部屋で寛ぐの」
「……う、うん……そうだね」
「まさかまたこうして、お前の部屋に上がる日が来るなんて……思いもしなかった……」
「……私も、まさか大和を部屋に上げる日が来るなんて……思わなかった」
そんなやり取りをする中、大和が持っていたマグカップをテーブルに置くと、私からもカップを奪ってテーブルに置いてからそのまま顔を近付けてきて、
「――和葉」
「ちょ、大和……ッ」
不意打ちで唇を奪われた。
不意打ちだったから、拒む余裕が無かった。
不意打ちだったから……。
そう、言い訳のように頭の中で繰り返す。
触れるだけの、軽いキス。
大和の唇が離れて、視線がぶつかる。
「――ごめん。我慢出来なかった。和葉が可愛過ぎて」
「……また、すぐそういうこと言う……」
付き合っていた当時も、大和は『可愛い』とか褒める言葉をよく口にしていた。
褒められて嬉しくない訳じゃないけど、
それは彼女である私だけに言って欲しい言葉なのに、
浮気相手の女の子たちにも言っていた。
だから、今はもう大和に褒められるのは嬉しくない。
嬉しくないはずなのに、
「――和葉、会わない間に更に可愛くなった」
再び『可愛い』と口にした大和の手が伸びてきて後頭部に添えられると、
「……ん、」
二度目のキスをされた。
一度目は不意打ちだったから仕方ない。
でも、二度目の今は……
拒もうと思えば出来たはずだった。
それなのに、
拒まないどころか、
「……っん、……はぁ、……」
流されて、触れるだけの軽いキスから、大和の舌が私の咥内に侵入してきた激しいキスを受け入れている。