「甲斐田はどうしたい」
柔い声で恋人からそう問い掛けられる。
『不破さんに任せますよ、僕はずっと不破さんに着いて行くから。』
「本当に、ええの?甲斐田は嫌じゃないの。」
不破さんは必死に口角を上げようとするも、ただそれは苦笑をしている顔になる。でもこれが今、精一杯の不破さんの笑顔なんだろうと考えると微笑が溢れる。
『いいよ、僕は不破さんの事大好きだしなんなら最期まで離れたくないよ』
「…わかった、」
車に乗れば暗い夜道の中ただ車を走らせる。周りには何も無くて、月の光が落ちているだけ。
「な、はる…」
『どうしました?』
「…晴は、これでいいの?」
『いいですよ』
「でも、さ…」
『僕は不破さん一人で死んで欲しくない。一人で死んだら許さないよ』
「…うん」
なんで不破さんが「死」と言う言葉を使って話したのか分からない。でも、もう不破さんは限界なんだろうと自分だって分かっていた。「助けて欲しい」という不破さんの意思は知っていたのに、でも僕はそれを見て見ぬふりをしてここまで不破さんを追い詰めた。
『不破さん、今どう思ってる?』
「なんや、どう思ってるって」
『うーん、虚しい…とか?』
「にゃははぁ、…虚しくないって」
「…特に、何も思ってないで」
『そっか』
「晴は?」
『不破さんと一緒に居られて嬉しいな、って思うよ。』
「…んふ、」
照れて顔が赤くなってる恋人を直視出来ないのは凄く残念でかなしい。
『着いたよ、不破さん』
「…ありがと」
『転ばないでね?』
にやにやしながら馬鹿にするように言えば、不破さんは怒りながら軽く僕の足を蹴る。
「転ばんから!」
『いっ…だぁ゛!』
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「海って綺麗やなぁ」
『不破さんの方が綺麗ですよ』
「うっさい」
『照れてる、可愛い』
不破さんの頬を撫でると、もっとやってと強請るよう自身から手にすりすりする。
『もっとして欲しいの?』
「ん〜、」
『もー、素直じゃないんだから』
「ふふ、晴かわいい」
『不破さんの方が可愛いってば』
「俺からしたら晴の方が可愛いんですー。」
『分かった分かった…』
「…寒いなぁ」
確かに、昼と違って夜は寒い。太陽は僕たちを暑く照らすが、何故夜の月は只僕たちを輝かせるだけなのだろう。考えるだけ無駄なのか…
『海の中入ったらもっと寒くなるのにそんなこと言ってて大丈夫なの?』
「大丈夫やって」
『風邪ひかないでね』
「…もう、風邪ひかんよ」
『たしかにそうだね』
「なぁ、晴は怖くないの?」
『不破さんと一緒だから怖くないよ』
「…そー?」
『はい』
「…海ん中入ろ」
不破さんが僕に細い手を伸ばせば、その手を軽く掴む。
『うわっ、つめた』
「当たり前やろ」
『ふふ、そうですね』
「晴、すき」
『僕は愛してますよ』
「んー、ならおれも」
『ならってことは便乗しただけで本当は…』
「はぁ?!考えすぎやろそれは」
『冗談ですよ』
いつもと変わらない雰囲気。心地好くて、またずっと不破さんと一緒に居たいと願ってしまう。
身体の半分以上を海水に濡らせば、後は波に身を任せる。
「はる、ぎゅーして」
『いいですよ』
体が濡れている事で不破さんの温もりは無い。でも、背中に当てている手は少し震えていた。それは寒さからなのか、恐怖からなのか。
「生まれ変わっても、俺と一緒にいてくれる?」
『もちろん。逆に僕以外の所行ったら許さないけどね?』
「行くわけないやろ」
『うん、知ってる』
まあ、生まれ変わらなくても、死んでも愛してるからね。
そう独り言を本人に聞こえないように呟けば、二人は海へと呑み込まれる。
コメント
11件
もう本当に最高です ありがとうございます☺️ 号泣しました😭
題名ないから「ん?」って思ってたら内容が本当に感動して、題名無しに値する作品だった😳それ出来るねねぎさんほんとにすごい…✨️一緒についてきてくれる甲斐田をずっと心配するふわっち、申し訳ないと思ってんだろうな…😖💞でも置いていかれるのは嫌な甲斐田の一緒に○ぬっていう意思が強くて安心しちゃいそう😌こういうネタが合うおふたりですね💘
えええ😭泣けますし 語彙力ありすぎませんか!?😭🫶🏻 しねたも最近ハマってきてもうほんとに好きです!!🥲