見上げると、白髪の目立つ、優しそうな女医がいた。
「は、はい。そうです」
少しどもりながら涼ちゃんが答える。
「大森さんのご容態についてご説明しますね」
そう言って彼女は歩き始め、僕達はついて行った。
連れていかれたのは診察室だった。
椅子を進められ、腰掛ける。
「大森さんが生まれつきてんかんを患っていらっしゃったことはご存知ですか?」
僕は頷く。
元貴がこのことを話した人はそう多くはないだろう。
「おそらく大森さんはおなじ薬を長らく服用されていらしたので、効果が薄くなってしまったのだと考えられます」
「じゃ、じゃあ。悪化したとかでは、ないんですよね?」
少し声が大きくなってしまったと思い、俯く。
「はい。お薬を変えたら大丈夫ですよ。すこし体が慣れるまで吐き気や頭痛など副作用が出るかもしれませんが。薬を変えて今日発作が起きなければ、一応明日には退院できますからね。でも1ヶ月は1週間に1回、来月からはしばらく2週間に1回は検診に来ていただくことになります」
「全然大丈夫です!」
涼ちゃんが答える。元貴に言ってもないのにね。
「また、音楽関係のお仕事をされいるとの事ですが、少なくとも1ヶ月は安静にしていただきたいです」
「はい!」
涼ちゃんが答える。声が震えていたので見るとポロポロ涙を流していた。
女医さんが微笑む。
「…ごめんなさい。ほっとして、嬉しくなっちゃって…」
僕は手を伸ばして涼ちゃんの震えている手を握る。みんな怖かったんだ。
「大森さんに早くお会いしたいですよね。案内しますよ」
僕達はまた彼女について歩いた。
彼女が病室のドアを開けると、点滴と心電図に繋がれて眠っている元貴がいた。
僕達はベッドの隣に腰掛ける。
元貴のくまってこんな濃かったけ。
肌ってこんなに白かったっけ。
こんなに細かったっけ。
小さかったっけ。
しばらく僕たちは黙っていた。
涼ちゃんは泣き止んで、元貴の手を握りながらウトウトしていた。
僕は元貴の柔らかい髪を撫でた。
連絡しなきゃとかそういうのはもうどうだって良かった。
こうやって3人だけの空間って忙しすぎて久しぶりだった。
元貴のまぶたがぴくりと動いた。
手も動いたのか涼ちゃんが飛び起きた。
元貴の目がパチリと開いた。
いつもと変わらない目。
「元貴 、気分はどう?気持ち悪くない?」
「ん、ちょっとだけ」
「元貴!」
涼ちゃんはまた泣き出しちゃった。
「…ごめんね 。怖かったよね」
元貴が呟いた。
「隠してて、ごめん。言うべきだってわかってたけど、怖かったんだ。みんなそうやって離れていっちゃうから」
僕はなんていったら良いのかわかんなかった。
そんなことないよ。なんて言えない。中学の時、さんざんそれを見てきたから。
でも僕に言えるのは
「僕達は離れないよ」
元貴の怯えるような目を見て言った。
コメント
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続き待ってます🥹 (結構真面目に涙目になった🥹)
リアルでめっちゃ好きです!
続き楽しみに待ってます!!