GW5日目。
俺たちは家から少し離れたところにある公園に来ていた。
「「ついたー!」」
先に広場についた真依と瑠輝が思いっきり叫ぶと、その声は遠くまで響き渡り、広場に来ていた人たちを振り向かせた。
そのまま走りまわる二人に俺は大声で注意する。
「周りに迷惑かけるなよー!」
そんな声が届いたのか分からないが、真依と瑠輝はそこまで遠くには行かずに駆け回っていた。
GWでたくさん人がいるかと思っていたが、連休にしては全くと言って良いほど遊びに来ている人が少なかった。
いるのはカップルと家族くらいが数組くらいで。これなら周りを気にせず伸び伸び遊べだろう。
広場を囲む並木の一本の下で、木陰を見つけて荷物を置くと、遅れてやって来た春良も隣りに荷物を下ろした。
「兄さん、自分たちのことはいいの?」
「は?」
質問の意図が分からず振り向くと、春良はレジャーシートを取り出して側に広げている。
「周りに迷惑かけるなよって」
「俺らはかけてねぇ。毎日喧嘩してるわけでもねぇし」
「へぇー。このあいだのバイク走行は良いんだ?」
「…………」
苦虫を噛み潰したような何とも言えない表情で(実際に何も言えないのだが……)俺が黙っていると、春良はクスクスと笑いながら「冗談だよ」と靴を脱いでシートの上に座った。
「別に棚に上げて注意しても良いと思うけどね。あの時は真依と瑠輝も楽しそうだったし」
「そりゃぁ二人に見せるためだけの暴走だからな。一応、警察に見つかる前の20分間の距離で終わられるようにもしたし」
俺らみたいなのは本来、幼い子の教育上良くないだろう。
だから大きくなっても暴走族なんてものに入らず、真面目に学校生活を送って欲しいと思っているし。
大怪我をするようなことは絶対にして欲しくない。
まぁこの間は、カッコイイ姿を見せたくてやったけど……。
「おにぃちゃーん!」
「にぃーちゃん!」
お、戻ってきたか。
息を切らしながら俺と春良のもとに来ると、真依と瑠輝も楽しそうに顔を綻ばせた。
「ふりすびーしよ!」
「ふりすびー!」
さっそくフリスビーか。倉庫で下の奴らが遊んでたのが、だいぶ羨ましかったんだな。
二人の言葉に春良はおもちゃが詰まった鞄から黄色いフリスビーを取り出すと真依に渡した。
瑠輝は俺の服をぐいっぐいーと引っ張ってくる。
「ふりすびーするー!」
「分かった分かった。春良もするか?」
「俺は荷物番してるよ。瑠輝も真依も秋兄と遊んできな」
「「はぁーい!」」
立ち上がると広場の中央まで歩きだす。
途中で真依と瑠輝に待機するように言い、数十メートル離れた所で振り返った。
真依と瑠輝の立つ方向の遠くの後ろでは、早速、春良は携帯を弄りながら寛いでいた。
春良は最近高校生になったばかりだ。
無事に第一志望の高校受験に合格して、入学して。やっと授業やクラスメイトに慣れた頃だろう。
今まで気を張ってただろうし、ゆっくりさせておこうかと思って、俺は真依と瑠輝を見て手を上げた。
「いいぞー!」
声を上げると、楽しそうに話しをしていた真依と瑠輝が反応する。
「いくよー!」
真依が器用にフリスビーを投げると、弧を描きながら中間の芝生にパサッと落ちた。
まだ幼い真依の力では投げられる距離はこんなもんだろう。駆け寄って拾い上げると、ちゃんと飛ばせた真依を褒める。
「真依、上手だなー!」
「いぇーい!」
得意そうにピースする真依の隣りで瑠輝はパチパチと手を叩く。すると見ていた瑠輝もやりたくなったのか、手を上げてアピールをしだした。
「にぃちゃー!」
ぴょんぴょんとジャンプして身体全体で意思表示する瑠輝はやる気満々だ。
「いくぞー!」
「「いいよぉ!!」」
足を広げて構える二人。その真剣さに俺は吹き出して笑ってしまう。
にしても、フリスビーなんて久しぶりにするな。小学校の頃の昼休み以来か?
あまり力を入れずにやらねぇと……。
そう思いながら小さく腕を振って投げたつもりだったが、フリスビーは真依と瑠輝の頭上を通り過ぎ、二人は叫びながら追いかけていた。
力加減、普通にミスったわ!
走って追いかけていた真依が後ろの方で落ちたのを拾うと瑠輝に渡していた。
「はい、るき!」
「ありがとっ!」
旗から見てると微笑ましい様子に思わず頬が緩む。
真依も瑠輝も家じゃずっと側にいるから仲が良いし、頼りになる真依とそれを見て真似をする瑠輝は確実に色々と出来るようになっていた。
瑠輝はフリスビーを受けとると、両手で持って前に投げた。
「やぁっ!」
フリスビーは足下にぽてんっと落ちる。
「………………」
飛べてないフリスビーに、流石に3歳には早かったかと思い至る。けれど、真依と瑠輝は楽しそうにしていて、ひたすら拾って投げてを繰り返して遊んでいた。
しかも、投げ方を教えようとしてるのか、真依は腰を捻って投げるフリをする。
それを見た瑠輝も身体を捻じ曲げながら投げると、最初より少し離れた所へとフリスビーが落ちた。
それを見て、俺は呆然とする。
真依の教え方、すげぇな……。
「るき、じょーず!」
「えへっ!」
褒めてやる真依と、褒められて喜んでいる瑠輝の和やかな雰囲気に、俺はだんだん羨ましさを覚えて大きな声で話しかけた。
「こっちくれー!」
近くまで歩いて行き数メートルまで距離を縮めると、瑠輝が慎重にフリスビーを構えて溜め込んでから投げた。それが俺に腹に当たる。
「う”ぉ!?」
「あはは! おにぃちゃんへんな声ー!」
まさかの勢いに吃驚して、自分でも訳のわからない声が咄嗟に出た。
腹に食らったことでその場に膝から崩折れると、真依と瑠輝は面白そうにお腹に手を添えて笑っていた。
──とは言え、成長したことは喜ばしく。
「瑠輝上手くなったなぁ……!」
と瑠輝を褒めると、両手でVサインをして「にー!」と歯を見せる。
「じゃぁ今度はキャッチしろよー!」
「はーい!」
「はーい!」
俺はさっきよりも軽く投げると、フワリと浮かんで真依の方に流れて行った。
吸い込まれるようにやって来たフリスビーを真依としっかりとキャッチする。
今度は上手く投げれたことに、内心でガッポーズをしていると、キャッチ出来た真依と瑠輝も有頂天になってはしゃいでいた。
「できたー!」
「よぉし。今度は俺が真依のを受け止めとるからな!」
「うん!」
真依が投げたフリスビーは大きく飛んで、斜めに反って行くのを慌てて伸ばした右手の指先にパシッと当たり、ポトリと落ちそうになったのをどうにか掴んだ。
「取れたぞー!」
「すごーい!」
「おにぃちゃんすごぉい!」
その後もあっち行ったりこっち行ったりするフリスビーを捕まえながら浸すら順番に投げ合って遊んでいると、しばらくして息を切らす真依と瑠輝の様子を見かねて、一度休憩を挟むことにした。
小走りで荷物の置かれた春良のところまで戻ってくると、休憩をしにやっきた俺たちに気づいた春良が荷物を弄りだした。
中から水筒を出すとコップを並べていく。
「お疲れ様。今オレジンジュース用意するね」
「頼む……」
「「つかれたー!」」
真依がバタンと座り込むと、瑠輝はぴょんっと跳ねてからその場に座り込む。
「はい、瑠輝」
「ありがとっ!」
笑顔でお礼をする瑠輝に、伝染したように春良も微笑んで「どういたしまして」と返していた。その様子に俺も頬が緩む。
疲れて後ろに仰け反る身体を腕で支えていると、緑陰を渡る風に髪を撫でられた。
……木陰はやっぱり涼しいな。
「真依はピンクのコップで良かったよね?」
「うん!」
春良と真依の会話に哄笑が漏れる。
最近、保育園でピンクの花を見つけたらしい真依は、その花が印象深くて忘れられずにいるのか、ことあるごとにピンク色の物を探すようになった。
何かを見つけては指差す先には、殆どの確率でピンク色の何かがあるのだ。
よっぽどその時に見た花が気に入ったんだな。紀子さんも好きな花だと言ってたし。
紀子さんからの口伝てでしか聞いてないからが、詳しいことは知らないが、小さな可愛いらしい花らしく。庭に植えたいが、初めて見る花の名前を紀子さんは分からずにいるらしい。
真依にオレンジジュースが渡ると、適当に持って来たプラスチックのコップに俺の分を注いで、春良から手渡されたものを喉が乾いていたのもあって一気に飲み干してしまった。
「おかわりでしょ」
「あぁ。あとで自分用の買って来るかな」
「そうだね。これじゃぁお兄さんだけで飲み終わっちゃいそう」
確かにと思い、「後で行ってくるか」と呟く。
「今日は天気良いから水分補給はこまめに取らないと熱中症になちゃうね。あぁ、そうだ。汗も拭かないと」
「あ、だな。1枚くれ」
「瑠輝の身体もよろしくね」
「分かってる」
春良は荷物の中からタオルを2枚取り出すと、1枚を俺にくれた。先に瑠輝の服を捲って上半身を拭くと、俺も身体を拭いた。
その間、春良は器用に真依の身体を拭いて、飲み終わったコップを回収する。
休憩が終わった瞬間から真依の元気な声が野原に響き渡る。
「おにぃちゃんやろー!」
直ぐに真依がフリスビーを持って立ち上がると、瑠輝も立ち上がり俺の手を引張ってきた。
「にーちゃ!」
「復活するの早いだろ……」
「「おにぃちゃーん」」
「分かった分かった」
休憩は終わりだな。
重たい身体を「よいしょ」と言って立ち上がらせると、フリスビーを持って中央へ向かおうとした。
日向に出た辺りで、ふと遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。
「真依さーん!瑠輝さーん!」
この声はアイツか……?
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