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※カップリング要素(水赤)、関係操作、年齢操作有
※赤さん女体化※
当小説はnmmnです。公共の場での閲覧はお控えください。
閲覧は自己責任でお願いします。
「…はぁ、」
小舟の上、醜怪極まりない釣竿を深い海に下げ、思い切りため息を吐く。
僕は稼ぎの少ない漁師だ。
自給自足なので稼ぎは少なくても多少は補えるが、なんせ個人でやっているので僕一人への負担がすごい。
しかし、この小さな村で生まれ育った者は皆漁師の道を歩むという、ある種暗黙の了解のようなものがある。もちろん僕もその一人だ。
数人で漁をする者もいれば、僕のように一人で小ぢんまりと漁をする者もいる。
どちらを選ぶかは自由なのだが、これがまあそれなりの力仕事なもんで、大抵の人間は断然前者を選ぶ。
しかし、僕が後者を選んだのにはきちんと理由がある。
それは__
「…!いむ…っ!」
村からうんと離れた南西の孤島の岩陰に、僕よりも一回りほど小さな人影。
周囲をキョロキョロと見回し他に誰もいないことを確認すると、警戒心はどこかへ置いてきたかのように安堵の表情を浮かべ、矢庭に僕の小舟へ駆け寄ってくる。
「久しぶり。二ヶ月ぶりくらい?」
「ううん、きっと私それよりいくつも長い間待ってたよ。人魚の私が言うんだから間違いないよ!」
わしわしと頭を撫でてやると、たちまち朗らかな表情を浮かべる。
彼女との出会いは三年前。
父と漁をするために船で移動していた時、突然嵐に遭いたまたま僕だけこの孤島に遭難した日が彼女との「初めまして」。
今日と同じように、岩陰から顔を覗かせ僕をじっくり頭からつま先まで観察したのち、「人間ですか」と尋ねてきた。
僕が人間でなければ、他に何があるというのか。
そう思いつつ、「君は違うの?」と問いかけると、彼女は何も言わずそっと岩場へ腰をかけた。
僕は驚いて腰を抜かしそうだった。
無理もない。僕ら人間でいう足が付いている部分に、立派な尾鰭が見えたのだから。
明媚な海に一際目立ったその艶やかな赤い髪。
目を奪われるほどに美しい鱗。
眦を緩め穏やかに此方を見つめる仕草。
刹那、僕は目を奪われた。
可憐な人魚の彼女に、恋をしてしまいそうだった。いや、正確にはしてるんだけど。
それから数ヶ月に一回、不定期とはいえ必ず年に数回は顔を合わせている。もちろん、村の人たちには内緒で。
「ねぇ、歌を聴かせてよ。」
「いいよ。いむったら本当に好きなんだね。」
自身への要望に眦を緩ませ、すぐに歌い出す。
惚れ惚れする歌声で、海の幸をも魅了してしまいそうなほど美しい声色。やがて波も躍り出し、まるで彼女が海を操るような光景を見ていると、きっと聴いた者は皆して肺腑を衝かれるのだと、言い切れてしまう。
それなのに、この素敵な歌を聴けないなんて僕の村の人間はたいそう可哀想だと思った。
“人魚の歌を聞いた者の船は沈んでしまう”という言い伝えが古くから僕の村には存在していて、なんでも昔不意に人魚の歌を聞いてしまった船員達が一人残らず帰らぬ人となってしまったらしい。
今では紙芝居として新たな村の子供達にも伝承しているのだから、まったく僕の故郷は物騒だなと思う。
「~~…♪」
(…ずっとここにいたい。)
すっかり彼女に惚れてしまっている僕は、そんなことを思う日だってあった。
現に今がそうだ。ずっと岩場で彼女の歌を聴いていたいし、できることなら付き合ってくださいと勢いで告白までしてしまいたいと思うほどに彼女を恋い慕っている。
しかし、そんなカミングアウトは微塵も彼女のためにならなし、むしろ彼女自身に危害が及ぶ方が可能性としては高い。
なんせ僕の村はこの世界で一番と言ってもいいほど人魚を忌み嫌うのだから。僕が彼女を村へ連れ、僕か彼女どちらかが口を開こうもんならたった数秒で四方八方から槍でも飛んでくるだろう。
そんなことが容易に想像できるというのに、それを知った上でわざわざ村へ招待する者は果たして存在するのだろうか。
「好きな子○ぬかもしれないけど村来てほしいから案内しよう!!」
なんて常軌を逸した発想ができる人間はおそらく、人間に化けた魔物か何かくらいだろう。少なくとも僕のような常人では一生思い付かない。
「~…♪、」
「…はい、おしまい。」
「ありがとう。やっぱり歌が上手なんだね。」
「…ふふっ。初めて会ったときも思ったけど、いむは不思議な人だね。」
「え、そう…?りうちゃんの方が不思議じゃない?だってホラ…人魚だし…。」
僕を不思議だと言うが、言葉の意味が悉皆理解ができなかった。
むしろ世間的に見れば彼女の方が余程珍しいだろう。
「んふふ、そうじゃないよ。」
「いむは人魚の私を見たとき、網や罠で私を捕まえたりしなかったでしょう。」
人魚を捕まえるなんてとんでもない。そんなの、生き物に対してするようなことではない。当たり前のことだ。
それなのに、彼女はそれを不思議だと言う。
たった一言で、僕たち人間が如何に彼女たちに酷い仕打ちをしたかが分かってしまう。
「優しい人なんだよね。」
「そう…かなぁ……。」
ただ彼女に危害を加えなかっただけで、こうして今は彼女と親しく話しているわけで。
下心も…まぁ…「無い」とは言いきれないのに、僕は本当に優しいのだろうか。
「分からないって顔をしてる。」
「だって分からないよ」
そこからしばらく数秒間の沈黙が流れる。
変わらず海は勢いよく音を立て波を打ち、このままボーッとしていたら飲み込まれてしまいそう。
気がつけばすっかり日は落ちていて、蒼穹から打って変わって橙色の空が姿を現す。
帰らなくてはいけない。
そう思わせる空の色。
「…帰っちゃうの、」
「………うん」
燃えるように赤く、どこか侘しい彼女の瞳。
そんな瞳は今、僕だけを捉えている。
それが無性に嬉しかった。普段海で海草や魚など沢山の生物を見ている彼女が、今は僕一人を見つめているのだから。
「また、会いに来るよ。」
「……寂しい」
「…僕も」
近頃、この場所へ来ると動悸がする。
緊張して、汗が出る。それなのに僕は妙な幸福感に満たされていて、もっともっとこの場所に留まりたくなる。
きみと、いたい。
この一言を伝えるのが、どれほど難しいか。
彼女は人魚で、僕は人間。
僕の住む場所で彼女はうまく歩くことができないし、彼女の住む場所で僕はうまく呼吸ができない。
どうやったって、僕らはひとつになれない。
…そもそも、彼女が僕をどう思っているかすら分からないけれど。
「…待ってる。」
「すぐ、会いに行くよ。」
「………うん。」
岩場から離れ、船の用意をする。
また数時間船に揺られ、男くさい村へ帰る。
どすん。
僕が船に乗り、いざ進むぞ、というタイミングで彼女が僕を呼び止める。
「……いむ!!」
眉を顰め、美しく輝いた瞳からぼろぼろと涙を零している。憂いを帯びた彼女の顔。
艶やかな髪は、風に撫でられ四方八方へ広がっている。
「……っ、すきだよ…!!!」
精一杯息を吸って、精一杯大声を出したのだろう。少し裏返った声のせいか、僕まで泣きそうになる。
幸せな言葉とは裏腹に、酷く翳りのある表情。
僕には、その表情の理由が分かる。
「………っ」
ごめん。ごめんね。
僕は君を心から好きなのに、僕は、ここで無責任に「好きだ」なんて返せない。
彼女の表情を心残りに、僕は何も言わず船を漕ぎ続ける。
また、逢おう。
「……りうちゃーん…?」
二年ほどが経過し、あの日よりも大人びた顔でいつもの岩場へ赴く。
「…!いむ!!」
すると、彼女は岩陰から顔を覗かせ嬉々として僕の名前を呼んだ。
すっかり大人の顔になったなぁ、と。我ながら老けた考えだなと思う。
「久しぶり」
「ホントだよ!四ヶ月を超えたあたりからもう来ないんじゃないかって不安だったんだから!」
「ええ!?まっさかぁ!」
彼女に会えないなんて、僕が耐えられないというのに。この二年間、毎日彼女の顔を見たくてどうしようもなかった。
「…ねえ、りうちゃん」
「なあに、どうしたの?」
自分でも急だな、と思うが、僕は彼女の名前を呼ぶ。
「…いつも、りうちゃんが僕に歌を聞かせてくれるじゃない?」
「?、そうだね?」
急にどうした、といった顔の彼女を前に、僕は数秒呼吸を置くこともせず滾滾と話し続ける。そうでもしないと、今すぐ海へ身を投げたくなるほど恥ずかしくなってしまいそうだから。
「…だから、今日は僕からりうちゃんに贈り物をしようかなって。」
「ええ!嬉しい…!」
あの日の言葉を、僕は一日たりとも忘れたことがなかった。
「すきだよ」 と。
そう告げたあの日の彼女の表情を、無かった事にしたくなくて。
どうしたら僕も思いを伝えられるかと、毎日考えた。
「…目を、瞑ってくれる?」
「……?うん。」
優しく、優しく。
脆く美しい彼女を、守るように。
両手で持ったその薄い布を、そっと彼女の頭へ被せ、顔を覆う。
「……はい、いいよ」
「…?」
ゆっくりと目を開ける彼女は、まるでこの世に存在しないような。すこぶる儚い彼女を見ていると、僕はまるで天国にいるのではと錯覚するほどだった。
「……ベール、って言うんだけど」
「べーる…?」
「……結婚式とかで、花嫁さんに着せてあげるものなんだけど。」
「はな、よめ……。」
「…………え!?!?」
「…ふふっ、」
大きく目を見開いて、「花嫁」という言葉に反応する。
あの告白の答えだ、ということが伝わったのだろうか。
「ほ、ほんとに……っ?」
「うん。僕もすきだよ」
彼女は人魚で、僕は人間。
それぞれ違う生き物だけど、僕らはたしかに愛し合っている。
「〜〜…!!っぅぅう……!!わたしぃ……っ、ほんとにずっとすきだったのぉ…!!」
「でも、陸をあるけないから…っ、諦めるしかないとおもってて…、でも、あのひ、我慢できなくて…っ」
何度も息を吸いながら、必死に必死に僕へ自分の思っていたことを告げる彼女。
陸を歩けない。
厳密に言えば、歩けるようにはなれる。
人間の姿になれば、可能ではあるけれど。
一度陸に上がった人魚は、海へ溶けて消えてしまう。そういった掟があるらしい。
「だから、いむに嫌われちゃったかなって…、人間じゃないのに、きもちわるいかなって不安だったの…っ」
ぼろぼろと涙を零している。
あの日とは違った、明るい顔で。
「…りうちゃん。」
「どうしたの、いむ……っ」
優しく彼女の名前を呼ぶ。
僕も彼女も、心の底から明るい笑顔で、互いの名前を呼び合う。
「もう一度、目を瞑って」
「うん…!」
僕ら以外、誰もいない孤島。
心地よい朝日の差す白い砂浜で、照らし出された僕らの影が近づく。
「改めて、好きだよ。りうちゃん。」
「うん、私もすきだよ、いむ…!」
誰にも内緒の結婚式。
ベールに包まれた彼女は、またもや僕の目を奪った。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
めちゃくちゃ急いで書いたせいで展開がぐちゃぐちゃですね
でも完成させたから許してください!!
あと終わり方がマジ難しかったです!!
綺麗に終わらせるの苦手すぎる
そして!おそらく今年最後の小説です!
書き納めみたいな笑
ハッピーエンドで終わってよかったです
てことで2024年(の、だいぶ後半からでしたが)ありがとうございました!
2025年もよろしくお願いします!!