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「俺と付き合ってくれ。」

俺は目の前に立っている綺麗な空色の髪のウマ娘に話しかける。

「…….トレーナーさん…….。」

前に居る担当は目をきょとんとさせて、俺の方を見つめながら言葉を零す。

俺と担当の間に少しの間静寂が広がる。

「…….ごめんなさい。」

担当は静かにそう呟いて頭を下げた。

「そう…か…ならいいんだ。変な事聞いてごめんな。」

俺は苦笑いをしながら頭を搔いた。

「いえいえ!私も答えるのに時間を使ってしまい申し訳ありません。それじゃあ、私はこれで…。」

俺の担当が横を通り過ぎる。


ギィィ…バタン…


乾いたドアの音がトレーナー室に響いた。

「…….は、はは…….ダメだった…….。」

俺はただただ苦笑いを崩さないまま部屋の真ん中で立ちすくんでいた。

頬には涙の跡が付いていた。




「来週から始まる『トレーナー強化週間』の準備はできてるか?後輩くん。」

夏休みが始まってすぐのこと、冷房が効いた部屋の中でパソコン作業をしていると、先輩から声をかけたられた。

「はい!これで大丈夫だと思います!」

「どれどれ…?うん、大丈夫だね!」

先輩は俺のデスクトップ画面を見た後、小さく頷いて、手でOKマークをしてくれた。

「ありがとうございます!」

「いいよいいよ!ほら、お疲れ様のご褒美。」


コト…。


俺のデスクに缶コーヒーが置かれる。

「明日が楽しみですね先輩。」

俺は缶コーヒーを開けてコーヒーを流し込んだ後、先輩に話しかけた。

明日から、現役を引退したウマ娘本人達によるウマ娘の体の構造やレース、ストレッチ方法などを教わる『トレーナー強化週間』という夏期講習の初日が始まるのだ。

「そうだね〜、今思ったんだけどさ、なんで後輩くんはなんでそんなに今回のプロジェクトに積極的なの?」

先輩が俺の前のデスクの椅子に座って話しかけてくる。

「なんで…ですか…?」

俺は先輩の質問に対して少し考えた。

そして、俺はこう呟いた。

「『有望なトレーナーをどんどん輩出したいから』ですかね。」




俺は、1年前まで日本ウマ娘トレーニングセンター学園《通称:トレセン学園》でトレーナーをしていた。

担当はあの硝子の脚と言われたメジロアルダンだ。

同期のウマ娘たちが次々とデビューしていく中、彼女は脚の不調を理由にデビューできないでいた。

彼女が最後のデビュー戦に選んだレースはまさかの短距離レースのダート。彼女の脚質には全く合っていない。

俺もたづなさんもその無謀な挑戦に1度引き止めたが、彼女の強い意志に負け、彼女の最後の挑戦を見守った。

彼女の最後のデビュー戦はレース直前まで大雨だった影響で超重馬場。そんな最悪な状況の中、レースは始まった。

レースの結果はまさかの1着、これも彼女の精密な練習メニューの賜物だった。

「す…すごい…。」

俺は彼女のレース運びに思わず手を叩きながら呟いてしまった。

レース後、アルダンが俺の元へ歩いてきた。

「あら、来てくださったんですね、ありがとうございます。」

アルダンは俺の方を向いて一礼した。

「いやいや、こっちこそいいレースを見せてくれてありがとう。」

彼女の言葉に俺も一礼しながら返事した。

「ふふっ…それでは、あの時言ってくださった言葉をもう一度お願いします。」

彼女は微笑みながら話す。

「ああ、当たり前だ!」

俺は、彼女の綺麗な紫色の目を見つめながらこう言った。


「君を担当させてくれ、メジロアルダン。」




その日から、メジロアルダンとのURAファイナルズを目指す日々が始まった。

彼女が日頃手に持っているタブレット端末を元に1日の練習メニューや疲労度の管理、食事バランスなどもしっかりと管理した。

そんな十分すぎる管理のお陰か、日々の練習による疲労が減り、練習メニューも着実にこなせるようになっていた。

レースでも結果を出せるようになり、日本ダービーや天皇賞・秋などで1着を取るなど、非常に素晴らしい戦績を残していった。

そして、URAファイナルズの準々決勝、準決勝も順調に勝ち上がっていった。

「準決勝1着おめでとう、アルダン。」

パドックに帰ってくたアルダンに俺は声をかけた。

「トレーナーさん、ありがとうございます!」

彼女は俺の方に駆け寄ってくる。

「ついに、次は決勝だな。」

「…はい!」

「このままの調子のアルダンならきっと大丈夫だよ!それじゃあ、部屋に帰ろうか。いつもの脚のマッサージをしないとな。」

俺は荷物を置いている控え室に向かう。

「はい!トレーナーさ___」

彼女が俺の後を追おうとした時だった。


ズキッ…!!


「っ…….!!」

ほんの少しだが、脚に痛みが走った。

「ん?どうした?アルダン。」

彼女が後ろからやって来ないのを心配したのか、後ろを振り向いて話す。

「…….あ!ごめんなさい!すぐそちらに向かいますね!」

「わかった!」

そう言いながら俺は再び前を向いた。

「…….もう少しの間だけだから。」

そう呟きながら彼女は脚を撫でて、控え室に戻った。




「よし、今日のトレーニングはここまでにしよう。決勝前日にあまり負担をかけるのも良くないからな。」

決勝は明日となった夕方の時間帯。アルダンと俺は早めに練習を終えて、明日の為に力を残す事にした。

「トレーナーさん、少し我儘を言っても大丈夫ですか?」

彼女は俺の顔を見ながら話す。

「どうした、アルダン。」

「実は、この後自主練をしたいと思っているのですが…よろしいでしょうか。」

「流石の俺でもそのお願いは了承できないな。練習も大事だが、アルダンの体が最優先だ。」

彼女の体は硝子のように脆い。

ただの練習でさえ、疲労が溜まると脚の怪我につながりかねない。

「無理はしません、だから、どうか…」

「駄目だ。君の体調の___」

「___トレーナーさんまで、そんな事を言うんですか?」

「………..。」

彼女の目が真剣だ。

その真っ直ぐで真剣な目線が俺の目に入ってくる。

「…そんな言葉、私の担当の医者から耳にタコができるくらい言われました。でも、私は叶えたいんです、URAファイナルズで優勝するという夢を…。」

「アルダン…。」

彼女の力のこもった言葉が俺の心に刺さる。

「だから…トレーナーさん…私の我儘を聞いて下さりませんか…?」

彼女の手をふと見ると、握り拳が作られ、細かに震えていた。

(アルダン…それだけの覚悟を持って…)

俺は、彼女の方を向いてから、話し始めた。

「アルダン、わかった。自主練してもいいぞ。だが、あまり無理はするなよ。明日のレースに響くからな。」

「トレーナーさん…感謝しきれないです、ありがとうございます。」

「それじゃあ、俺は明日の準備をしてくるよ。体に少しでも熱が篭もり始めたら寮に帰るんだよ。」

そう言いながら、俺は彼女から離れた。


「___あの時、彼女の不調に気づいていたら。」


「…よし!まずは軽いランニングから…!」


ザッ…!ズキン…!!


彼女の脚は昨日より更に痛みが酷くなっていた。芝を踏みつける度に痛みが走る。

「っ…….!!もう少しだから…….!!耐えて、私の脚…….!!」

薄暗い中、彼女は痛みに耐えながら練習を始めた。




次の日、俺は控え室に向かった。

しかし、アルダンの姿は無かった。

「彼女が寝坊…?珍しいな…。」


プルルルル…プルルルル…


そんな時、静かな部屋の中で着信音が響いた。

「…….チヨノオー?」

着信の画面にはアルダンの友人でライバルでもあるサクラチヨノオーからだった。

「もしもし?アルダンのトレーナーだけど___」

「アルダンさんのトレーナーさん大変です!!アルダンさんが___」



俺は控え室から飛び出した。

そして、トレセン学園から近い病院に向かった。

「アルダン…嘘だよな…?」

俺はひたすら走った。

「アルダン…嘘だよな…!?」

ただひたすら、ひたすらに…。


「嘘って言ってくれよ、アルダン…!!」


俺は、大雨の中、走って彼女が居る病院へと向かった。




彼女の脚は限界を超えていた。

チヨノオーの話によると、彼女は朝練をチヨノオーとしていたところ途中で倒れ、そのまま動かなくなってしまったらしい。

俺は、人工呼吸器を付けているアルダンの横で静かに座っていた。

「…….ごめん。」

1時間ほど前から、『ごめん』としか言えなくなっていた。

「…….ごめん。」

「………..。」

いくら謝っても謝りきれない罪悪感と責任感で押しつぶされそうになっていた。

どれだけ謝っても、アルダンからは返事が無い。

「…….アルダン。」

俺は彼女の手を優しく握った。

まだ少し温かい手を優しく握り続けた。

彼女の手には大粒の涙が付いていた。




トレセン学園には俺に関する悪口が理事長やたづなさん宛に届いていた。


「あんな奴トレーナーの資格ない。」


「あんなクズトレーナーの担当になったメジロアルダン可哀想だよなwww」


「トレーナー辞めちまえよwww」


そんな苦情の電話が鳴り止まなかったらしい。

そして俺は強制的にトレーナー業を引退させられた。救いとして理事長の傳でトレーナー育成学校の常任教師になれて今に至る。

今では生徒や先輩からも慕われる教師になる事ができた。でも、俺は今でもメジロアルダン…担当バに悪い事をしてしまったと心に後悔が残っている。




「おーい、後輩くん?」

「…….えっ?」

「どうした?なんかボーッとしてたけど。」

先輩が俺の顔を覗き込みながら手を振っていた。

「す、すみません…!少し考え事を…。」

「へぇ、後輩くんにしては珍しい…。ま、いっか!ほらほら、今から今回のプロジェクトの協力者であるメジロ家の方々がやってくるよ!しっかりしな!」


バチンっ!!


「っ〜〜!!先輩もう少し加減してくださいよ!!」

背中がヒリヒリ痛い、多分だが背中に手の跡が付いているだろう。

「眠気が覚めただろ?ほら、行くぞ!後輩くん!」

「…はい!!」

俺は残っていた缶コーヒーをぐいっと飲み干して、先輩の後に着いて行った。

俺の新しい生活はまだ始まったばかりだ。

これから、また更にドタバタした生活が始まる、将来のトレーナーの為に頑張るぞ!!




「____様、もうすぐ目的地でございます。」

とある車の中、運転手が座席に座るウマ娘に話しかける。

「ありがとうございます、ここまで運転してくださって。」

「いえいえ、____様の為ならどこでも向かいますよ。」

「あら、頼もしいですわ。」

高さが様々なビルが通り過ぎる風景を見つめながらそのウマ娘は話す。

「…明日から楽しみですわ、ふふっ。」



続く。

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