事の発端は自分の不注意だった。
何事もなくただその日もすぎていくと思っていたのに。
ただ1回の不注意の所為で……。
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︎ ︎︎︎︎︎ I hate you
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とても晴れた日の事だった。
雲ひとつなく広がる青空の下で無意識に伸びをした。
微かな風で揺れる芝生の音に癒されて大きく息を吸う。
そこで今回の授業の担当教師がやってきた。
「今回の授業は少しした応用です。」
「owl試験にも出ますからしっかり身体に覚えさせるように!」
「「「分かりましたフーチ先生。」」」
「よろしい。それではいつものように箒を手に持って!!」
合図と共に皆が一斉に「上がれ。」と箒に命令をした。もう何回も授業を重ねていると言うのに未だに一発で箒を上げられたのは自分と英雄……もといハリー・ポッターしか居なかったのだ。
「……はぁ、まだ皆さんは手古摺って居るのですか?」
「Mr.マルフォイとMr.ポッターを見習うべきです。」
自分の名前を挙げ模範の対象にされたことに悪い気はなく、ポッターの方を見て口角を上げた。ポッターはそんな自分を睥睨した。
「ようやく皆さんの手に箒が収まりましたね。」
「それでは跨って…いつものコースを3週してきて下さい。」
フーチ先生がピーッと笛を鳴らした。その瞬間皆は一斉に方向転換をして校舎の周りを飛び回る。見慣れた光景に思わず溜息を零した。
「実に下らない授業だな。」
ぽつり、と吐き捨てた台詞にポッターが反応した。
「マルフォイ家に生まれし人ならくだらないだろうね。」
「……なんだ?英雄殿が僕に突っかかるなんて珍しいじゃないか。天才シーカーであるポッターもこのコースに飽きて来たのか?笑」
いつものようにポッターをせせら笑う態度をとっては眉を顰めたポッターを置いてコースに沿って箒を前進させた。それを追い掛けるようにポッターが後を着いてくる。負けじと速度を早めてはポッターも悔しさから速度を上げた。所詮学校からの貸し物、それ程速度が出ないので鼬ごっこではあるもののお互いに負けられないという空気を纏っていた。
気付けばコースから大幅に逸れて広い湖の上で競り合っていた。抜かし抜かされを繰り返している内に身体で押し合う程熱くなっていた。
「そろそろ諦めたらどうだマルフォイ! 」
「いやはや、まさか君からそんな言葉を聞くとはね。それを吐いた君が諦めるべきだろう?」
「…辞める辞めないは任せるがコースに戻ろう!」
「この先は危険すぎる!」
「流石英雄殿。この付近のことは何でも知っ──。」
ポッターの方に振り返った刹那、同時に前方に阻害するように大きな枝を下ろした暴れ柳と衝突した。箒から弾き出され宙を舞っては視界が逆さを向いた。最後に目に入ったのは暴れ柳に粉々にされる箒だった。
ふと目が覚めては冷たい布団を被せられて居るのに気がついた。まだ頭がふわふわするが未だじんじんと痛む身体のお陰で意識が覚醒した。
医務室だ。きっとポッターが届けたんだろう。あの憎きポッターにまた英雄面をさせてしまったのとスリザリン生として…マルフォイ家として有るまじき失態を犯してしまったことに頭を抱えた。
「目を覚ましたんですね。Mr.マルフォイ。」
「…お陰様で。」
「驚きましたよ。Mr.ポッターが目を真っ赤にして貴方を運んできた時は。」
「…すみません、マダム・ポンフリー、ポッターが…なんと?」
「ですから、Mr.ポッターが泣きながら駆け込んで来たのですよ。マルフォイが、マルフォイがー、なんて掠れた声で叫びながら。」
「……」
言葉も出なかった。彼が…ポッターが泣いた?ライバルである自分を泣きながら運んだ?どういう冗談だ。マーリンに髭でも生えたか??
「お言葉ですがマダム・ポンフリー…元気付けて下さるのは光栄ですが、もう少し笑える冗談を」
「あら、冗談だと思ったのですか?」
「Mr.ポッターに直接聞いてみてはどうでしょう。」
「僕とポッターがそのような間柄では無いことをご存知無く…?」
「…すこし話し過ぎたようですね。」
その後、真実を問うても「私が話す事ではありません。」なんてきっぱりと切り捨てられ答えが返ってくることは無かった。
今はゆっくりするように、なんて水の入ったコップを置かれてはマダム・ポンフリーはその場を後にした。
あまりにも気になりすぎる話に横になっても眠れなかった。何故かポッターの色んな表情が脳を占領した。彼の泣いている姿とは…?なんてらしくない事を考えたが全ては揶揄う為だと言い聞かせては首を振った。…と、その時ぱたぱた、と走って何者かが接近してくる音が聞こえた。マダム・ポンフリーが「医務室では走らない!」と声を荒らげているのが聞こえてはあわてて布団をかぶり出入り口を背にして寝ている振りをした。
「ごめんなさい、マダム・ポンフリー…、気をつけます。」
弱々しい声が聞こえた。
紛れもなくポッターの声だった。そしてマダム・ポンフリーから意識は取り戻したという話を聞いたのだろう。ポッターが呼吸を可笑しくしながら近付いて来た。
「良かった……よかった…」
僕の眠る(フリをしている)ベットに縋るようにしては声を噦り上げた。時折、鼻のすする音がする限り泣いていたのだろう。
……本当にどうして?
「君が暴れ柳に当たった時は本当に寒気がしたんだ……、君が死んでしまうんじゃないかって。でも、そんなことを考えるより先に身体が動いてた。気を失って落下する君を受け止めてはフーチ先生に報告するより先に医務室に駆け込んだよ。…その後フーチ先生に報告に行ったらこっ酷く怒られたけどね……。」
そこまで言うとポッターの声は途絶えた。
少し気になり首だけを動かして後ろの様子を伺ってはポッターは泣き疲れたのかそのまま眠りについていた。ポッターなりの優しさに触れたような気がして少し心が温まるのを感じた。
その後、多少は動けるようになったものの身体に激しい痛みが襲いかかるためずっと医務室で横になっていた。いつ頃治ることやら…と頭を悩ませたが同級生のパンジー・パーキンソンが頻繁に見舞いに来て授業の内容やら今日あった事やらを楽しげに話してくれたので少し暇は潰された。
その日の夜、何故か寝付けずぼんやりと月が輝く夜空を眺めていたところ誰かの気配がしてふと振り返った。もちろん、消灯時間がすぎているので生徒が現れることは……
「マルフォイ……」
あった。生徒が現れることがあった。
憎き宿敵であるハリー・ポッターがそこには立っていた。
「やぁ、英雄殿。こんな夜中に透明マントでお散歩かい?今僕が大きな声で叫べばどうなるだろうね?」
目を細めてポッターを瞳に捉えればにやりと笑って見せた。
「叫んだって構わない。」
「ただ君と話がしたかったんだ。」
「…」
思わず黙り込んでしまった。
緑色の瞳に自分の影が映るほど真っ直ぐ自分を捉えていた。瞳が揺るぐこともなく、瞬きをしても瞳の位置が変わることもなくずっと…。
「君の事がすごく心配だった。」
「…」
「君を失うんじゃないかって、不安で仕方が無かった。」
「君だけなんだ。僕に”生き残った男の子”として接して来ないのは。君は僕をハリー・ポッターとして見てくれている。」
「君と話していると腹は立つけど不思議と肩の荷が降りるんだよね。そして…此処がすごくうるさくなる。」
ポッターは自分の胸に手を当てた。
ちゃんとした言葉を聞いてもないのに先走った自分の脳はブレーキをかけることも知らずに顔に熱を与えた。
「僕……君の事が好きみたい。」
ポッターがへにゃり、と笑った。
月明かりに照らされる彼は何処か格好よく見えた。
「……僕は…」
「答えないで、君がどちらを口にしてもきっと僕は自分の感情を抑えられなくなる。」
「…英雄殿も落ちたものだな。感情くらい自分で制御して欲しいものだ。」
「その位の方が君らしいよ。それじゃ、また明日。」
ポッターは透明マントを被り直せばその空間へ溶け込んで消えていった。
流石に退屈が過ぎる毎日に飽きて来ていたので無茶を言って授業に出る許可を貰った。身体が辛くなったら直ぐに医務室に戻ってくる・誰か付き添いを1人つけるという条件付きで。
僕は迷わずクラッブとゴイルを指定したがグリフィンドール生との喧嘩で罰則を受けているらしく却下された。パンジーも脳に過ったが彼女は過保護すぎて少し躊躇した。
そこで不覚にも昨日自分に告白をしてきたくせっ毛で丸眼鏡の”アイツ”が頭に浮かんだ。
その瞬間例の”アイツ”が僕の介護に手を挙げた。
「僕が彼を手伝います。」
この日1日はずっと隣にポッターが付き添っていた。普段は自他ともに認める不仲であるのにどういう風の吹き回しだと他寮の生徒も目を丸めた。無論、僕も目を丸めた。
「…君は何処まで僕と一緒なんだ?」
「ずっと一緒さ。君の身体が良くなるまでね。」
「…鬱陶しい。死んだ方がマシだ。」
「……それ以上言うな。」
ポッターが鋭い視線を僕に向けた。
僕は思わず口を結んだ。
「君が僕をどう思おうが自由だ。でも自分を大切にしない言葉を言うのはやめろ。」
「……何を…まともに受け取っているんだ。」
いつもの表情が引き攣っているのは自分でも分かった。嫌味も今はスラスラと出てこず言葉に詰まりながら短く終わらせた。
「僕、言ったよね?君を失うのが嫌だって。」
「意味が…分からないね。英雄殿も…恋に飢えているのか?」
「君に飢えてる。」
あまりにもどストレートな言葉に此方が熱くなった。
良くもまぁそんな恥ずかしい言葉を躊躇なく・・・。
「ねぇ、マルフォイ、また君に告白してもいいかな。」
ポッターが僕の肩に手を置いては顔を近付けた。
思わず腰を反らすと案の定激痛が走って呻いてはポッターの方に倒れ込んだ。
「おっ…と……、無理しちゃだめだよマルフォイ?」
「ッ、離せ、!」
「ダメ。このまま君を医務室に連行する。」
「歩ける、!」
「暫くは痛みが響くでしょ。」
「だとしても運び方があるだろ、!」
何故寄りにもよって姫抱きを……!
周りからの視線が辛かった。本当に腹を切って死のうかとも思った。
「……はぁ、君の行動は滅茶苦茶だ。」
「君のためだよ。」
「僕の為になっていない!」
「もー、わがままだなぁ。」
「君が滅茶苦茶なんだと言っただろ!」
「分かった分かった、今夜は僕が着いておくよ。だから好きにこき使って。」
「そういことじゃなくて…!」
反論を口にしようとしたがきっとポッターに何を言っても伝わりやしない、そう思って口を噤んだ。
「水、持ってこようか?」
「…頼む。」
本を捲りながらポッターに視線を向ける事もせず無愛想に答えた。
あれから本当にポッターは僕から離れることなく付きっきりだった。腹が減ったと言えば大広間から食べ物を掠ねて来るし、暇だといえば僕の好みの本を図書館から引っ張り出してくる。クラッブとゴイルよりも使える奴で正直驚いたが悪い気分では無かった。
「はい、置いておくよ。」
「どうも。」
変に煩くもしないし話もしないが隣に誰かがいると言うだけで少し安心感があった。
「…今夜は寒いね。膝掛けでも持ってこればよかったかな。」
「…入るか?」
「……いいの?」
「少しの間だけだ。」
「珍しいね?君からそんなことを言ってくれるなんて。」
「……まぁ、今日は1日世話になったからな。」
「僕が好きで動いてるだけだし気にしなくて良かったのに。」
なんて言いつつもベッドに乗り込んできた。
2人とならば少し暖が増えた気がした。
「思ったより暖かいね。」
「2人なんだ。そりゃ暖かくなるだろう。」
「ねぇマルフォイ、」
「…何だ?」
「此方向いて。」
「……なんだ?」
本から目線を外しポッターの方を見れば唇に柔らかい感触が伝わった。
「…は……?」
「大好きだよ。マルフォイ。」
それだけ言うとポッターは僕を背にして横になった。
まさか、と思ってポッターの顔を覗き込むと緑色の瞳は閉ざされ、既に寝息を立てていた。
少しと言っただろう……、なんて思いつつも唇に触れた。ポッターに触れた唇に。
複雑な感情が心に押し寄せた。
そっ、とポッターの耳元に口を寄せた。
英雄気取りなポッターが、
誰にでも優しいポッターが、
嫌味をあしらうポッターが、
友人と楽しげにするポッターが、
シーカーで活躍するポッターが、
恥ずべき言葉を何の戸惑いもなく吐くポッターが、
唐突に愛を吐露するポッターが、
自分勝手なポッターが、
今は_____
「 ___嫌いだ。 」
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