コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◆◆◆◆
「なあ。俺、何も考えてなかったんだけどさ」
恥ずかしがって手で顔を覆いながら口を結ぶ林に遠慮なく跨り、シャツのボタンを外しながら紫雨は呟いた。
「はい…?」
指の間から林の目が覗く。
「お前は結局どっちがしたいの?」
紫雨はその瞳を上目遣いに見つめた。
「どっちとはっ?」
また顔を赤らめた林が指の隙間を閉じ、掌の向こうから聞いてくる。
「だから上と下!受けと攻め!タチとネコ、だよ!」
「…………」
林はますます顔を赤らめ、黙ってしまった。
紫雨は構わずにシャツのボタンを外し終わると、その鎖骨に唇をつけた。
「っ」
林の身体がビクンと跳ねる。
「………お前。なんだ、その生娘のような反応は…」
呆れながら紫雨は目を細めた。
「あんなに散々人の身体を好きにしていた奴の反応じゃねえな」
言うと、林は消え入りそうな声で呟いた。
「だって―――ちゃんとセックスすんの、これが初めてじゃないですか……」
紫雨は天井を見上げた。
確かにそうだ。
展示場でやってた時は、半ば無理やり自分が抱いてただけだし、林の実家で過ごした間は、自分はただ行為に耐えていただけだった。
「……し、紫雨さんが……」
林が再び消え入りそうな声で言う。
「俺が何?」
紫雨は舌を滑らせ、胸の突起に口づけをしながら言った。
「………っ。紫雨さんが、いい方でいいです」
「なんだそれ。人任せだなー」
言いながら突起を舌で転がすと、林は顔を覆っていた手を口に当てて顎を上げた。
「……だって。夢みたいで……」
「夢?」
「紫雨さんが振り向いてくれるなんて……思わなかったから……」
言いながら潤んだ目でこちらを見上げる。
「ひどいことをして、すみませんでした………」
紫雨は笑いながらその手をフリースのズボンに掛けた。
「んなの、お互い様だろ」
言いながら林の横に腕を付き、唇を合わせる。
手で足の付け根まで下ろしてから、膝を使ってズボンを下げ、最後に指で抜き取ると、林は小さく息をついた。
「なんだよ」
「……さすが、人の服を脱がすの上手いなって……」
拗ねたようにいう林に、紫雨は笑った。
「バーカ。自分から脱がすなんて、滅多にしねえって」
「つまり、いつも脱がされてたってことですか?」
林がますます紫雨を睨む。
「……なんだよ、突っかかんなよ。んな快楽を求めるだけの関係に嫉妬したってしょうがないだ―――」
言いかけた唇は顎を上げた林によって塞がれた。
「紫雨さん、ちょっと黙って」
後頭部を手で押さえつけられ、舌が入ってくる。
(くそ……)
紫雨は自分に悶えそうなほどの刺激を与えてくる林を睨んだ。
(今年童貞を捨てたような7歳も年下の男に……)
荒々しい舌の動きに、つい熱い吐息が漏れる。
(こんなに翻弄されるなんて……)
やっと唇を離した林を睨み、紫雨はため息をついた。
「こえーよ、目が」
言うと林はふっと笑った。
「俺はいいですよ。上でも下でも。紫雨さんの好きな方を選んでください」
何か吹っ切れたのか、林はもう顔を覆うことはせず、笑顔で紫雨を見上げてくる。
「……しばし待て。今、作者も悩んでる」
「?………作者って何ですか?」
「あ?いいや、こっちの話。よし決まった。お前下な?」
言いながら紫雨は自分もスウェットを脱ぎ捨てると、林の上に再度跨った。
「え?あ、上って……そっちですか?」
自分のモノに紫雨の入り口を宛がわれ、林は息を飲んだ。
「覚悟しろよ……?」
「覚悟って……?あっ!」
林のソレは、紫雨の中に、文字通り吸い込まれていった。
◇◇◇◇◇
「なあ。アイツさ」
篠崎はベッドの上から、窓の外を見下ろした。
「結局、地盤調査車両乗ってきてねぇよな?キャデラック置きっぱなしだぞ」
マンションのゲスト駐車場に停められたままの車を睨む。
新谷はベッドの隣に腰かけながらそれを見下ろした。
「本当だー。この寒さでバッテリー上がんないですかね」
「上がれ上がれ。ざまーみろだ」
言いながら篠崎は寝っ転がった。
その姿を見ながら新谷は微笑んだ。
「何だよ。その含みのある笑い方は…」
篠崎が枕に頬杖をつき、新谷を見上げる。
「いや篠崎さん。紫雨さんがいなくなって寂しいんじゃないかなーって思って」
「はあ?俺が?冗談だろ……」
「だって、ここ数日楽しそうでしたし?」
「…………」
どうやら冗談でもなさそうな口調で言う恋人を見上げながら篠崎は笑った。
「お前こそ、息子がいなくなって寂しいんじゃないのか?“お母ちゃん”?」
言うと、新谷はふっと笑った。
「俺、子供は女の子が得意なんですよね…」
言いながら篠崎の顔を両手で包むと、新谷は唇を落とした。
篠崎も上半身を起こしながらそれに応えると、新谷の顔を覗き込んで言った。
「そんなこといったら、俺だって猫派じゃなくて犬派なんだよ。ワンって鳴け!ワンって」
「やですよっ」
篠崎は新谷の顎をくいと引くと、髪の毛を包むようにしながらより強く唇を押し付け、深く舌を挿し入れた。
八尾首市には白い雪が降り始めていた。
◆◆◆◆
「んっ………あ……!」
紫雨は自分の腰の動きに合わせて、快感に歪む林の顔を見下ろした。
いつもの無表情さからは想像できないその官能的な表情に、半ば呆然とする。
「お前、そんな顔できんのかよ……」
言いながら腰をしならせて奥まで入れると、林は堪らないというように紫雨の腰を抑えた。
「………や……ばい……っ」
余裕のない顔で、紫雨を見上げる。
「こんなテク持ってるなんて……聞いて……ないっ…」
息も絶え絶えに言う林に紫雨は笑った。
「こちとら年季が違うんだよ。俺の本気嘗めんなよ」
言いながらまた軽く腰を動かすと、林の太腿に力が入った。
「――ああっ…もう……っ」
またその顔が歪む。
片目を瞑りながら必死で耐えている表情を見ていると、紫雨はムクムクと何か熱い感情が湧き上がってくるのを感じた。
その肩に両手をつき角度をつけて唇を合わせる。
体勢によって中が締まったのか、林がまたぐっと我慢するように顔を歪める。
その唇に舌を入れると、林はこらえられなくなったのか、唇と舌の間から、官能的な声を漏らした。
「お前……。その顔、俺にしか見せんなよ?」
紫雨はキスの合間に林に忠告した。
「その声も、俺に以外に聞かせんな」
言いながら髪の毛をかきあげるように林の頭を掴むと、夢中で唇を合わせた。
(そうか、やっとわかった)
唇を合わせながら自然に腰が動き出す。
林が悶えるように紫雨の背中に爪を立てる。
(こいつとのセックスが気持ちいいのは……)
快感に耐えられず、唇から逃れようとする林を強く捕まえ、無理矢理に舌を突っ込んだ。
(俺がこいつに喰われたがってたから、なんだな……)
「……俺が海老かよ」
「え?」
呟いた紫雨に林は首を傾げた。
「なんでもねーよっ」
紫雨は笑うと、本格的に腰を動かし始めた。林は快感に身を仰け反らせ、頭の下の枕を強く掴むと、そのまま腰を震わせた。
「……し…死ぬ………」
息も絶え絶えになりながら林が言うと、
「しっかりしろよ」
紫雨が笑う。
「悪いけど、俺、上にいるときはコントロールできるから」
言いながら紫雨が口の端を釣り上げた。
「……まだまだ楽しませてもらうぜ?」
「……!」
釣られた鯛は泡を吹くと、押し寄せる快感にシーツを握りしめた。
「あれ?俺のキャデラックは?」
ハイブリッドカーから降りた紫雨は、天賀谷展示場の駐車場を見回した。
「何寝ぼけてるんですか」
隣で林が紫雨を見下ろす。
「八尾首市に置いて来たでしょう」
「あっ」
紫雨が声をあげたところで、携帯電話が鳴った。
『おい、お前!!』
篠崎は怒りに声を震わせながら言った。
『言っただろ!地盤調査だって!』
「あ」
紫雨は駐車場に停まっている、八尾首展示場の地盤調査車両を眺めた。
『今すぐ乗って来い!』
紫雨は電話を切って腕時計を見つめた。
「ここから八尾首まで2時間半。往復で5時間。積雪が多い地域や凍結している地域も抜けると思いますので、事故らないように気をつけてくださいね」
林が無表情のまま、紫雨を見下ろす。
「……お前、その鉄仮面やめろって言ってんだろっ!」
言いながら地盤調査車両の鍵をくるくると指で回した。
「じゃあ俺、行ってくるわ」
わざと素っ気なく言うと、林も無表情で頷いた。
「お気をつけて」
(……こいつは!)
紫雨はバンに乗り込んだ。
(まあいいか。あんな顔、普段からされても俺が困るしな…)
調子にのって一晩中愛し合いジンジンと痺れる臀部に苦笑しながら、紫雨はアクセルを吹かした。
晴れ渡る快晴はどこまでも続き、冬の温かな太陽は、八尾首市まで続く国道を明るく照らしていた。