三人でお昼ご飯を食べるようになって一週間、
何時もは一颯さんが先に出た後で僕達が
空き教室をでるけど今日は全員一緒だった。
僕は敬語と«名字»呼びに戻っていたけど
普段から誰に対してもタメ口の真貴君は
気にせず話していた。
‘教師と生徒’ではあるけど‘恋人同士’の二人。
そもそも、何が問題かというと
二人が‹‹名前››で呼び合っていたことだった。
鈴見先生は生徒のことをよく下の名前で呼ぶけど
一颯さんは基本的には名字+君付けだ。
それを物陰から聞いていた人物が居た。
理科教師の卜部先生だ。
僕は隣を歩く一颯さんに伝えた。
「〚あそこに卜部先生が居るよ〛」
そちらを小さく指差した。
その場では何も起きなかったが放課後、
一颯さんと一時間くらい話して教室を出て
下駄箱に着くと待ち伏せのように卜部先生が居た。
「二人とも、今から帰るの?」
先に答えたのは真貴君だ。
『そうっすね』
敬語ともため口とも
取れない言葉使いで返事をした。
内心で<めんどくさい>
と思っているんだろう(苦笑)
「話が弾んでしまって、
今から帰るんですけど卜部先生は見回りですか?
ご苦労様です。 真貴君、帰ろう」
僕もさっさと帰って新刊を読みたい。
『そうだな、詩弦今日は電子書籍の
新刊発売日だって言ってたよな?』
覚えてたんだ。
「そうなんだよね、早く帰って読みたいんだ!!
だけど、真貴君と放課後話すのも楽しいんだよ」
両方本音だ。
『ありがとよ、あ、そうだ
明日の昼飯のリクエスト聞き忘れてたわ』
それ、さっき教室で話してたやつ(笑)
「え、作って来てもらってるのに悪いよ」
実際に作っているのは一颯さんだけど
この会話からだと真貴君が
作ってる感じに聞こえるだろうね。
『詩弦は食堂で
奢ってくれてんだからいいんだよ』
一颯さんと真貴君にはおやつだったり
ジュースやコーヒーだったり
一日置きに買っているけどそれも
感謝の気持ちだからあまり
〈奢っている〉とは思っていなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて
⁽⁽ハンバーグ⁾⁾と⁽⁽甘い卵焼き⁾⁾がいいな」
真貴君は鞄からルーズリーフを出して
僕のリクエスト料理を書いている。
『わかった、明日の昼飯楽しみにしてろよ』
僕達の会話を卜部先生はただ黙って聞いていた。
靴を履いて校門を出たところで真貴君が
ブレザーの内ポケットからスマホを取り出して
一颯さんに電話を掛けていた。
〈二日後〉
今日は週末の金曜日で放課後に
遊びに行く予定だったんだけど教室に行くと
真貴君は左腕に包帯を巻いていた。
「それ、どうしたの!?」
昨日は普通だったから学校に来る間に
何かがあったのは明白だ。
『あぁ、これな……(苦笑)』
話してくれた内容は
通学途中で知らない二十代後半から
三十代前半くらいの男性三人に囲まれて
暴行されかけたけど返り討ちにしたこと、
それでも腕に怪我をしてしまい
病院に寄ってから登校したとのことだった。
『卜部の知り合いだと思う』
「根拠は?」
確かに芦原先生は怪しいけど。
『そいつらと俺が初対面で
年代が卜部と近いこと、あいつが一颯のことを
好きだってことを踏まえればそうだろって推測だ』
あ、真貴君は卜部先生が一颯さんのこと
好きだって知ってたんだ。
「それ見たら一颯さんが動揺しそうだね
包帯が巻かれた真貴君の腕に
視線を向けて言った。は
『大した傷じゃねぇけどな』
数十分後、|HR《ホームルーム》のために
教室に入って来た一颯さんは左腕に包帯を巻いた真貴君を見て
一瞬目を見開いた。
そうなるよね(苦笑)
案の定、昼休みにいつもの空き教室で一颯さんは
真貴君に詰め寄る勢いで訊いていた。
今朝、僕にしてくれた内容と同じ話をしている。
『私の恋人に手を出すとはいい根性してますね、
しかも、自分の手は汚さないとは』
今にも卜部先生を問い詰めに行きそうな勢いの
恋人の手を引いて座らせた。
『落ち着け、一颯』
座ってからも眉間にシワを寄せて
不機嫌丸出しの一颯さんは
僕達と同年代みたいだ。
「お腹空いた」
このままじゃ昼休みが終わっちゃう。
『ほら、詩弦も腹へったってよ、
とりあえず、飯食べようぜ』
不機嫌はそのままにバッグから
お弁当を出して並べはじめた。
『そうですね、腹が減っては戦はできぬと言いますし
まず腹ごしらえからしましょう』
なにやら不穏な言葉が聞こえた気がしたけど
聞かなかったことにしよう。
ご飯を食べ終わる頃には一颯さんの
怒りも一旦収まっていた。
とりあえずよかった。
そういえば六時間目は卜部先生の理科だ。
少し不安だし今朝のことが仮に芦原先生と
関係があったとしても流石に皆が居る理科室で
何かしてくることはないだろう。
『私は先に戻りますが六時間目は
くれぐれも注意してくださいね……』
一颯さんも気になってたんだね。
『卜部も馬鹿じゃねぇだろうから
流石に理科室で、しかも直接は
手は出して来ねぇだろうさ』
「僕も真貴君と同じ考えだよ。
今日は実験する日だから必ず
四人一組だし真貴君だけを狙うのは
難しいんじゃないかな」
不安そうな|表情《かお》を
している一颯さんに大丈夫だからと
伝えて職員室に戻ってもらった。
放課後は何時もより三十分早く切り上げて
予定通りに真貴君と遊んでから帰って来た。
翌週の水曜日の昼休み、
遂に卜部先生が自ら手を出して来た!!
下から登って来た真貴君を
突き飛ばそうしたけど幸い、真貴君の身体能力が
よかったから大事にならずに済んだけど
普通の人なら完全に大怪我をしていたかもしれない。
昼休み、一颯さんに報告すると真貴君を
抱き締めて泣き出してしまった。
『俺はかすり傷一つ負ってないんだから泣くなよ(苦笑)』
先週の金曜日と違って確かに真貴君は
かすり傷一つ負ってないけどあれは危うかった。
『お恥ずかしい所をお見せしてすみません……』
十分後、泣き止んだ一颯さんが何時も通りお弁当を
並べはじめたの見てホッとした。
「大丈夫だよ」
そりゃ恋人が危険な目に遭わされたら泣きたくもなるよね。
『真貴に直接手を出したなら
私も黙っているわけにはいきませんね』
あ~あ、普段穏やかな人程怒らせると怖いって言うけど……(苦笑)
『怒ってくれんのは嬉しいけど一颯が
不利になるようなことはすんなよ』
『私は彼女と違って<直接>は手出ししませんよ』
<直接>じゃなければどう対処するんだろう?
二人で首を傾げた。
その答えたが判明するのはもう少し先になってからのこと。
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