夕暮れが街の輪郭を赤く染めていた
高層ビルを縫うように突き抜ける風は、夏の終わりを告げるように少し肌寒いもので、私の髪をふわりと揺らして通り過ぎた
駅からそう遠くない場所にあるはずなのに、まるで此処は別世界だった
誰とも話したくなくて、誰にも見られたくなくて、私はただ歩いて、歩いて、そして、気がつけば眼の前には黒い扉
BAR Mary .
扉の横には小さなネオンサインが揺れている
誰かに呼ばれたような、そんな気がして、私は吸い寄せられるようにその扉を押した
_ カラン
扉に吊るされた小さなベルが鳴って、視界に飛び込んできたのは、幻想的な証明と柔らかいジャズの音色、そして…
( ? .
いらっしゃいませ 、 BAR Mary へようこそ
甘く、澄んだ声。
そして 、
( 私 .
… ぇ っ 、 ?
眼の前にいたのは、バニーガールの格好をした、美しいお兄さんだった。
黒のベロアのような質感のバニースーツ
細身の体にぴったりとフィットしていて、長い脚はタイツ越しでもわかるほどスラリと伸びている
それでいて、柔らかそうなカフェラテのような髪色に、何処か中性的な、けれど妖しく整った顔立ち
耳にはピンとたったバニーの耳がついていて
( 私 .
女の子 … 、 じゃないよね 、 ?
思わず呟いた私に、そのバニーガール、? の彼はくすっと微笑んだ
( ? .
男の子だけど … 、 今夜は ” バニーガール “ ってことで、よろしくね ?
余裕あるその笑顔に、なぜか心がふっと軽くなる
こんなに疲れていたのに。こんなに泣きたかったのに。
何故だろう、たった一言と、たった一つの笑顔で
( ? .
カウンター 、 空いてるよ 。 お一人様 ?
( 私 .
… 、 うん
言われるがままに腰を下ろすと、彼は私の前に透き通った水とたった1枚のメニューを置いた
( ? .
まだ未成年だよね ? じゃぁ 、 甘いノンアルでなにか作るね 。 僕のおすすめでもいい 、 ?
私はこくんと頷いた
彼はバーテンダーとしても慣れているのか、スムーズにグラスを用意しながら、優しい声で話しかけてくる
( ? .
今日はなにか、嫌なことでもあった ?
( 私 .
… 、 ! うん 、 ちょっと 、 ね
彼はうんうんと頷いて、シェイカーを振る音がカウンターに響いた
( ? .
そういう夜に 、 来てくれて 嬉しいな
グラスに注がれたのは、ピンクと白がマーブルに混ざる、ふわふわのクリームソーダのようなドリンク
( ? .
これは “ Moon Bunny ” って言ってね 、 おつかれさまって意味を込めて作ったんだ ~ 。 気に入ってもらえると嬉しいな
( 私 .
凄く 、 綺麗 …
彼はそう言って、バニー耳をぴょこんと動かして見せた
彼の名前、知らない
でもこの場所には、不思議と安心できる何かがある
そしてその中心には、彼がいる
( 私 .
ねぇ 、 お兄さんは … 、 なんて名前なの 、 ?
私が尋ねると、彼はほんの少し口角を上げて、 まるで遊ぶように答えた
( ? .
僕の名前 ? ふふ 、 それは _ 秘密 。
でも君がまた此処に来てくれたら … 、 そのときは 、教えてあげるよ
きらり、とウインクを一つ
その瞬間、胸の奥に宿ったのは、久し振りの ” ときめき “ だった
__そして、それが始まりだった。
バニーガールのお兄さんと、私だけの夜が紡がれていくのは
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