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ある日、僕がいつものように稽古をしていると、視界の端に、いつもはみない人がいるのが見えた。
普段だったら気にもとめないのだが、気の迷いか、異様にその人のことが気になってしまい、休憩に入るとその人の方向を振り向いた。
長く暗い黄色のような髪に、髪と似たような色の、蜜のような瞳。
ああ、綺麗だなと思った。
その人はずっとこちらをみているようで、時々目が合ってしまう。
その人のことがもっと知りたい。
僕はそれだけを思って、その人に話しかけた。
「こんなところでなにしてるんですか?」
僕が首をかしげれば、その人はくすりと微笑んだ。
そしてにっこりと笑ったあと口を開いて、
「嗚呼、いやゞ、ただ…貴方が美しいな、と」
なんて話す。
ああ…美しい。非常に可憐なのに、手や目は男らしい。
僕はその人と同じようににこりと微笑んで、一つ頭を下げる。
「それはどうも、」
なんて言ったあと、僕はこのあ との用事を思い出し、僕は家に駆け込んだ。
横目でみたあの人は、 名残惜しげにこちらをみていて、どこか寂しそうな雰囲気も醸し出していた。
長い髪と非常に綺麗な目が印象的だった彼。
もっと話したいという思いは勿論あるが、同時に、『これ以上話してはいけない』という警戒心もあった。
あの人はなんだか、人間に限りなく近いなにか、のようなにおいがする。
それでもせめて、名前は知りたかったな、なんて呟いた。
まぁ、ひとまずはいいだろう。
なにも今日しか会えないわけではないのだから。
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