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陽翔は百子の隣に座り、彼女の用意したハーブティーを一口飲む。心なしか自分が淹れたものよりも美味しい気がして、百子に感謝を述べると、彼女は赤面して首を振っていた。
「お茶淹れるのが好きなだけよ。でも、ありがとう」
陽翔は妹に増えすぎたミントを押し付けられた当時は渋々受け入れていたが、お茶にすると美味しいし、何よりも百子が喜ぶ顔が見れたとなると、妹に感謝せねばなるまい。そんなことを考えていると、百子が真っ直ぐに陽翔を見つめているのに気づいて、彼もまた目を合わす。
「東雲くん、おかずにラップ掛けてくれてありがとう。それとさっきは八つ当たりしてごめんなさい……嫌なこと思い出したのは事実だけど、それは東雲くんにぶつけるべきじゃなかったのに……」
しゅんとした百子に、陽翔は首を振って見せた。
「なんだそんなことか。別にいいぞ。それなら俺も悪かった。まだ元彼に裏切られて日も浅いのに、無神経なことを言っちまったし。お互い様でいいだろ」
陽翔がそう言って百子の頭を撫でる。指の間をさらさらとした髪の感触が滑ると思わず頬が緩んでしまう。
「そういえば百子の話したいことはそれだけか? まだ実家に報告するのに心配してることはないのか?」
百子の表情がさっと固まったのを見て、陽翔は自分の嫌な予感が当たったのだと悟り、ため息を押し殺した。
「……東雲くんにはお見通しなのね」
百子は鼻の奥がつきんと痛むのを感じて、思わず両手で顔を覆う。ここのところ涙腺の緩い百子は、話している途中でも目の奥が熱くなったりすることが増えている。話しながら泣くのが嫌な百子だったが、緩く首を振った。
(だめ……言わなきゃ伝わらない……)
百子の頬をぬるい液体が伝い、膝に置いた手も小刻みに震える。しかし彼女はそれを無視して少しずつ言葉を紡いだ。
「……私の、30歳までの、た、誕生日までに……相手が、見つから、なかっ、たら……み、見合い、させるって……」
陽翔はなぜ百子が先程激高したのかが何となく理解できた。同棲が失敗したことを報告することよりも、同棲して浮気されたのに、それをまだ両親に伝えられておらず、見合いをしろという言葉が追討ちのように感じられたのだろう。百子の誕生日がいつなのかは不明だが、裏切られた傷もまだ癒えてないというのに、見合いをしろと言われたのなら、感情が爆発しても何らおかしいことはない。だがこちらにだって考えはある。
「百子、別に見合いしたくないのなら、しなくても何とかなるぞ」
陽翔が隣で上擦った声でそう告げるが、百子は彼の言葉の意図が理解できずに目をぱちくりさせた。ついでに先程感じていた、胸が悪くなるような気持ちもどこかに行ってしまう。混乱した頭を落ち着けるためにハーブティーに口をつける。百子の誕生日は9月だ。2ヶ月の間にどうにかなるようなものでもなさそうなのに、何故彼はそんな安請け合いをするのか。それとも彼には秘策でもあるのだろうか。
「東雲くん、何か良い方法があるの?」
彼女の懸念を何とかしたいと思っている陽翔は、今日彼女に伝えたかったことを今ここで言うことを決意した。
「なあ百子、俺じゃ駄目か?」