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宴の喧噪を極める大広間を抜け、アース神族の王が座する王の間を前にし、重成達五人のエインフェリアは緊張で思わず息をのんだ。
彼らはいずれも並外れた胆力を持つ勇者達であり、その上一度死ぬことによって恐怖という感情は完全に克服できたはずだった。
しかし、扉の向こうから発散される強大な神気に、彼らの五体は石のように固くなった。
(これ程強大な存在が・・・・)
その神気の強大さは、戦乙女の中で最も神格が高いというブリュンヒルデすら、遥かに及ばないだろう。
ふと見れば、黄金のように輝かしい鶏冠を持つ雄鶏、グリンカムビという名、が現れ、朝の到来を告げるように大声で鳴いた。
すると、神聖な文字、ルーン文字が施された扉が音も無く開いた。ブリュンヒルデが無言で歩を進め、重成達五人も意思を振り絞って足を動かした。
玉座に座する王にエインフェリア達は視線を向けることが出来ず、ただ俯いていた。
貴き存在を直接見るなど非礼であるという意識が彼らには共通してあったが、何よりも王から放たれる神気、神聖さはまるで日輪そのもののように圧倒的に輝かしく、直接目にすれば目がつぶれるのではないかという恐れを抱いたからである。
エインフェリア達は一度も玉座に視線を向けないまま、それぞれの形式で拝礼した。
「勇者達よ、面を上げるがよい」
王が命じた。その声は静かで優し気であったが、重成達五人の魂を揺るがす威厳と迫力に満ちていた。
重成は恐る恐る顔を上げ、アース神族の王を見た。
(何と巨大な・・・・。これこそ巨人ではないのか)
重成達は等しく思っただろう。アース神族の敵は巨人族のはずである。しかし、目の前のアース神族の王こそが巨人そのものの姿というしかない。その体躯はゆうに五メートルに達するだろう。
後で聞くところによると、ヴィーザルの母は女巨人であるという。
神王ヴィーザルは黄金の光を帯びた瞳で重成達五人のエインフェリアを見つめ、
「流石にブリュンヒルデに選ばれたことはあるな。いずれも良き面構えだ」
と、満足げに言った。
「余がオーディンの子、アース神族の王ヴィーザルである。その方らの活躍を期待しておるぞ」
重成達は深く頭を下げた。ローランですらこの王の圧倒的な威厳と神聖さに抗することができなかった。
何より、彼ら五人の胸中が至上の名誉と喜びに満たされたのである。この時をもって、重成達は完全にエインフェリアに生まれ変わったと言っていいだろう。
「恐れながら、ヴィーザル様・・・・」
重成が頭を上げ、恐れることなくヴィーザルを見上げながら発言の許可を求めた。
「許す。思うことがあればなんなりと言うがよい」
「は・・・・。我々はこの地に参ったばかりで、巨人族とやらがいかなる敵か、ラグナロクとやらがいかなる戦か、何も知りませぬ。何卒お教え願いたく存じます」
「そのことならば、後で私が・・・・」
「いや、良いのだブリュンヒルデ」
ヴィーザルがブリュンヒルデを制した。
「言葉で説くのも良いが、その目で直接見た方が早かろう」
ヴィーザルが玉座から立ち上がり、ルーンの詠唱を唱えた。神王が大いなる力を行使しようとしているのが、重成達にもはっきり理解できた。
「さあ見るがいい。かつて我が父オーディン、そしてアース神族最強の戦士であったトールまでもが討たれた大いなる戦の様相を。我らが滅ぼさねばならぬ強大な敵の姿を。そして世界が燃やし尽くされる様を。決して目を背けてはならぬぞ」