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※注意※
・本作はwrwrd様の御名前をお借りした二次創作です。御本人様とは一切関係がありません。
・本作は夢小説というジャンルに位置しますが、恋愛要素はありません。また夢主の性別は特に定めておりません。(でも男性口調寄り)
・スクショ、拡散等はお止め下さい。
・私情により前触れなく消す可能性があります。
※本作に含まれる要素※
微軍パロ、死後の話、短編、ほんのり電波系?、二人が地獄行きの列車で話しているだけ
なんでも114514な方のみどうぞ↓
暗中列車、地獄行きにて
がたん、ごとん。
昏く深い深淵の底で、列車は走る。
床が木造でできた昔ながらの古めかしい列車。広々とした車内にも関わらず、乗客は私一人であった。ついでに銃やインカムといった私有物も綺麗さっぱり手元から消えていた。
私だけが、何かの間違いのように此処に居る。ゆっくりと首を動かして窓外を見ても、一寸先も見えぬ闇だけが広がっており、この場所に関する手掛かりは掴めなかった。
あまりにも不可思議な空間の中で、それでも列車は当たり前の様に暗中を走ってゆく。
がたん、ごとん。
仮にこの列車が私を乗せてどこかへ向かっているというならば、先は間違いなく地獄だろう。誰に言われた訳でもないが、私はそう確信していた。天国にはいけない、という確信が。
がたん、ごとん。
軽快な音に合わせて列車が子気味良く揺れる。それが妙に心地よく、私は何もかも放棄して地獄まで一眠りしたい気分になった。
緩慢に襲い来る睡魔に従い、私はウトウトと寝入る体勢に入っていた。
「なんだ、生前の行いを悔いているのか?」
そんな小さな微睡みを全て打ち消す、忌々しい低声。
煩わしい思いで瞼を開けると、対面の席には目も口も弓なりにした赤眼の悪魔が鎮座していた。背もたれにベッタリと背中を付け、うざったいほど長い足を組んで座る彼はこんな状況でもいつも通りに見える。
⋯どう考えたって彼は先刻まで車内には居なかった筈だが、そんなのはもうどうでもいいことだった。こんな可笑しな空間なのだから。
それよりも、あのグルッペン・ヒューラーと相席している── それだけでこの地獄への旅路は最低最悪なものに変わり果てた。
内心で舌打ちをしつつ、けれどこれも最期の会話だと私なりの情けで口を開いてやる。
『あぁ、そうだな。お前に出会ってしまった過ちを悔いているよ』
信じてしまった己の愚かさにも。
私は心内でそう付け足した。
そしてなるべくあの瞳を見ない様、私は漆黒だけが広がる窓外を眺めた。暫くした後、眼前の悪魔はくすりと笑った。
「そうか。でも私はお前と出会えて良かったと思っているよ」
その声は平素よりうんと優しく、単純な私は思わず視線を彼の方へと移してしまった。
絡み合った視線の先、血よりも赤い瞳に捕らえられて、息が止まる。身体を貫く様な衝撃に襲われてあんなにも避けていた瞳を凝視していた。
先刻までのふてぶてしい態度から一変し、目を剥いて硬直する私は彼の目から見てどれほど滑稽に映っていただろうか。 眼球は彼に向いたまま縫い付けられた様に動かなかった。
「お前のお陰で、私はあんなにも高尚な地位にまで上り詰めることができた。ありがとう」
眼前の悪魔は慈愛と嘲りを綯い交ぜにした笑顔を浮かべそう言った。宛ら聖母の様に緩やかに弧を描く口元とは裏腹に、深紅の瞳はどこまでも冷たく私を見下げている。
⋯貴方はいつもそうだ。”正義”やら”大義”やら耳当たりの良い言葉だけを吐いて私の無垢だか無知だかを穢したくせに、結局私をただの便利な駒としてしか見ておらず、一人の人間として向き合うことは終ぞ無かった。文字通り最後の旅路ですら、アンタはそうやって、
「これからは地獄でずっと一緒だな」
『⋯⋯⋯。』
彼が晴れやかな笑みを浮かべて言った。
思わず唇を噛む。それは彼に対する怒りではなく、彼の言葉に一抹の喜びを感じているどこまでも愚かな私に対してであった。そんなんだから、この悪魔に骨の髄までしゃぶられてしまうのだ。
(馬鹿は死ななきゃ治らない、か)
諦観に似たなにかを思いながら、私は大人しく目を瞑り寝入る体勢に入った。もうとうにお喋りをする気分では無くなっていた。
グルッペンも満足したのか、それ以上何かを口にすることはなかった。
夢に落ちるまでのその間、私はふと考えた。
地獄には、我々が殺めた敵兵も居るのだろうか。ならきっとそれはそれは恨まれていることだろうから、彼らにはらわたを引き摺りだされてしまうだろうな。貴方も、私も。
だがそれで良い。蜘蛛の糸すら垂らされない地獄の底で、グルッペン・ヒューラーという悪魔と共に苦しめるなら。私が今まで犯した過ちも、全部が全部無駄ではなかったと胸を張って言えるのだ。あの頃の、グルッペン・ヒューラーに執心していた私に。
そんなことを思いながら、今度こそ私は微睡みを手繰り寄せた。
がたん、ごとん。
列車が揺れる。意識が溶ける。
地獄はもう、目と鼻の先である。