⚠こちらはカフカ作「変身」という小説をモチーフに書いております。
簡単にカフカ作「変身」のあらすじを載せておきます。
『ある朝、主人公のグレゴールザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿大きな毒虫に変わっていました。
毒虫になった息子に対して、家族がだんだんと疎ましくなっていく様を、日常の暮らしを通して描いてゆき、そして衝撃の結末を迎えるという小説だ。』
主人公ザムザを今回はまふゆとして、家族はニーゴのメンバーとして書かせていただきます。カフカ作「変身」では死の表現がありますが当方の作品はそちらを無しとさせていただきます。長くなりましたが本編をどうぞ。
痛い痛い痛い。
リンゴを投げつけられる夢を見た。みんなが私から遠ざかる夢を見た。
「ん…」
そんな悪夢にようやく終わりが訪れてた。重い体を起こして数秒だろうか。ぼんやりと壁を見つめていた。子供の頃に壁に付けた爪跡。もはやそれも今となれば壁のデザインになっている。
「…え?」
爪跡をなぞろうとした。なぞろうとして手を出したのに何故だろう、これは手じゃない。細い木の枝、いや、ちがう。これは、毒虫の手だ。恐る恐る近くにあった鏡でうつる全身を見た。今考えれば見なかったほうがよかったのではないかと後悔している。それはなぜかって?ちゃんと私が毒虫だったから。
「いやっ、いや、いやぁっ!!!!」
気持ち悪い私の姿に耐えきれなくて鏡を押し倒した。はずなのにこの毒虫は力がないの?いくら押しても押しても押しても倒れやしなかった。倒れない鏡に映し出されていたのは醜い哀れな顔をしている毒虫の姿だった。体の構成はカブトムシ、いや、G?が一番近い気がする。あぁ、どうして、今なのかな。
「…なんの声?まふゆ?どうしたの?」
「はっ…」
一階から聞き覚えのある声が聞こえた。ゆっくり一段一段階段をのぼって迫ってきている。こないで、こないでこないでこないで。でも神様は無慈悲だ。扉がスローモーションで開かれる。
この姿を、この姿を私の愛しいあの子達に見られてしまったら、あぁ、どうしてこんなに大きい毒虫に変わってしまったの?変わるならもっと蝶々とかなにか美しい虫にならなかったの?
「…まふゆ?」
「…」
奏が、きた。私の姿を見て、呆然と、私を見ていた。
「まふゆ、じゃないよね。でも、でも、あれ?毒虫…まふゆを食べたの?…違うよね、まふゆ?どこにいるの?部屋に毒虫がいるよ」
胸が、苦しい。締め付けられそう。違うよ、奏。私はここにいるよ。あなたの目の前にいるのに…声は出せる。けど、声を出して虫の正体が私だと知った時奏は、なんて言うのか考えたくなくて、考えられなくて、ただ怖くて言い出せなかった。
ー私はただ私を探している奏を奏の目の前で見ることしかできなかった。
「奏、なにか音がしたけど…ぇ」
「うわぁっ!?毒虫!?まふゆは!?無事なの!?奏、聞いてる!?」
絵名も、瑞希も、来てしまった。いずれ来てしまうことは知っていたけど。
私は一歩前に出た。奏たちの方に近づいた。『私はここだよ、ここにいるよ。』
そう伝えたいのに、うまく声が出せない。
「近づいてき、こないで!」
虫が苦手な絵名は持っていたりんごを私に投げつけてきた。体が朝比奈まふゆだったらなにも、なにも投げつけてこないのに。
ううん、毒虫は私だよ。なんて言えない私の弱さのせい。
ーどうかりんごを投げつけないでー
「りんごを投げつけないでっ!!」
「え、今の声…」
今はどんなふうに見えていますか、醜いですか?それもそっか。ごめんね、ちっとも上手に生きてあげられなくって。
奏たちの反応を見たくなくて、私は走り出した。家を出た。走り出したらもう獣さ。でも、もういい。もう、
だれも、私を見ないで
変身×ザムザ
コメント
2件
おお…最高ですね(?)