久しぶりのオフ、君の好きな甘めのカフェラテを持って待ち合わせ場所へ向かう
普段は出不精な俺だけど、「見たい映画がある」と言って君を誘ってみた
珍しく余裕を持ってつくと、そこにはもう君の姿
スマホの画面を見ながら前髪なんて直しちゃって
かと思えば、きょろきょろ周りを見渡しちゃって
ほんと、かわいいなー 俺の彼女
しばらく近くで見守っていると、こちらに気づいた様子で慌てて駆け寄ってくる
あ、新しいパンプス、俺カラーじゃん
「おかめさん!いつからいたんですか?」
「えー?いつだろうねぇ」
「声かけてくださいよ」
「ふふふ、ごめんごめん」
はい、とラテを手渡せば、一瞬花が咲いたように君は笑う
こちらも頬を緩めると、君はそれに気づいて顔を逸らす
「映画まで時間あるから、ぶらぶらしよー」
手を取り歩き出すと、君はちょこちょこと俺の横をついてくる
「今日の服もいいね、パンプス新しいやつでしょ?」
「ありがとうございます、ちょっと冒険してみました」
パンプスに合わせたタイトなロングスカート
落ち着いたカラーのブラウスにカーディガン
綺麗に巻かれた髪に、揺れるピアスがよく映える
でも俺は知ってる
これが本当の君じゃないってことを
初めて会ったのは、ダンスのイベントだった
旧友の妹として紹介された彼女は、慣れない場所でわたわたしていて
なんだか小動物みたいで放っておけずお世話をしていたら
気づいたら好きになっていて、今に至る
やや年齢が離れているから、出先では兄妹に間違われることがあった
いつだったか、逆ナンしてきた女性に「妹さん?」なんて言われたもんだから
元々デートの日は落ち着いた服が多かったけれど、どんどん大人びたものに変わっている
俺に似合う女性になりたいと頑張る彼女がいじらしくて、最初は嬉しかったけれど
大事な彼女ですから?そこは遠慮しないでほしいんだけどなあ、なんて
映画も見たいっちゃ見たいんだけど、半分は口実で
こっちのショッピングがメインだったりしてね
「あ、この店入ってみようよ」
飲み終わったカップを捨てて、本日の目的地
友人の特権で君のお兄さんに写真なんか見せてもらっちゃったりして
好みは把握済みなんですよ、ずるい大人だからね
「え・・・おかめさん、このお店」
「んー?ちょっと気になってたんだよねぇ」
躊躇する君の手を引いて店内に入ると、そこには男女どちらも着用できるカジュアルなデザインが並んでいる
今日の彼女の服装とは真逆だけれど、本当の君にはどストライクなはずだ
「おっ、このパーカーかわいくない?今俺が着てるやつとちょっと似てる」
こっちのパンツもいいよねー、なんて 早速彼女に似合いそうな服を物色していると
なんとも言えない表情で、遠慮がちに彼女が聞いてきた
「・・・おかめさん、こういう服のほうが好きなんですか?」
「今日の服も好きだよ、もちろん でも君が本当に好きなものを着てほしいんだよね」
あ、この服も似合いそう
手に取ったオーバーサイズのロンTを彼女に合わせようと振り返ると
ぐっと涙を堪えた君がいた
「・・・え、◯◯ちゃん?」
「・・・わたし・・・ちょっと・・・・・」
「・・・一旦、出ようか」
人通りから外れた路地まで君を連れて行くと、こらえきれなかった涙がはらはらとこぼれた
ああ、そんな泣き顔もかわいい、なんて
俺も存外に重症かも
「・・・◯◯ちゃん、ごめんね」
「ちがっ・・・あの!ごめんなさい・・・わたし」
「ごめん、本当に。まず話をするべきだったね
今日の服とか、今まで俺のために頑張って大人っぽくしてくれた◯◯ちゃんも素敵で大好きだよ
でもそれ以上に、俺のためだからって無理させたくなかったんだ
俺が好きになったのは、お兄さんや友達と一緒にケラケラ笑って
俺のダンスを見て、口を開けてびっくりする◯◯ちゃんだから」
大人びた服装やメイクをするたびに、本来の屈託ない笑顔が消えていくようで怖かった
かわいいかわいい君がどんどん俺の知らない女性になって
いつか俺の手を離れて、別の誰かのところにいってしまうようで
すっぽりと胸の中に収まって震える彼女を抱きしめながら
俺は思っていたことを全部ぶちまけた
ゆっくりと顔を上げる君と目が合う
それだけで愛おしさが爆発して、大人の仮面は崩れていく
「わたしこそ・・・おかめさんに似合う女性になりたくて
さっきのお店の服、本当にタイプで
でも、今まで頑張ってきたのは何だったんだろうって、無駄だったなって思っちゃって」
ごめんなさい、と謝りながらもう一度俺の胸に顔を埋める君
そっと髪を撫でると、もっと、と俺の手を掴んで頭をグリグリと押し付けた
「・・・かわいい」
「・・・もう、今真面目な話してるんです」
もう一度顔をあげた君と、どちらともなく口づける
「・・・好きな服、着ます だから嫌いにならないで」
「ならないよ、絶対 どんな君でも離れられない
でも、これからは無理しないでね、約束」
君の涙を拭って、もう一度唇を落とした
あーもう、君が思ってる以上に俺は愛してるんだよって
どうやったら伝わるかな
そんなことを考えていると、君はにっこり笑って口紅をぬぐった
「メイク、直してきます そしたらもう一度、さっきのお店に連れて行ってくれますか」
「!!!・・・もちろん、一緒に選ぼう」
もう背伸びなんてしません、と微笑む彼女をもう一度抱きしめて
俺も、なんて言葉にすると
「おかめさん、背伸びすることなんてあるんですか」
と不思議そうに聞かれた
「・・・あるよ、大好きな君の前ではかっこつけたくなっちゃうお年頃ですから?」
「ふふ・・・なんですか、それ」
「・・・今日さ、服買ったらうちおいでよ」
「映画はいいんですか?」
「うん、ちょっと我慢できないかも」
手首にそっと口づけると、君は真っ赤になって目を見開いた
あー、ほんとかわいい
今夜からはもう、余裕ぶるのやめよう
そんなことを考えながら、君の手を引いて歩き出した
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