「 おにいさん 、見てる ? 」
2025 年 8 月 31 日 午前 0:00
東京の中心で 、僕は
あなたが撃つはずだった花火を
打ち上げました 。
自分の年齢すら分からない 。
髪は伸びきってボサボサで服は雑巾みたいに汚れきっている 。
人の来ない公園で僕は一人蹲る 。
迎えに来るはずのない母親を
永遠と思える時間待ち続ける 。
僕を見つけた人々は
「 汚い 」なんて残酷な言葉をぶつけてくる 。
自分の運命に抗いたくて 、もがいて 、諦める 。
そんなことを繰り返して 、繰り返して 、いっその事派手に暴れちゃおうかななんて 。
馬鹿な夢を見ていた 。
そんな中 、一人が僕に気づいてくれた 。
「 少年 、生きてる ? 」
その日は台風の影響で 、豪雨と暴風に雷も鳴っている嵐のような日だった。
黒い合羽を来て 、滑り台の下に隠れている僕を覗き込んできた 。
驚きと安心と色々な感情が混ざって声の出し方すら忘れちゃって 、
唯 、只管に見つめた 。
「 あー、育児放棄てきな ? 」
「 少年 、ウチ来る ? 」
僕は初めて 、暖かなシャワーとお湯に浸かって 、ふわふわな泡に埋まって 、声が聞こえにくくなる程の風に吹かれた 。
「 … おにいさん 、 」
生まれて初めての親切心で戸惑いに溢れて 、困ってしまう 。
「 はは 、随分とイケメンじゃん 」
少し低めの声に 、渇いた笑い声 。
「 少年 、名前はなんて言うの ? 」
おにいさんは僕の名前を尋ねた 。
頭を回して 、正解を探した 。
「 … 約立たず 。 」
人生で一番言われたその名前 。
候補は何個か在るけれど 、どれが名前かはよく分からない 。
「 それは名前じゃないよ 。 」
「 他に 、君の名前は ? 」
困ったように眉を下げる
しゃがんで目線を合わせる
思いついたように 、口を横に伸ばして歯を見せる
「 わかんない 」
期待に応えたくて 、捨てられたくなくて必死に出した応えはおかしくて 。
何があっても変わらなかった僕の顔が歪んだように水が流れた 。
「 そっかそっかー 」
また眉を下げて笑う
僕の頭に手を当てて髪をぐしゃぐしゃにする
母親と似たようで違うその暖かさに
心が暖かくなった
「 じゃあ 、おにいさんが名前を決めてあげようか ! 」
「 ほんと 、? 」
それから何日もおにいさんは四角い物を何回も触って 、天井を見上げて 、僕にたくさんの質問をして決めてくれた 。
「 けってーい !! 」
紙を隠しながら僕の目の前に明るく登場したおにいさんはニコニコしてる 。
「 少年の名前は 」
「 ちか 」
‘ ちか ’ その響きに酷く懐かしい気がして 、親近感が湧いて
また 、一粒水を落とした 。
「 いい名前だろー? 」
「 意味もちゃんと考えたんだよ 」
「 知りたい ? 」
「 うん !! 」
嬉しくて 、幸せってこんな感じかなって思って僕はおにいさんみたいな笑顔を真似した 。
「 まず 、ちかは存在価値ある!!ちゃんと自分の価値をわかって欲しくて 、価値を反対にしたんだ 。 」
「 あと 、俺と誓って欲しいこともあるし 、千の花みたいに綺麗で鮮やかでいて欲しくて 、 」
おにいさんが言った言葉は難しくて 、よく分かんなかったけれど僕のことを想うその気持ちは伝わって抱き着いた 。
「 じゃあ 、今日は2024年の8月28日だからー 、これがちかの誕生日ね 。 」
カレンダーの今日の日付に赤い丸を付けた 。大きな花丸を
「 おにいさんの名前は ? 」
「 秘密 」
「 おにいさんの誕生日は ? 」
「 … 8月31日 」
「 おにいさんの好きな物は ? 」
「 んー 、花火 。 」
真っ白い雪の上に足跡を踏みしめていく 。
息を吐くと白い息が出来て 、空へ上昇する 。
もうすっかり 、慣れてしまった笑顔と涙
あなたのおかげ 。
市役所に行ったらさ 、僕13歳らしいよ
本当の名前は葉月らしいよ
でも僕はちかの方が合ってる気がするんだ
あなたからの手紙を見ると 、
もうあなたが居ない事を思い出して辛くなるんだ 。
この莫大な量の恩は 、どこに返せばいいの ?
どうすれば 、あなたは戻ってくるの ?
あなたがいなければ知らなかった悲しみも辛さも寂しさもあなたの為だけに使う 。
東京は雪が降らないからさ 、
代わりにあなたの故郷の北海道で
あなたの骨を埋めるよ 。
2024 年 12 月 19 日 午後 9:00
命の使い道を決めた 。
あなたから教わった全てを
あなたに使うよ 。
そして 、あなたの元へいくよ
あなたの誕生日の0:00分に
僕はあなたが好きな花火という名の爆弾を東京 、新宿へ仕掛けた 。
高すぎるビルの屋上でその瞬間を目に焼き付けた 。
「 おにいさん 、見てる ? 」
隣にはあなたの命を奪った奴が呑気に眠る 。今から僕と旅に出るというのに 。
あなたの手紙には
あなたの全てが詰まっていた
ちか 、
はつきへ
はつきは 、自分の価値を理解しろよ 。
こんな俺みたいにならないで
だいすきだ 、はつきを誰よりも 。
はなびより 。
手紙には無数のシミと 消した跡 。
8 月 31 日
新宿では爆発により多大な影響が出ており 、電車は一部通行止め
また 、10代男子と現在指名手配中の男一人が転落死したとみています 。
Mint ‘scontest
一次創作部門
コメント
14件
やっとコメントできるーーー!! わーーいだいすき愛してる!!!!
大好き超えて愛してる 待ってえ待って無理です( 13歳でおにいさんと自身について市役所で調べてもらったんだね… 1人で行く勇気ないから凄い🥺 爆弾撃って誕プレっていう想像はなかったなー、 読めば読むほど深い…好きです🫶🏻💓