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ぺしぺし! ぺしぺし!
『おひる、はやく、うれしい、おきる、ごはん、あそぶ』
「うん……? ああ、眠っていたのか。今何時だ……」
朝風呂から上がった俺はそのまま基地の私室へと入った。
バフッ! とベッドに倒れ込んで、いろいろと考えているうちに、眠ってしまっていたようだ。
「もうすぐ昼になるのか……。腹へったし、久しぶりに何か作ってみるか。 シロは何食べたい?」
ベッドの上で軽くストレッチをし、俺たちは基地の台所へと向かった。
…………誰もいないキッチンを見わたす。
シンクや調理作業台は水滴ひとつ、塵ひとつ残さずキレイに片付けられていた。
(ふむ、家の影たちも、ちゃんと綺麗に使ってるみたいだな)
さて、何を食べようか?
材料庫や冷蔵庫を覗きながらしばし迷った俺は、簡単でおいしいパスタを作ることにした。
………………
「ゲン様おやめください! ゲン様の手を煩わせる訳にはまいりません。どうぞ我々にご指示なさってください!」
フウガや影たちがキッチンに集まってきた。
「まあまあ、そう言わずに見ておけ!」
生麺にしろ乾麺にしろ、向こう (クルーガー王国) の人間にパスタは馴染みがない。
ちょうどいい機会でもあるし、俺はパスタの作り方をみんなに教えることにした。
乾麺を使うのですごく簡単だ。
寸胴鍋にお湯を沸かし麺を茹でていく。
大事なのはこの茹でる時間。キッチンタイマーを使ってしっかりと時間を計る。
フライパンを熱したら、少量の水に固形コンソメを溶かし入れる。
あとはそのスープに麺をからませ塩コショウで味を調えたら皿に盛りつける。
最後に、ちょいっとバターを乗せたら出来上がり。
リビングにいたメアリーやマリアベル、お風呂の掃除をしていたキロに声をかけると、みんなが大食堂に集まってきた。
「我々はご主人と同じテーブルには座れません!」
そう訴えるフウガたち。
俺やメアリー、マリアベルと同席することをためらっているようだ。
「ここは王国ではない、日本だ。そのようなことに拘る必要はないぞ。それに早くしないと、せっかく作ったパスタが冷めてしまう」
クルーガー大国の王女であるマリアベルも、大侯爵令嬢であるメアリーも、そんなことこれっぽっちも拘ってないのだから、まったく問題ないのだ。
それに、別々に食べると後片付けだって大変だろう?
………………
俺の作ったパスタはすこぶる好評だった。
『旨すぎて全然足りない!』 キッチンに行って作り足しているものまでいた。
パスタはバリエーションが豊富なのもいいよね。
『ほうれん草や玉ねぎを入れたり、卵の黄身と和えたり、アサリに唐辛子なんかも旨いんだぞ』 そう教えておいた。
これなら、普段忙しい影たちも、簡単に美味しい食事をとることが出来るだろう。
昼食のあとはみんなで楽しく談笑していたが、そろそろヤツ (健太郎) を迎えにいかなくてはならない。
シロを連れて表にでた俺は、参道の石階段を下りていく。
健太郎が住んでるマンションまでは歩いて10分程の距離。
シロをマンションの前で待機させ、インターホンに部屋番号を入れて押した。
――ピンポーン!
「………………」
――ピンポーン!
「………………」
インターホンを鳴らす。……鳴らす。……鳴らす。……鳴らす。
「ふぁ~~~い、誰?」
「俺だ、開けろ!」
「えっ、もう来たんすかぁ~?」
ウィーンと自動ドアが開く。静かなエントランスを抜け、俺はエレベーターに乗り込んだ。
「ほれ、忘れものだ!」
部屋に入った俺は、ドーンと車椅子をリビングへ出した。
「うぉおーい! ビックリした。いま何処から出したんすか?」
両手と片足を上げて、半身で仰け反っている健太郎。
「なんだよー、昨日も見ただろう? インベントリーだよ」
「……あんた何者っすか。まさかの E. B. E?」
(Extraterrestrial Biological Entity 地球外生命体)
「ハハハッ、まぁ似たようなもんだな。それに昨日も言ったが俺のことは師匠と呼ぶように。わかったな!」
「へいへい。どうせ逃げることって出来ないんすよね。地獄の底まででも追っかけてきそうで、怖いっす!」
「さすがに俺でも地獄までは無理だな。しかし、異世界までなら追っかけていくぞ」
「ホントなんなんすか……」
ブツブツ言いながらも支度をはじめた健太郎。
………………
「師匠、用意できたっす」
「よし、今日は歩いていくからな」
「えぇ~、マジっすか」
「おおマジだ。お前はもう歩けるからな。それに自分の足で外を歩いてみたいだろ?」
「そうっすね! 師匠、行きますよ!」
そう言うと、健太郎はさっさと出ていってしまった。
お、おい、ちょっと待て! 戸締りはどうすんだよぉ。
……やれやれ。
ベランダの鍵よーし、ガスよーし、電気よーし、玄関のカギは……これかな?
シューズボックスの上に置いてあったカギで玄関の扉を締め、先に行ってしまった健太郎を追いかけた。
「やあ、健太郎くんか。いらっしゃい! これからもしっかり励むんだよ」
「うっす!」
神社に戻ってきた俺たちは社務所に顔をだし、茂さんに挨拶。
そのまま母屋の居間にあがらせてもらった。
すると健太郎のヤツ、いきなり腹へったとか言いだしたのだ。
「…………」
まあ、帰ってから寝るばかりで、ろくに食べてないのかもしれないな。
――しょうがない。
牛丼弁当に明太マヨネーズをぶっかけて出してやると、
「おかわり!」
「おかわり!」
うまそうに3つも平らげやがった。
「ハハハハハッ、すっごい食欲だな!」
俺も高校生の頃はこんな感じだったよなぁ。
とにかく、すぐ腹が減るのだ!
『いま、食べたばかりでしょ!』 お袋になんど言われたことか。
今度からはコヤツ (健太郎) の分も考えて、牛丼をキープしておかないとな。(笑)
と健太郎の食欲に、
まだ、この時までは笑って済ませる程度だったのだが……。
さ~て始めるとするか、
「……あれ? 健太郎どこいった!?」
忽然と姿を消した健太郎。
今度はトイレなんだそうな。
はぁ――っ、食ったり出したり、まったく忙しいヤツだ。
………………………………(トイレなげーよ!)
ようやく戻ってきた健太郎。
魔力操作についての説明をおこない。その場で座禅を組ませると、訓練のやり方を教えていく。
シロの力を借りて、魔力感知も実践させた。
「あっ師匠! {鑑定を獲得しました}って、いま……」
「おお、そうなのか? スキル獲得おめでとう! ”鑑定” は有用なスキルではあるんだが……、レベルが上がるまでは過度の期待はしないように」
「へへへ師匠。どうやったら使えるんすか?」
「自分の手を見て ”鑑定” と念じてみろ」
「おし、鑑定!」
―― ”ケンタロウ・17歳” ――
「師匠……、名前と年齢しか出ないんですけどぉ」
「まあ、最初はそんなもんだろ。期待はするなと言っただろうが」
「でも師匠~~~。なんとかなりませんか~~~」
「だ――――っ! わかった、わかったから。その上目遣いはやめろー。まじでキショイから!」
「キショイとか、師匠ひどいっす!」
「シロの背に片手を置いて、もう一度自分を鑑定してみろ」
「それじゃあシロさん、おねしゃっす。 鑑定!」
ケンタロウ・クドウ Lv.2
年齢 17
状態 通常
HP 42⁄42
MP 21⁄21
筋力 22
防御 21
魔防 22
敏捷 22
器用 20
知力 21
【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解
【スキル】 魔法適性(聖・火・雷・氷)鑑定(3)
【称号】 受け継がれし者、勇者、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
「ああ、見えた見えた! ……これって何んというか、ゲームのステイタス画面みたいっすね」
「そっかそっか、良かったなぁ。あとは地道に能力を伸ばすしかないぞ。頑張ってな」
「ちなみにシロさんってどれくらいなんすか? 見てもいいっすか?」
「ワン!」
「ほんじゃまぁ失礼して……、 鑑定!」
シロ Lv.17
年齢 ー
【契約者】 ゲン・ツーハイム
HP 2168⁄2168
MP 1960⁄1970
筋力 795
防御 714
魔防 860
敏捷 673
器用 420
知力 710
【特殊スキル】 身体頑強 状態異常無効 感覚共有(超)
【スキル】 鑑定(7) 魔法適性(全) 魔力操作(9)
【魔法】 風魔法(7)火魔法(7)氷魔法(7)聖魔法(9)回復魔法(9)結界魔法(7)身体強化(3)雷魔法(4)
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
「えぇっと、Lv.17っすか。そこまで高くはないっ………………はあっ?」
「どうだ見えたか? スゲーだろう。聖獣フェンリルはもともとの基準が違うからな」
「聖獣……。基準……。それなら師匠は……」
「んっ、なんだ? 俺のも見るか?」
「は、はい。いや、今は止めとくっす……」
「そうかぁ、いつでも言え。見せてやっから」
まあ、鑑定があれば自分のステータスも確認できるし、励みにはなるだろう。
それから夕方までは一緒にダンジョンに潜って探索をおこなった。
夕食はみんなで食卓を囲む。
今日は慶子 (けいこ) もダンジョン探索に参加していたので、一緒に夕食をとっていた。
「まぁ幼馴染み! そうだったの。私はてっきり紗月 (さつき) ちゃんの彼氏だとばかり思っていたわ」
「そ、そーすか。てへへへへ」
「もう慶子さん、冗談言わないでくださいよぉ。すぐに人生を諦めてしまうような軟弱者に私は靡きませんよーだ!」
「それは、うううっ……」
紗月に撃沈され、海の底に沈んでいく健太郎。
「でも若いんだし、まだまだこれからじゃない。頑張って見返せばいいのよ」
「そうっすよ、見ててください師匠。俺の眠れる底力ってやつを!」
慶子がエールを送ると、健太郎は拳を握りしめ、再び浮上してきた。
はいはい、浮き沈みの激しいヤツ。
そのやる気は俺じゃなくて紗月に見せてやれよなー。